製造業(メーカー)が事業承継する方法!相談先や最新動向・事例を解説

製造業(メーカー)が事業承継する方法!相談先や最新動向・事例を解説

「製造業の事業承継はどう進めればいい?」

「後継者がいない場合、会社はどうなる?」

製造業では後継者不足や技術伝承の難しさから、親族内にこだわらないM&Aや公的支援を活用する動きが加速しています。

製造業における事業承継の方法
  • 親族内承継
  • 親族外承継
  • 第三者承継(M&A)

GDPの約2割を支える製造業において、事業承継の遅れは供給網への影響も大きく、早期の準備が不可欠です。

技術や設備の引き継ぎは短期間では完結しないため、「見える化」と「計画的な準備」を前倒しすることで、黒字廃業のリスクを抑えられます。

今回は、「製造業における事業承継の最新動向」「承継方法の選び方」「成功させるためのポイント」などについて詳しく解説していきます。

後継者問題や技術継承でお悩みの製造業経営者様は、ぜひ参考にしてください。

監修者

代表理事
小野 俊法

経歴

慶應義塾大学経済学部 卒業

一兆円以上を運用する不動産ファンド運用会社にて1人で約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント・セキュリティプリンティング会社を設立(後に2社売却)。

その後M&Aアドバイザリー業務経験を経てバイアウトファンドであるACAに入社。

その後スピンアウトした会社含めファンドでの中小企業投資及び個人の中小企業投資延べ16年程度を経てマラトンキャピタルパートナーズ㈱を設立、中小企業の事業承継に係る投資を行っている。

投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。

目次

GDPの約2割を支える製造業では、後継者不足や技術伝承の難しさから、親族内にこだわらないM&Aや公的支援を活用する動きが加速しています。

技術や設備の引き継ぎは短期間では完結しないため、課題を「見える化」し、第三者の力を借りて「計画的な準備」を前倒しすることが重要です。

以下では、黒字廃業のリスクを避け、選択肢を広げるための最新動向と具体的な承継対策について解説します。

製造業における事業承継の最新動向

製造業の事業承継は「親族内にこだわらず、第三者承継(M&A)と公的支援を組み合わせて早めに準備する」流れが強まっています。

なぜなら、製造業が「我が国GDPの約2割を占め、依然として我が国経済を支える中心的な産業」とされ、止まったときの影響が大きいからです。

「製造業は2021年時点で我が国GDPの約2割を占め、依然として我が国経済を支える中心的な産業としての役割を果たしている」
引用元:経産省 ものづくり白書2023(業況)

GDPの約2割を担う製造業では、承継の遅れが供給網に波及しやすいといえます。

技術・設備・図面・取引先の信用は短期間で引き継げないため、早めに事業承継の準備をすることが重要です。

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最新動向何が起きているか目安データ
第三者承継の一般化M&Aを選択肢として検討する企業が増えています令和6年度:第三者承継の成約2,132件(過去最高)
相談の早期化まず相談して課題整理する動きが広がっています令和6年度:相談者数23,000者超
支援制度の活用費用や手続き負担を補助で軽くします「事業承継・引継ぎ補助金」で支援

例えば、事業承継・引継ぎ支援センターではM&A相談が伸び、成約も増えています。

だからこそ、先延ばしせずに「相談→方針決定→引継ぎ準備」を前倒しすると安心につながります。

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製造業における事業承継の課題

製造業の事業承継では、後継者不足・技術承継・老朽設備・資金調達が同時にのしかかることが多いです。

中小製造業では経営者の高齢化が進み、後継者不在を理由に黒字のまま休廃業・解散するケースも増えています。

課題詳細
後継者不足親族・社員ともに継ぎ手が見つからず、事業の将来像が描けない状態​
技術・ノウハウの引き継ぎベテランの暗黙知が属人化し、図面やマニュアルだけでは再現しにくい状況​
老朽化した設備・工場古い設備をどう更新し、どこまで投資して引き継ぐか判断に迷う状態​
資金・税負担への不安自社株評価や設備投資、承継後の運転資金などお金の見通しが立たない状態​

例えば地方の町工場では、社長と主要な職長が60代後半で若手が育っていないうえ、ベテランの段取りや加工技術がマニュアル化されていないという状況がよく見られます。

さらに設備は減価償却が終わった古い機械が多く、更新投資をしてから承継すべきか迷いやすい状態です。

その結果、「誰に・どのタイミングで・どの状態の会社を引き継ぐか」が決まらず、準備が先送りになりがちです。

こうした状態が続くと、後継者候補や金融機関、M&Aの相手から見て魅力が伝わりにくくなり、選択肢がどんどん狭まってしまいます。

製造業の事業承継の課題は、「見える化」と「計画的な準備」によってリスクを大きく減らすことができます。

中小企業庁の事業承継ガイドラインや各種支援機関、補助金などを活用すれば、技術継承や設備投資、M&Aの検討も含めて、第三者の力を借りながら整理していくことが可能です。

製造業における事業承継の方法

製造業における事業承継の方法

製造業における事業承継の方法は、以下の3つです。

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承継方法後継者主な特徴
親族内承継子どもや親族家業として受け継ぎやすく、会社の想いを守りやすい。
親族外承継従業員や役員会社の中身をよく知る人に任せられ、実力で選びやすい。
第三者承継(M&A)社外の第三者後継者がいなくても会社を残せて、売却益も期待できる。

それぞれの承継の方法を解説していきます。

親族内承継

親族内承継とは、子どもや親族を後継者として事業を引き継ぐ方法です。

かつて日本の中小企業では主流でしたが、近年は価値観の多様化により、親族内で後継者を見つけることが困難になっているのが現状です。

項目内容
メリット企業理念や文化をスムーズに引き継げる​

従業員や取引先からの理解が得やすい​

承継の準備を長期的に行える​

相続税や贈与税の優遇を活用しやすい​
デメリット親族内に適任者がいるとは限らない

後継者の経営能力が不足する可能性がある

相続人間のトラブルが発生しやすい

親族内承継を成功させるには、後継者候補の早期選定と10年程度の計画的な育成期間が重要です。

また、事業承継税制などの優遇制度を活用することで、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

親族外承継

親族外承継とは、従業員や役員など親族以外の人物を後継者として事業を引き継ぐ方法です。

血縁にとらわれず、意欲と能力のある人物に会社を託すことで、事業の存続と発展を図れる点が最大の魅力です。

項目内容
メリット候補者の選択肢が広がる​

業務に精通しているため引継ぎをしやすい​

経営能力のある人材を選定できる​
デメリット関係者から理解を得るのに時間がかかる場合がある​

後継者候補に資金力が必要​

経営者保証の引継ぎが難しい​

後継者を育てる時間が少ない​

親族外承継を成功させるには、後継者候補の資金調達支援が不可欠です。

金融機関の経営者保証付き融資や、事業承継ファンドの活用などにより、株式買取資金を確保する方法があります。

また、段階的な株式譲渡を行うことで、後継者の負担を軽減できます。

第三者承継(M&A)

第三者承継とは、親族や社内以外の第三者へ会社や事業を売却して引き継ぐ方法です。

製造業では、経営者の高齢化と後継者不足を背景に、親族内承継に代わる選択肢として第三者承継型M&Aが急増しています。

項目内容
メリット後継者がいなくても事業を継続できる​

従業員の雇用や取引先との関係を維持できる​

株式売却により創業者利益を得られる​

廃業コストや手続きの負担を避けられる​

買い手の資本力で設備投資や開発が可能になる​
デメリット経営統合がうまくいかない可能性がある​

期待どおりのシナジー効果が得られないケースもある​

買い手が簿外債務などの負債を引き継ぐリスクがある​

M&A仲介会社への報酬が発生する​

M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センターなどの専門機関を活用することで、適切な買い手候補の選定や交渉をスムーズに進められます。

また、PMI(買収後統合)の計画を事前に策定しておくことで、統合後のトラブルを最小限に抑えられます。

製造業の事業承継を行う流れ

製造業の事業承継は、後継者を育てる「社内承継」と第三者へ譲渡する「M&A」で、プロセスや所要期間が大きく異なります。

自社の技術や設備をスムーズに引き継ぐためには、早期の現状把握と、選択した手法に応じた計画的な準備が欠かせません。

以下では、事業承継を行う流れを解説します。

親族・役員・従業員への承継(自社内の承継)

製造業における社内承継は、以下の4つのステップで進めることが一般的です。

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ステップ主な内容所要期間の目安
事業承継計画の策定経営状況の把握

後継者候補の選定

承継スケジュールの作成
承継の5〜7年前​
後継者の教育実務経験を積ませる

経営理念の共有

外部研修の活用
承継の3〜5年前​
株式・資産の引継ぎ株式譲渡・贈与

代表権の移転

税務対策の実施
承継の1〜2年前 ​
関係者への周知従業員・取引先・金融機関への説明

信頼関係の構築
承継時から承継後 ​

製造業の社内承継では、各ステップに十分な時間をかけて進めることが重要です。

承継計画の策定段階で、自社の強みや課題、設備投資の状況まで整理しておくことで、後継者教育や資産の引継ぎがスムーズになります。

また、株式や代表権だけでなく、金融機関との融資条件や主要取引先との関係もあわせて引き継ぐ意識が大切です。

最後に、従業員や取引先へ丁寧に説明することで、後継者に対する信頼が高まり、承継後の混乱を防ぎやすくなります。

M&Aによる承継(第三者への譲渡)

製造業におけるM&Aは、以下の6つのステップで進めることが一般的です。

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ステップ主な内容所要期間の目安
M&A仲介会社への相談自社の財務状況・経営状況の把握

譲渡スキームの検討

専門家との連携体制の構築
承継の6〜12ヶ月前
事業承継先の選定候補企業の選定

譲渡条件の交渉

相互理解の深化
承継の3〜6ヶ月前​
基本合意書の締結基本的な方針の決定

譲渡価格や条件の合意

独占交渉権の設定
承継の2〜4ヶ月前​
デューデリジェンスの実施財務・法務・技術面の詳細調査

設備や資産の状態確認

リスク要因の洗い出し
承継の1〜3ヶ月前​
最終契約書の締結最終的な譲渡条件の確定

契約書への署名

クロージング条件の明確化
承継の1ヶ月前​
クロージング株式・事業・資産の引き渡し

取引金額の支払い

経営権の完全移転
承継時​

最初のM&A仲介会社への相談段階で、自社の強みや設備投資の状況を整理しておくことで、承継先の選定がスムーズになります。

また、デューデリジェンスでは製造設備や機械装置の状態が承継価格に大きく影響するため、事前に設備の状況を把握しておく必要があります。

最後に、クロージングでは取引先や従業員への丁寧な説明を行うことで、承継後の混乱を防ぎやすくなります。

製造業の事業承継を行う際の相談先

製造業の事業承継を行う際の相談先

製造業の事業承継を行う際の主な相談先は、以下の通りです。

製造業の事業承継を行う際の相談先
  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • 金融機関
  • 顧問税理士・公認会計士
  • 弁護士
  • M&A仲介会社

製造業の事業承継では、「誰に相談するか」によって得られる支援内容や進め方が大きく変わります。

それぞれの相談先には役割や強みがあり、自社の状況に合った窓口を選ぶことが重要です。

それでは、上記の相談先について順番に解説していきます。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小機構が運営する国の公的機関であり、親族内承継から第三者への引継ぎまで、あらゆる事業承継の相談に対応しています。

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サービス内容詳細
事業承継計画の策定支援後継者育成スケジュールや株式移転方法など、具体的な計画作りをサポート​
課題の抽出と分析自社の現状診断や承継に向けた課題を専門家が助言​
マッチング支援後継者不在の場合、全国のセンター間で情報共有し譲受企業を紹介​
専門家の紹介必要に応じて士業やM&A仲介会社などを無料で紹介​

全国47都道府県に設置され、商工会議所や産業支援機関など地域の拠点内に設置されています。

相談料は無料で、中小企業診断士や税理士、公認会計士などの専門家が対応するため、費用負担を抑えながら高度なアドバイスを受けられます。

金融機関

金融機関は、製造業の事業承継における資金面の課題を中心に相談できる重要な窓口です。

普段から取引のある銀行や信用金庫であれば、自社の経営状況や財務内容を既に把握しているため、状況に応じた具体的な金融支援を受けやすいという特徴があります。

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サービス内容詳細
資金調達支援相続税や贈与税の支払い資金、自社株買取資金、後継者への資金援助など、承継に必要な融資を既存取引実績を活かして迅速に提供​
自社株評価・資産評価株価の適正評価や資産全体の把握を基に、役員退職金の活用や分割対策など、承継・相続の負担を下げる方法を提案​
経営相談・課題解決承継スケジュールの立て方、経営改善相談、後継者不在時の対応、廃業手続きなど幅広い相談に対応​
M&Aマッチング支援後継者不在の場合に、信用金庫ネットワークなどを活用した承継先・買い手候補の紹介やマッチングサイトの運用​
専門家連携税理士や公認会計士など外部専門家と連携し、事業承継プランの策定から実行までをサポート​

事業承継には相続税や贈与税の支払い、自社株の買い取り、後継者への資金援助など、まとまった資金が必要になることが多く、取引実績のある金融機関であれば審査が通りやすく早期に融資を受けられる事例が多いためです。

また、銀行は財務諸表や過去の取引履歴に基づいて承継スケジュールの立て方や資金調達のアドバイスを提供するほか、自社株評価や必要に応じてM&A先の紹介も可能です。

顧問税理士・公認会計士

顧問税理士・公認会計士は、製造業の事業承継において財務・税務面から専門的なサポートを提供しています。

経営者の約7割が顧問税理士等を経営問題の相談相手と考えており、すでに顧問契約がある場合は、企業の実情を把握しているため特に的確なアドバイスが期待できます。

サービス内容詳細
事業承継方法の提案相続税や贈与税の負担を考慮した最適な承継方法やタイミングを助言
自社株式の評価と対策株価計算を行い、評価を下げるための様々な施策を提案
税務対策の立案相続税・贈与税の負担軽減計画や事業承継税制の活用を支援
納税資金の準備計画役員退職金の活用提案や株式購入費用の資金調達をサポート
株式分散への対策株式を集中させるための対策や少数株主排除を提案

長年の信頼関係があるため、心情的な悩みも話しやすい点が大きなメリットです。

会社の歴史を知る専門家として、円滑な承継をサポートしてくれます。

弁護士

製造業の事業承継において、親族間の揉め事や契約トラブルを避けたいと考えるならば、弁護士に相談するようにしましょう。

弁護士は法律の専門家であり、事業承継においては主に「紛争の予防・解決」と「契約の適正化」を担います。

特に親族内承継で起こりやすい相続争いの対策に強みを持っています。

項目内容
法的リスクの抽出株式の分散状況や工場の権利関係を整理し、将来の紛争リスクを診断
契約書・遺言書の作成株式譲渡契約書や、後継者に資産を集中させるための遺言書を法的に有効な形で作成
紛争対応・交渉代理遺留分(最低限の遺産取り分)を主張する他の親族との交渉を、代理人として行う
M&Aの法務調査第三者承継の場合、買い手・売り手企業の法的な問題点(デューデリジェンス)を調査

経営者の個人資産と会社の資産が混在しやすい製造業では、後継者以外への配慮を欠くと大きな紛争に発展しかねません。

弁護士は代理人として交渉の矢面に立つことができるため、経営者の精神的な負担も軽減されます。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、企業の「売り手」と「買い手」の間に入り、マッチングから成約までの交渉や手続きを全面的にサポートする業者です。

後継者不在により、スピーディーに第三者承継を行いたいと考えている製造業の経営者に適しています。

項目詳細
相手先企業の探索独自の広範なネットワークを活用し、自社の技術や設備を高く評価してくれる買い手を全国から探します。
企業価値の算定工場の機械設備や保有する特殊技術など、目に見えにくい資産も含めて適正な譲渡価格を算出します。
交渉・契約の調整売り手と買い手双方の意向を調整し、複雑な条件交渉や契約書の作成、スケジュール管理を代行します。

公的機関と比較して手数料は高くなる傾向にありますが、その分、成約までのスピードが速く、積極的な提案を受けられる点が大きな強みです。

候補先の提案だけでなく、手数料の算定基準や提供業務を契約前に説明してもらい、納得できなければ交渉も検討できます。

製造業における事業承継の成功事例

製造業における事業承継は、計画的な準備と専門機関の支援により成功できます。

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企業名支援機関成功のポイント
株式会社新家製作所​
石川県事業承継・引継ぎ支援センター(中小機構)後継者人材バンクを活用したことで、大手企業出身の適任者と短期間でマッチングでき、経営者保証も免除されたため、リスクなく承継を実現できました
株式会社熔工社​
大阪府事業承継・引継ぎ支援センター日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援を活用し、センターから手続きの進め方について具体的な助言を受けたため、スムーズに承継手続きを完了できました

上記の製造業事業承継が成功した要因は、公的支援機関を積極的に活用したことにあります。

事業承継・引継ぎ支援センターが後継者とのマッチング支援や手続きの助言を行い、経営者保証免除などの実務的な課題も解決しました。

また、親族内承継では10年という十分な育成期間を確保し、工場移転やITシステム刷新など経営改革と同時に承継を進めたことで、事業の成長も実現できました。

専門機関の支援と計画的な準備が成功の鍵となっています。

参考:株式会社新家製作所|第三者承継の事例紹介
参考:創業50年以上の機械部品加工の会社の事業承継

製造業が事業承継をする理由4つ

製造業が事業承継をする理由4つ

製造業の事業承継を検討すべきか悩む経営者様向けに、後継者不在や廃業リスクからみた事業承継を行うべき理由を紹介します。

製造業が事業承継をする理由4つ
  • 後継者がいないため
  • 従業員の雇用先を確保するため
  • 廃業・倒産のリスクを避けるため
  • 創業者利益を確保するため

それぞれの内容を詳しく解説します。

後継者がいないため

製造業が事業承継を考える理由の1つは、後継者がいないことです。

なぜなら中小企業では、後継者が「いない・未定」の割合が依然として高く、帝国データバンクの調査でも2024年の後継者不在率は52.1%とされています。

例えば、熟練の現場リーダーがいても経営を任せられる人が見つからず、このままだと廃業や取引縮小につながりかねません。

早めに候補者の育成や、第三者承継(M&A等)も含めて検討すると、技術や雇用を守りやすくなります。

参考:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

従業員の雇用先を確保するため

製造業が事業承継を決断する理由は、従業員の雇用先を確保するためです。

後継者不在で廃業すれば、従業員は職を失ってしまいますが、M&Aによって他の企業に事業を承継することで、雇用を守ることができます。

買い手企業にとって、M&Aの最大の目的の一つが「人材の獲得」であり、特に製造業では技術やノウハウを持つ従業員の継続が不可欠です。

そのため、買い手企業は従業員に残ってもらうことを強く望んでおり、契約書に「雇用維持の条項」を盛り込むケースが一般的となっています。

廃業・倒産のリスクを避けるため

製造業の経営者様が事業承継を検討すべき最大の理由は、長年育ててきた会社を「廃業」や「倒産」のリスクを避けるためです。

後継者不在のまま経営者が引退すると、黒字であっても廃業せざるを得なくなります。

実際に2024年には約7万件の企業が休廃業・解散しており、そのうち過半数は黒字であったにもかかわらず、後継者不在などを理由に廃業しています。

製造業の場合、廃業すると長年培ってきた熟練の技術やノウハウが一度に失われてしまうのです。

さらに、取引先や仕入先との関係が消滅し、従業員を全員解雇しなければならず、地域経済全体に連鎖的な打撃を与えるリスクもあります。

参考:2025年版 中小企業白書(HTML版) 第8節 開業、倒産・休廃業 | 中小企業庁

創業者利益を確保するため

創業者利益とは、会社経営者が所有する株式を第三者に売却した際に発生する利益を指します。

製造業では設備投資や運転資金で負債を抱えるケースも多く、そのまま廃業してしまうと何も残らない場合が少なくありません。

しかしM&Aによる事業承継を選択すれば、経営者は売却益を獲得できるため、引退後の生活資金として充当したり、新たな事業への挑戦資金にしたりすることが可能になります。

このように創業者利益の確保は、経営者が安心して引退できる環境を整え、セカンドライフや新規事業への道を開く重要な選択肢となります。

製造業の事業承継を成功させるポイント

製造業の事業承継を成功させるポイント

製造業の事業承継を成功させるポイントは、以下の通りです。

製造業の事業承継を成功させるポイント
  • 早めに事業承継計画を立てる
  • 後継者を時間をかけて育成する
  • 技術・ノウハウを見える化して引き継ぐ
  • 株式・個人保証・相続税などは専門家と整理する

それぞれのポイントについて解説していきます。

早めに事業承継計画を立てる

製造業の事業承継を成功させるには、早めに事業承継計画を立てることが最も重要です。

一般的に事業承継の準備には最低でも5年、理想的には10年程度の期間が必要とされています。

後継者の育成や技術承継、経営体制の整備など、時間のかかる多くのプロセスが含まれるためです。

特に製造業では、熟練技術や独自のノウハウを承継するために、長期的な取り組みが不可欠となります。

大まかなスケジュール

時期内容
3〜5年前自社の財政状態把握、後継者候補の決定、承継スキームの策定​
2〜3年前後継者の育成、技術・ノウハウの承継、経営理念の共有​
1〜2年前法務・税務対策、組織体制の見直し​
1年以内実行と経営移行、取引先・従業員への報告​

このように、早い段階から計画的に準備を進めることで、円滑な事業承継が可能になります。

後継者を時間をかけて育成する

製造業の事業承継を成功させるには、後継者を時間をかけて計画的に育成することも重要です。

後継者の育成には最低でも5年、十分な時間を確保するなら10年を見積もる必要があり、経営者は引退時期から逆算して育成を開始しなければなりません。

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期間育成段階育成内容
1〜2年目現場理解期製造ラインでの実務経験

各工程の作業習得

品質管理の基礎学習

現場スタッフとのコミュニケーション
3〜4年目管理職準備期チームリーダーとしての経験

取引先への同行訪問

部門間の調整業務

コスト管理の実践
5〜7年目責任者実践期重要プロジェクトの責任者

新規顧客開拓への参画

設備投資の意思決定参加

幹部会議への出席
8〜10年目経営移行期経営権の段階的移譲

金融機関との関係構築

経営方針の策定主導

後継者としての社内外への公表

このように段階を踏むことで、後継者は自信を持ち、従業員も納得して新社長を受け入れることができます。

技術・ノウハウを見える化して引き継ぐ

製造業の事業承継を成功させるには、熟練者の技術・ノウハウを「見える化」して引き継ぐことが重要です。

作業のコツが個人の経験に依存したままだと、引き継ぎ後に品質ばらつきや不良、教育の長期化が起きやすいからです。

見える化する項目詳細理由
作業の手順・判断標準作業手順書/マニュアル「誰がやっても同じ基準」になりやすい
コツ・感覚(カンコツ)動画手順書(撮影→共有)熟練者の動きがそのまま伝わりやすい
設計・加工のノウハウ3D図面+判定ルール(システム化)属人化した判断を社内で再現しやすい

見える化することで、後継者が学びやすい環境が整備され、属人化を解消できます。

早期から計画的に取り組むことで、スムーズな事業承継を実現しましょう。

株式・個人保証・相続税などは専門家と整理する

製造業の事業承継において、株式・個人保証・相続税などの複雑な課題は必ず専門家と整理する必要があります。

これらは法律や税務が複雑に絡み合い、自己判断でのミスが許されない分野だからです。

特に製造業は工場や機械設備によって資産が積み上がりやすく、知らないうちに自社株の評価額が高騰していることがよくあります。

項目専門家と整理すべき理由
株式誰にどれだけ渡すかで経営権が変わります。
株価の算出も複雑なため、税理士による正確な評価が必要です。
個人保証前経営者の連帯保証が残ると、引退後も借金のリスクを負います。
解除には銀行との専門的な交渉が不可欠です。
相続税株価が高いと、後継者に巨額の納税義務が発生します。
早めの納税資金対策や、株価引き下げ対策が求められます。

例えば、株式評価額8億円の製造業では相続税が約2億円に達するケースもあり、専門家による事前の評価と対策が不可欠です。

また、中小企業の約8割で経営者の個人保証があり、相続人全員がリスクを負う可能性があるため、弁護士や金融機関との調整が重要になります。

製造業(メーカー)の事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください

日本プロ経営者協会は、国内最大級のプロ経営者ネットワーク(1,800名以上)を活用して、中小企業の事業承継課題解決に豊富な実績を持つ組織です。

製造業特有の技術継承や設備管理の重要性を深く理解した経験豊富なプロ経営者が、親族内承継から第三者承継(M&A)まで、幅広いソリューションを提供いたします。

国内最多100件以上の事業承継案件の投資経験を持つ専門家が代表を務め、後継者育成から承継後の経営方針策定まで一貫してサポートいたします。

黒字廃業のリスクを避け、熟練技術や従業員の雇用を守りたいとお考えの方は、ぜひ一度日本プロ経営者協会までご相談ください。

日本プロ経営者協会のバナー
日本プロ経営者協会の概要
名称一般社団法人日本プロ経営者協会
設立日2019年7月
活動内容プロ経営者によるセミナーの開催
企業への経営者の紹介
経営者に関する調査・研究
書籍の出版
代表理事小野 俊法
堀江 大介
所在地東京都千代田区丸の内1-6-2
新丸の内センタービルディング21階
URLhttps://www.proceo.jp/

まとめ

製造業の事業承継は、後継者不足や技術・設備の引き継ぎ難易度の高さを背景に、「親族内にこだわらず、第三者承継(M&A)と公的支援を組み合わせて早めに準備する」流れが強まっています。

特に製造業は技術・図面・設備・取引先の信用など、短期間では引き継げない資産が多いため、課題を見える化し、計画的に前倒しで進めることが重要です。

早めに「事業承継計画の策定」「後継者の育成」「技術のマニュアル化」「専門家による株式・税務対策」といった準備を前倒しすることで、黒字廃業のリスクを避け、従業員の雇用や企業価値を守ることができます。

目次