後継者問題とは?原因や解決する方法を解説

後継者問題とは?原因や解決する方法を解説

「後継者問題とは何か?」

「後継者不足はどうやって解決すればいいのか?」

後継者問題とは、会社経営の跡継ぎがいないことで事業の継続が困難になることです。

この問題が深刻化している理由は、少子高齢化による後継者候補の減少や、親族が事業承継を望まないケースが増えているためです。

実際に、帝国データバンクの調査では52.1%の経営者が「後継者不在である」と回答しており、2025年には70歳を超える中小企業経営者が約245万人になり、そのうち約127万社が後継者不在による廃業の危機に瀕すると予測されています。

後継者問題を解決する方法
  • 社内で後継者を育成する
  • 外部から後継者を登用する
  • M&A(合併・買収)による事業承継
  • 事業承継の専門家やコンサルタントに相談する

今回は、「後継者問題の現状と原因」や「後継者問題を解決する具体的な方法」などについて詳しく解説していきます。

これから事業承継を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。

監修者

代表理事
小野 俊法

経歴

慶應義塾大学 経済学部 卒業

一兆円以上を運用する不動産ファンド運用会社にて1人で約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント・セキュリティプリンティング会社を設立(後に2社売却)。

その後M&Aアドバイザリー業務経験を経てバイアウトファンドであるACAに入社。

その後スピンアウトした会社含めファンドでの中小企業投資及び個人の中小企業投資延べ16年程度を経てマラトンキャピタルパートナーズ㈱を設立、中小企業の事業承継に係る投資を行っている。

投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。

目次

後継者問題とは?

後継者問題とは、会社経営の跡継ぎがいないことで事業の継続が困難になることです。

この問題が深刻化している理由は、少子高齢化による後継者候補の減少や、親族が事業承継を望まないケースが増えているためです。

実際に、帝国データバンクの調査では52.1%の経営者が「後継者不在である」と回答しており、日本政策金融公庫の調査では後継者が決定している企業はわずか10.5%で、廃業を予定している企業が58.7%にものぼります。

独自の技術やノウハウを持つ中小企業が後継者不足で廃業すると、その技術が失われるだけでなく、従業員の雇用も失われてしまいます。

また、日本の全事業者の約99.7%が中小企業であるため、この問題は日本経済全体に大きな影響を与えています。

参考:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

後継者問題の現状

日本の中小企業における後継者問題は極めて深刻な状況にあります。

2024年の調査で後継者不在率が52.1%に達しており、国内企業の半数以上が後継者不足に直面しているからです。

さらに、2025年には70歳を超える中小企業経営者が約245万人になり、そのうち約127万社が後継者不在による廃業の危機に瀕すると予測されています。

建設業では後継者不在率が全体の6割を占めるほど深刻で、業種によってはさらに厳しい状況となっています。

また、従来の親族内承継から内部昇格による承継が35.5%と親族間承継の33.1%を上回り、「脱ファミリー化」が進んでいることも特徴的です。

このように、後継者問題は多くの中小企業にとって避けて通れない喫緊の課題となっており、早急な対策が必要な状況です。

後継者不足の原因

後継者不足の原因

後継者不足の主な原因には、少子高齢化や親族内承継の減少、事業の将来性や経営環境への不安など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。

以下では、後継者不足が起きる原因について、代表的な事例を挙げながら詳しく解説します。

少子高齢化・人口減少による後継者候補の減少

日本の少子高齢化は後継者不足の最も根本的な原因となっています。

内閣府のデータによると、2025年には国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上になる計算で、14歳以下の人口は2020年の1,503万人から2070年には797万人まで減少すると予想されています。

また、これまで中小企業で一般的だった親族内承継も、子どもの数が減ったことで選択肢が限られてしまいました。

特に地方では若者が都市部に流出することで、地域経済を支える中小企業の後継者候補が著しく減少しています。

このように、少子高齢化は後継者不足を加速させる要因となっているのです。

親族や身内への承継意識の低下

親族や身内への承継意識の低下は、現代の後継者不足の大きな原因となっています。

かつては「家業は子どもが継ぐもの」という風潮がありましたが、現在では子どもに後継ぎを強制することが少なくなりました。

また、子どもが必ずしも親の事業を継ぎたいと思っているとは限らず、別の道に進みたい、あるいは親の事業に魅力を感じないなどの理由から、親族内承継を希望しないケースが増えています。

職業選択の多様化により、子どもが自ら「自分は経営者の器ではない」と事業承継を忌避するケースも生じています。

このように、親族承継への意識低下は、現代社会の価値観の変化を反映した自然な流れといえます。

事業の将来性や経営環境への不安

事業の将来性や経営環境への不安は、後継者不足の主要な原因の一つです。

経営者自身が事業の先行きに確信を持てないため、後継者候補に事業を引き継がせることをためらってしまうからです。

また、バブル崩壊やリーマンショック、経済のグローバル化などにより、中小企業を取り巻く経営環境は厳しくなる一方で、特に近年はビジネスのIT化も進行しており、新しいビジネスモデルに対応できない中小企業が多くなっています。

業績の悪化や事業継続が困難となる可能性が高いことから、子どもはもちろん社内の役職員でも事業を引き継ぎたがらないケースもあります。

事業承継ができない場合のリスク

事業承継ができない場合のリスクは、以下の通りです。

事業承継ができない場合のリスク
  • 従業員の雇用喪失
  • 多額の廃業コスト・負債の発生
  • 技術やノウハウの消失

それぞれのリスクについて詳しく解説していきます。

従業員の雇用喪失

事業承継ができない場合、最も深刻なリスクは従業員の雇用喪失です。

雇用損失は個人の問題だけにとどまらず、地域経済の衰退につながる可能性も含まれている重大な問題です。

他にも、特定の企業でしか扱っていない品物が会社とともに消失することで、その製品に依存していた企業は必然的に別の提携先を探さなくてはなりません。

それに伴い、サービスの費用変更を余儀なくされたり、提携先が見つからない場合、サービスそのものが提供できなくなる可能性が生まれます。

その結果、業績の悪化による雇用人数の減少に発展する可能性が生まれますし、同じく廃業するリスクも発生し、雇用機会の損失が更に拡大することになります。

このように、地域の製造業や建設業、小売・サービス業が廃業することで、その地域の雇用機会が連鎖的に失われる可能性があるのです。

雇用損失は単に個人の問題ではなく、その家族の生活にも深刻な影響を与え、地域経済全体の衰退につながります。

多額の廃業コスト・負債の発生

事業承継ができない場合、多額の廃業コストと負債の発生が経営者にとって深刻な問題となります。

項目内容
設備処分費用社屋や機械設備の売却・廃棄にかかる費用
従業員への退職金解雇する従業員に支払う退職金
解散・清算の登記費用会社を正式に閉じるための手続き費用
保有資産の売却コスト不動産や在庫などを処分する際の費用
個人保証による負債会社の借金を経営者個人が背負うリスク
破産手続き費用資産より負債が大きい場合の法的手続き費用

廃業コストは数百万円から1千万円を超えることも珍しくありません。

特に負債がある場合、自宅などの個人資産を売却しても返済しきれず、廃業後も働いて負債を返済し続けなければならない可能性があります。

これらの廃業コストにより、勇退後の生活が困窮するリスクも生じます。

技術やノウハウの消失

事業承継ができない場合、長年かけて積み上げてきた技術やノウハウが完全に失われてしまいます。

具体的な例として、製造業では60代から70代の技術者に依存している企業が多く、その方々が引退すると難易度の高い案件に対応できなくなります。

その結果、会社のセールスポイントは恒久的に失われ、業績面に深刻な影響が発生してしまうでしょう。

また、職人の技能や地域に根ざしたサービスノウハウなど、企業が蓄積してきた無形資産も承継されないまま消失する恐れがあります。

このように、事業承継の失敗は単なる経営権の移譲問題ではなく、企業の競争力の源泉である技術そのものを失うリスクを抱えているのです。

後継者問題の解決する方法

後継者問題を解決する方法

後継者問題を解決する方法は、主に4つあります。

後継者問題の解決する方法
  • 社内で後継者を育成する
  • 外部から後継者を登用する
  • M&A(合併・買収)による事業承継
  • 事業承継の専門家やコンサルタントに相談する

社内で後継者を育成する

社内での後継者育成は、段階的な教育プログラムと十分な期間をかけることで、確実に次世代のリーダーを育てることが可能です。

主要部門でのローテーションでは、営業部門や財務、労務などの管理部門を経験させ、事業に関する専門的知識を身につけさせます。

次に経営幹部としての参画により、意思決定や対外的な交渉を任せて責任感を育成します。

最後に、経営者の直接指導による経営理念や経営ノウハウの伝授です。

社内での後継者育成は時間がかかりますが、自社の文化や業務プロセスを深く理解した経営者を育てることができる最も確実な方法といえるでしょう。

外部から後継者を登用する

外部から後継者を登用することは、後継者不足に悩む中小企業にとって有効な解決策です。

外部登用が効果的な理由は、新しい視点や専門知識を企業に取り入れられるからです。

社内に適切な候補者がいない場合でも、経営のプロフェッショナルや同業他社での経験を持つ人材を迎えることで、企業の成長を促進できます。

また、客観的な視点で経営判断を行えるため、従来の枠組みを超えた改革が期待できます。

具体的な方法として、ヘッドハンティングやM&Aを活用した人材獲得があります。

さらに、IPOを実施することで企業の知名度と信頼性を高め、優秀な外部人材を引き寄せやすくなります。

M&A(合併・買収)による事業承継

後継者がいない中小企業にとって、M&Aは最も現実的な解決策です。

M&A(合併・買収)とは

M&A(合併・買収)とは、「Mergers and Acquisitions」の略語で、企業の合併と買収を意味する経営戦略の手法です。

項目合併買収
定義2つ以上の企業が合併契約を締結し、新たな1つの企業を設立するプロセスある企業が他の企業の株式や資産を取得し、買収企業が支配する形態
企業の統合方法複数の会社を1つに統合する手法M&Aを行う会社を存続させながら経営統合を行う手法
法人格の扱い法人格の消滅を伴う法人格の消滅を伴わない
企業の存続合併前の企業が消滅し、新たな企業が誕生買収対象企業は存続する
主な目的グループ内の組織再編、複数の子会社間での機能統合事業規模の拡大、経営ノウハウの獲得、優秀な人材の確保
代表的な手法吸収合併、新設合併株式譲渡、事業譲渡、株式交換
権利義務の承継消滅する売却側の権利義務の全てが買収側へ引き継がれる株主や経営者は変わるが、買収された企業の権利義務は基本的に維持

M&Aを活用することで、会社を第三者に譲渡し、経営陣を迎えて事業を存続させることが可能です。

これにより後継者不足による廃業を避けられ、創業者も清算時より多くの利益を得ることができます。

実際に、2025年には後継者不在の企業が127万社に達すると予想されており、国も2030年までに60万社のM&A実現を政策目標としています。

具体的な手法として挙げられるのが、株式譲渡や事業譲渡です。

近年では金融機関のM&A部門が充実し、中小企業専門のM&A仲介会社も増えているため、満足のいくM&Aを行いやすい環境が整っています。

事業承継型M&Aの潜在市場規模は約6兆3000億円に上り、2035年まで需要が増加し続ける見通しです。

事業承継の専門家やコンサルタントに相談する

後継者問題で悩んでいる経営者の方は、事業承継の専門家やコンサルタントに相談することで解決への道筋が見えてきます。

事業承継には法律や税務、財務など専門知識が必要で、経営者だけでは対応が困難だからです。

具体的な相談先として、事業承継・引継ぎセンターでは無料で相談でき、税理士や公認会計士は税務面での専門的なサポートを受けられます。

また、事業承継コンサルティング会社なら、各分野の専門家と連携したネットワークを活用して、総合的なサポートを提供してくれるでしょう。

これらの専門家は豊富な実績と経験を持ち、後継者育成から株式承継まで幅広い課題に対応できます。

後継者問題は専門家の力を借りることで、確実に解決への道筋を見つけることができるのです。

後継者問題に関するよくある質問

後継者問題に関するよくある質問をまとめました。

事業承継や後継者育成でお悩みの経営者の方、将来の企業存続について不安を抱えている方は、こちらもぜひ参考にしてください。

後継者問題に関するよくある質問
  • 後継者問題に特に悩まされている業種にはどのようなものがありますか?
  • 中小企業における後継者問題の現状や対策は?
  • 事業承継と相続はどのような関係があり、どのように異なるのでしょうか?

後継者問題に特に悩まされている業種にはどのようなものがありますか?

建設業と製造業が最も深刻な後継者問題を抱えています。

その理由は、これらの業種が人手不足と技術継承の困難さという二重の課題に直面しているからです。

後継者難倒産の統計を見ると、建設業が全体の約2割を占めて最も多くなっており、製造業も同様に高い割合を示しています。

具体例として、製造業では少子高齢化の進行により若年層の労働力が減少し、熟練技術者の高齢化が進んでいます。

その結果、技術継承の遅れやノウハウの不足が顕著となり、事業承継が円滑に進まないケースが増加しています。

建設業においても、かつて日本の高度経済成長を支えた業種でありながら、時代の流れと共に徐々に規模の縮小を余儀なくされているという厳しい現実があります。

中小企業における後継者問題の現状や対策は?

中小企業の後継者不足は深刻で、2024年時点で65.1%の企業が後継者不在という状況ですが、早期の計画的準備やM&A活用により解決できます。

解決策として、まず60歳頃から事業承継の計画を立て、親族内での後継者育成を進めることが重要です。

それが困難な場合は、従業員からの選定や外部人材の登用、M&Aによる第三者承継という選択肢があります。

また、事業承継・引継ぎ支援センターなどの相談窓口を活用することで、専門的なサポートを受けられます。

後継者問題は早期の準備と多様な選択肢の検討により解決可能であり、企業存続のためには今すぐ行動を起こすことが必要です。

事業承継と相続はどのような関係があり、どのように異なるのでしょうか?

事業承継は「経営者の存命・死亡にかかわらず、後継者が事業を受け継ぐこと」であるのに対し、相続は「死亡した人の資産や負債などの財産を相続人が受け継ぐこと」です。

つまり、事業承継は生前でも可能ですが、相続は必ず死亡後に発生します。

項目事業承継相続
発生タイミング経営者の生死に関係なく実施可能被相続人の死亡時のみ
対象となるもの経営権、会社関連の資産・負債、知的財産被相続人の全財産(現預金、不動産、借金等)
後継者の範囲親族以外でも可能(従業員、第三者)法定相続人(配偶者、子、親、兄弟姉妹)
主な目的企業の継続と発展財産の公平な分配

法人の場合、経営者が亡くなっても会社自体は相続の対象になりません。

代わりに、経営者が持っていた株式を相続することで、事実上の会社の相続を行います。

一方、個人事業の場合は、事業に関する資産自体が相続の対象となります。

したがって、事業承継と相続は関連しながらも、目的や対象が明確に異なるため、それぞれに適した対策を講じることが重要です。

まとめ

現在、日本の中小企業の52.1%が後継者不在という深刻な状況にあり、少子高齢化や親族内承継の減少、事業の将来性への不安などが主な原因となっています。

解決策として、社内での後継者育成、外部からの人材登用、M&Aによる事業承継、専門家への相談という4つの方法があり、それぞれの企業の状況に応じて最適な手法を選択することが重要です。

今回紹介した後継者問題の現状と解決策を参考に、まずは自社の状況を客観的に分析し、60歳頃から具体的な事業承継計画を立て始めましょう。

事業承継・引継ぎ支援センターや税理士、コンサルタントなどの専門家に早期に相談することで、最適な承継方法を見つけてください。

後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください

日本では経営者の高齢化や後継者不足が深刻化し、多くの中小企業が事業承継の課題に直面しています。

一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、後継者問題や事業承継に悩む企業オーナー様をサポートするために設立されました。

JPCAは、プロ経営者の輩出とマッチングを通じて、企業の成長と持続的な発展を支援しています。

JPCAでは、経営人材の紹介やサーチファンド機能、経営コーチング、専門家ネットワークによる総合的な支援体制を整えており、後継者選定から資本の承継、経営改善までワンストップでご相談いただけます。

事業承継や後継者問題でお悩みの方は、ぜひ一度日本プロ経営者協会までご相談ください。

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