「事業承継に悩む理由は?」
「事業承継の課題を解決する方法は?」
事業承継では、経営者の高齢化や後継者不足、後継者の育成の難しさ、資金や税金の負担など、さまざまな課題が発生します。
特に中小企業では、半数以上が後継者不在という深刻な状況に直面しており、準備不足のまま引退時期を迎えるケースも少なくありません。
今回は、「事業承継における課題」や「事業承継の課題を解決する方法」について詳しく解説します。
これから事業承継を検討している方や、将来に備えたい経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
監修者

代表理事
小野 俊法
経歴
慶應義塾大学 経済学部 卒業
一兆円以上を運用する不動産ファンド運用会社にて1人で約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント・セキュリティプリンティング会社を設立(後に2社売却)。
その後M&Aアドバイザリー業務経験を経てバイアウトファンドであるACAに入社。
その後スピンアウトした会社含めファンドでの中小企業投資及び個人の中小企業投資延べ16年程度を経てマラトンキャピタルパートナーズ㈱を設立、中小企業の事業承継に係る投資を行っている。
投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。
事業承継における課題

事業承継における課題は、以下の通りです。
- 経営者の高齢化
- 後継者不足
- 後継者の育成の難しさ
- 資金・税金の負担
それぞれの課題について紹介します。
経営者の高齢化
中小企業の経営者年齢は過去20年間で50代から60~70代へと大幅に上昇しており、現在の平均年齢は60.5歳に達しています。
経営者年齢のボリュームゾーンも1995年の47歳から2015年には66歳まで上昇し、約20歳も高齢化が進んでいます。
さらに深刻なのは、60歳以上の経営者のうち半数程度が事業承継の準備を進めていない現状です。
引退平均年齢は約70歳となっているものの、後継者不在により引退したくても引退できない経営者が多く存在しています。
後継者不足
事業承継における後継者不足は、現在の日本で最も深刻な経営課題となっています。
全国の企業の半数以上が後継者不在の状況にあり、多くの経営者が将来への不安を抱えています。
後継者不足が起こる主な理由は、少子化による候補者の減少と事業の将来性への不安です。
従来は親族への承継が一般的でしたが、子どもの数が減り、さらに経営者になることを望まない若者が増えています。
また、経営環境の変化が激しく、デジタル化への対応や競争の激化により、事業を引き継ぐことへの負担感が高まっています。
後継者の育成の難しさ
事業承継において後継者の育成は非常に困難な課題です。
経営スキルの習得から人脈づくりまで、座学では学べない実践的な能力を身につけるには長期間を要するためです。
育成する人材自体が不足していることも大きな問題となっています。
転職市場が活発な現在では、候補者として育成しようとしていた人材が転職してしまうケースも発生しています。
また、事業承継について正しく理解していない経営者が多く、適切な育成計画を立てられないことも課題です。
資金・税金の負担
事業承継で一番悩むのは、資金や税金の負担がとても大きいことです。
なぜなら、経営を引き継ぐときには相続税や贈与税が発生し、まとまったお金が必要になるからです。
たとえば、後継者が会社の株式や資産を受け取る際、相続税や贈与税が高額になることが多いです。
資金が足りないと、融資を受けたり、事業承継税制を利用したりする必要が出てきます。
事業承継の課題を解決する方法

事業承継の課題を解決する方法は、主に4つあります。
- 計画的に事業承継の準備を進める
- M&A(合併・買収)を活用する
- 事業承継税制や補助金など公的支援を活用する
- 専門家や支援機関へ相談する
計画的に事業承継の準備を進める
事業承継を計画的に進めることが会社の未来を守る最善策です。
準備が遅れると後継者不足やトラブルが発生しやすくなり、経営の安定が損なわれるからです。
計画的に事業承継の準備を進める方法
ステップ | 内容 | ポイント |
---|---|---|
現状把握 | 経営者の資産や会社の財務状況、従業員数などを整理する | 後継者候補もリストアップする |
関係者の意思確認 | 後継者候補や親族、役員、従業員の意見を聞く | 周囲の理解を得るために対話を重ねる |
承継方法・後継者確定 | 親族内・社内・第三者承継のメリット・デメリットを考える | 後継者を決めて承継方法を選ぶ |
計画書作成 | 経営理念や経営計画、承継時期、課題、解決策を明文化する | 反発や資金面の課題も洗い出して記載する |
進捗管理 | 実施時期や課題解決策を時系列で整理し、進捗を管理する | 5年から10年程度の長期スパンで作成し、随時見直す |
例えば、経営者と後継者が事前に話し合い、承継計画書を作成し、課題を明確にしてから行動すると、関係者の理解も得やすくなります。
やはり、早めの準備が円滑な事業承継のポイントです。
M&A(合併・買収)を活用する
M&Aを活用すると、事業承継の課題を解決しやすくなります。
たとえば、オーナーが高齢で後継者がいないとき、M&Aを使うことで、他社へ事業を譲り、従業員の雇用や取引先との関係も維持できます。
方法 | 特徴・メリット | 注意点・デメリット |
---|---|---|
株式譲渡 | 経営権を丸ごと引き継ぐ。手続きが簡単。雇用や取引先も維持しやすい | 負債も引き継ぐ。簿外債務に注意 |
事業譲渡 | 必要な事業だけ選んで引き継ぐ。リスクを減らせる | 手続きが複雑。規模が大きい場合は不向き |
M&A専門家に相談しながら、買い手企業とマッチングを進め、事業の成長や従業員の雇用維持を実現したケースも多く見られます。
M&Aを活用すれば、後継者不足で悩む経営者も安心して事業承継を進められます。
事業承継税制や補助金など公的支援を活用する
事業承継時は税金や資金面の負担が大きくなりやすいです。
公的支援を使うと、税金の猶予や補助金による資金援助を受けられるため、後継者や経営者の負担が大きく減ります。
支援制度名 | 内容・特徴 | 申請先・相談先 |
---|---|---|
事業承継税制 | 非上場株式の相続税・贈与税の猶予や免除 | 都道府県、税務署 |
事業承継・引継ぎ補助金 | 経営革新、専門家活用、廃業・再チャレンジ等に最大800万円 | 中小企業庁、補助金事務局 |
事業承継税制を使うと、非上場株式の相続税や贈与税が猶予または免除されます。
補助金では、経営革新や専門家活用、廃業・再チャレンジなどに対して最大800万円の支援を受けられます。
公的支援を上手に活用することで、事業承継の不安や負担を減らし、安心して経営を引き継ぐことができます。
専門家や支援機関へ相談する
事業承継の課題に悩んだ場合は専門家や支援機関へ早めに相談することをおすすめします。
経験豊富な専門家や公的機関が多角的な視点でアドバイスをくれるため、安心して事業承継の準備や実行が進められるからです。
相談先 | 特徴・サポート内容 | 相談方法 |
---|---|---|
事業承継・引継ぎ支援センター | 無料で幅広い相談ができる、公的機関で安心 | 電話・Web・来所、無料 |
商工会・商工会議所 | 地域密着サポート、専門家紹介やセミナーも実施 | 来所、無料 |
税理士・公認会計士 | 税務や会計面の相談に強み、資金調達や相続税対策も可能 | 電話・Web・来所、有料も有 |
弁護士 | 法律相談や相続トラブル対応、遺言書作成 | 電話・Web・来所、有料も有 |
金融機関 | 資金調達や財務相談、専門家紹介も可能 | 店舗・Web、無料・有料 |
M&A仲介会社・マッチングサイト | 後継者不在時のM&A支援、マッチングや契約書作成 | Web・来所、有料 |
全国には無料で利用できる事業承継・引継ぎ支援センターや、税理士・弁護士・金融機関・商工会議所など多様な相談先があります。
自分だけで悩まず、専門家の力を借りることで、事業承継が円滑に進みやすくなります。
事業承継の課題に関する相談先
事業承継の相談先は、以下の通りです。
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工会・商工会議所
- 税理士・公認会計士
- 弁護士
- M&A仲介会社・マッチングサイト
それぞれの相談先について紹介します。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、公的機関なので、安心して利用できます。
項目 | 詳細 |
---|---|
設置主体 | 国(中小企業庁・中小機構) |
対象 | 中小企業・小規模事業者(親族内・第三者承継) |
主な支援内容 | 無料相談、専門家アドバイス、M&A・マッチング支援、後継者人材バンク、セミナー開催 |
相談費用 | 無料 |
設置場所 | 全国47都道府県 |
特徴 | 公的機関、秘密厳守、経験豊富な専門家が対応 |
国が運営しているため、利害関係のない第三者の専門家が経験に基づいてアドバイスを提供します。
民間の支援機関とは異なり、自己のビジネス分野への誘導や決断を急かすことはありません。
親族内承継から第三者への引継ぎまで、あらゆる事業承継の相談に対応しており、全国47都道府県に設置されています。
商工会・商工会議所
項目 | 商工会 | 商工会議所 |
---|---|---|
根拠法 | 商工会法 | 商工会議所法 |
管轄官庁 | 経済産業省 中小企業庁 | 経済産業省 経済産業政策局 |
対象地域 | 町村区域 | 原則として市の区域 |
会員構成 | 約9割が小規模事業者 | 約8割が小規模事業者 |
事業内容 | 小規模事業施策に重点 | 幅広い事業を実施 |
商工会議所では、後継者塾や専門家による無料相談、事業承継計画の作成サポートなどを行っています。
相談者の状況に合わせて、相続や株式評価、組織体制づくりも手伝ってもらえます。
商工会でも、地域に根ざしたサポートで経営の悩みを一緒に解決してくれます。
税理士・公認会計士
項目 | 税理士 | 公認会計士 |
---|---|---|
主な業務 | 税務申告・税務相談 | 財務諸表監査 |
主なクライアント | 中小企業・個人事業主 | 大企業・上場企業 |
事業承継での役割 | 相続・贈与税対策・株式評価 | 企業価値向上・株式評価・売却価格試算 |
事業承継の相談先として最も多く選ばれているのは「顧問の公認会計士・税理士」で59.1%を占めています。
理由は、会社の成り立ちや経営者の考え方、家族構成などを最も身近で理解しているからです。
税理士は相続・贈与に関するサポートや株式評価を行い、公認会計士は企業価値向上のためのアドバイスや売却価格試算などのサポートを提供しています。
弁護士
項目 | 詳細 |
---|---|
主な役割 | 法的相談、計画策定、契約書確認、手続き代行 |
相談料 | 30分5,000円~10,000円程度 |
着手金 | 30万円前後 |
対応期間 | 5~10年の長期サポート |
主なメリット | 法的リスク回避、時間短縮、相続争い防止 |
事業承継には多くの法的手続きが必要になります。
親族間での相続トラブルや契約書の不備、金融機関との交渉など、素人では対応が困難な問題が発生するためです。
弁護士なら法的リスクを事前に回避し、スムーズな承継を実現できます。
M&A仲介会社・マッチングサイト
項目 | M&A仲介会社 | マッチングサイト |
---|---|---|
サポート内容 | 企業価値算定、交渉、契約書作成など | オンライン上でのマッチング機能 |
立ち位置 | 譲渡・譲受企業の中立 | プラットフォーム提供 |
費用体系 | 成功報酬(レーマン方式) | 売り手無料、買い手成功報酬 |
案件数 | 仲介会社により異なる | 数千~数万件 |
専門性 | 法務・財務・税務の専門家在籍 | 基本的にマッチング機能のみ |
M&A仲介会社は譲渡企業と譲受企業の間に入り、中立的な立場でM&Aを成功に導くための専門的なサポートを行います。
一方、M&Aマッチングサイトはオンライン上で譲渡企業や譲受企業を探せるサービスで、豊富な選択肢からマッチング候補を選ぶことができます。
事業承継の課題に関するよくある質問
事業承継における2025年問題とは?
2025年問題は経営者の高齢化が進むことで、中小企業の事業承継が急務となる大きな課題です。
団塊世代の多くが75歳を超えるタイミングで、経営者の多くが引退時期を迎えます。
しかし、後継者が決まっていない企業が多く、事業を引き継ぐ人がいない場合、会社が廃業に追い込まれてしまいます。
中小企業庁の調査によると、2025年までに70歳を超える経営者は約245万人に達すると予測されています。
そのうち約半数は、後継者が決まっておらず、黒字でも廃業せざるを得ないケースが増えるといわれています。
廃業が増えると雇用が失われ、地域経済や日本全体にも大きな影響が及びます。
事業承継を検討する最適なタイミングはいつですか?
事業承継の最適なタイミングは、後継者が40代前半の時期です。現経営者が50代に入ったら準備を始めることをおすすめします。
中小企業庁の調査によると、40代前半で事業承継した経営者の61%が「ちょうどよい時期だった」と回答しています。
一方、50代以降では満足度が41%に低下し、28%の人が「もっと早い方がよかった」と答えています。
事業承継には5年から10年の準備期間が必要なため、早めの対応が重要になります。
赤字・債務超過企業でも事業承継は可能ですか?
赤字や債務超過の会社でも事業承継は可能です。
経営状態が悪くても、事業の価値や将来性を見込んで引き継ぐ人や会社が現れる場合があるからです。
赤字が続いている中小企業でも、後継者が経営改善に取り組んだり、M&Aで新しい経営者が参入したりして、事業を再生できた事例が実際にあります。
赤字や債務超過の状態でも、売上アップやコスト削減、分社化などの方法を活用して、事業承継が実現したケースが増えています。
まとめ
事業承継には「経営者の高齢化」「後継者不足」「後継者の育成の難しさ」「資金・税金の負担」といった大きな課題があります。
これらの課題を解決するためには、計画的な準備やM&Aの活用、公的支援制度の利用、専門家への相談が重要です。
今回紹介した課題や解決策を参考に、まずは自社やご自身の現状を整理し、早めに事業承継の準備を始めてください。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
中小企業の半数以上が後継者不在という深刻な状況に直面している現在、事業承継の課題解決には専門的なサポートが不可欠です。
一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、後継者問題や事業承継に悩む企業オーナー様をサポートするために設立されました。
JPCAは、プロ経営者の輩出とマッチングを通じて、企業の成長と持続的な発展を支援しています。
JPCAでは、経営人材の紹介やサーチファンド機能、経営コーチング、専門家ネットワークによる総合的な支援体制を整えており、後継者選定から資本の承継、経営改善までワンストップでご相談いただけます。
事業承継や後継者問題でお悩みの方は、ぜひ一度日本プロ経営者協会までご相談ください。