「物流会社の事業承継方法は?」
「物流会社の事業承継における注意点は?」
物流会社の事業承継方法は、親族内承継、親族外承継(社内承継)、M&A(第三者承継・株式譲渡)、事業譲渡の4つが主な選択肢となります。
事業承継における注意点は、情報漏えいの防止、後継者の早期決定と育成、労務問題の事前解決などです。
今回は、「物流会社の事業承継の具体的な方法」や「承継時に注意すべきポイント」などについて詳しく解説していきます。
物流業界で後継者問題や将来の経営に不安を感じている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
物流業界の事業承継の現状
物流業界では、事業承継の課題が深刻化しており、後継者不在の企業はM&Aを含む第三者承継を選ばざるを得ない状況になっています。
多くの物流会社は、経営者の高齢化と後継者不足に直面しています。
加えて、ドライバー不足や2024年問題(労働時間規制強化)などで、単独での事業継続が困難になりつつあります。
そのため、親族内での承継が難しい企業は、外部への事業承継を選ぶケースが増えています。
一方で、譲り受ける大手企業や準大手企業には、全国的なネットワーク強化や中継拠点の確保などのニーズがあり、双方の事情が合致しやすいのです。
特にコロナ禍以降も物流需要は堅調で、大手企業による買収や提携が加速しています。
物流会社の事業承継方法

物流会社の事業承継方法は、以下の4つです。
承継方法 | 対象者 | 特徴 | メリット |
---|---|---|---|
親族内承継 | 子ども・孫・兄弟・甥姪など | 周囲から受け入れられやすい | 計画的な後継者教育が可能 |
親族外承継(社内承継) | 社内の役員・従業員 | 企業文化の維持 | 従業員のモチベーション向上 |
M&A(第三者承継・株式譲渡) | 社外の第三者(企業・個人) | 経営全体の一括移転 | まとまった現金取得・雇用維持 |
事業譲渡 | 第三者(部分的売却) | 必要な部分のみ切り離し可能 | 柔軟な対応・特定部門の選択的譲渡 |
それぞれの承継方法について解説していきます。
親族内承継
物流会社の事業承継で「親族内承継」は周囲から受け入れられやすく、安心して後継者教育ができる有力な手段です。
親族内承継とは、会社の経営者が自分の子どもや孫、兄弟、甥や姪など親族に経営権や資産を引き継ぐ事業承継の方法です。
経営者の子どもや親族が後継者となることで、従業員や取引先が納得しやすく、事業の継続性も高まるためです。
また、早い段階から後継者を決めやすいため、十分な教育期間を確保でき、経営哲学や業界経験を時間をかけて伝えやすいことが挙げられます。
このように、親族内承継は関係者から理解されやすく、計画的な引継ぎが可能な点が大きな強みです。
親族外承継(社内承継)
親族外承継(社内承継)とは、経営者の子どもや親族ではなく、主に社内の役員や従業員に会社や事業を引き継ぐ事業承継の方法です。
親族関係にない内部の人材—たとえば会社の役員やベテラン従業員—を後継者に選ぶケースを指し、「内部昇格」や「MBO(マネジメント・バイアウト)」「EBO(エンプロイー・バイアウト)」と呼ばれることもあります。
社内承継は、日々会社に貢献している従業員や役員が後継者となるため、会社の企業文化や現場ノウハウを維持しやすいメリットがあります。
また、他の従業員にも「自分の頑張り次第で経営者を目指せる」というモチベーション向上につながり、組織全体の一体感も生まれます。
M&A(第三者承継・株式譲渡)
M&A(第三者承継・株式譲渡)とは、親族や社内の従業員ではなく、社外の第三者(他の企業や個人など)に会社の株式や事業そのものを譲渡することで、経営を引き継ぐ方法です。
M&Aによる株式譲渡では、資産や負債、従業員、取引先など経営全体が一括移転されますので、承継時の手続きが比較的スムーズに進みやすい特徴があります。
また、売り手にとってはまとまった現金が得られ、従業員の雇用も維持できるメリットがあります。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社が事業の全部または一部を第三者に売却するM&A手法を指します。
事業譲渡では会社の一部または全部を、必要な部分だけ切り離して第三者に譲渡できるため、オーナーが経営から退きたい場合や一部の事業だけを他社に引き継ぎたい場合にも柔軟に対応できます。
後継者が身近にいない場合や、特定の地域や部門のみ譲渡したいなどニーズに合わせやすい点がメリットです。
例えば、複数の地域に事業拠点を持つ物流会社が、業績が芳しくないエリアの拠点だけを切り離して売却する事例があります。
物流会社の事業承継の事例
物流会社の事業承継の事例は、以下です。
物流業界は人材不足や後継者不足が深刻で、会社を廃業に追い込む前に「事業承継」をしっかりと考えておく必要があります。
廃業すると従業員や取引先に大きな影響が出るだけでなく、トラックや倉庫などの大切な資産も有効活用できません。
事業承継を選ぶことで、会社や社員、取引先を守りながら、新しい経営陣のもとでさらに発展する可能性も残すことができます。
物流会社の事業承継を行う流れ
事業承継には10年程度の準備期間が必要とされており、早期の取り組みが成功のポイントです。
現状把握から後継者育成まで、複数のステップを丁寧に進める必要があるからです。
物流会社の事業承継を行う流れ
経営状況の整理が完了したら、M&A仲介会社や事業承継の専門家に相談します。
資産整理が不完全な段階でも相談は可能で、早めに相談することが重要です。
専門家は会社の価値評価から承継方法の選択まで、様々な選択肢を一緒に検討してくれます。
親族内承継、従業員への承継、M&Aによる第三者への売却など、状況に応じた最適な方法を提案してもらえます。
計画が固まったら、従業員や取引先などの関係者に事業承継の方針を周知します。
同時に後継者の育成を本格的に開始し、経営ノウハウや取引先との関係を段階的に引き継いでいきます。
最終段階では、法的手続きを完了し、正式に経営権を移転します。
株式の譲渡や経営陣の交代など、必要な手続きを順次実行していきます。
物流会社の事業承継は、資産状況の整理から始まり、方向性の検討、経営改善、計画策定、実行という段階的なアプローチで進めることが重要です。
約10年の準備期間を確保し、専門家のサポートを受けながら計画的に取り組むことで、事業の継続と発展を実現できます。
物流会社の事業承継における注意点

物流会社の事業承継において注意すべきポイントは、以下の通りです。
- 情報漏えいを防ぐ
- 後継者を早く決めて育てる
- 労務問題を事前に解決しておく
対策を怠ると、取引先や従業員の信頼を失い、最悪の場合には事業の継続自体が難しくなるリスクがあります。
それでは、上記の注意点について詳しく解説していきます。
情報漏えいを防ぐ
承継の内容や予定が外部に漏れると、従業員の離職や取引先の取引中断、最悪の場合には承継自体の失敗につながるリスクがあるため、慎重な情報管理が求められます。
例えば、M&Aを利用した承継の際、情報が成約前に従業員や取引先へ漏れると、不安や憶測が広まり、優秀な人材流出や契約破談となる事例があります。
また、外部の協力なしに後継者への情報を先に伝えすぎると、社内の不満爆発や取引先離反につながる恐れがあります。
そのため、秘密保持契約を結ぶ、関係者の範囲を最小限に抑えてコントロールするなどの基本的な対策が必要です。
後継者を早く決めて育てる
物流会社の事業承継では「後継者を早く決めて、計画的に育てること」が最も重要です。
なぜなら、物流の現場や経営ノウハウ、顧客との信頼関係などは短期間で習得できるものではありません。
承継を急ぐあまり、準備や教育が不十分だと、後継者が社内外の信頼を得るのが難しく、取引や業務にも悪影響が出るリスクがあります。
社内教育では各部門のローテーション、責任ある地位での経験、経営者による直接指導を行い、社外教育では他社勤務経験やセミナー受講によって視野を広げさせる方法があります。
物流会社の事業承継では、後継者候補を見つけた時点で早急に育成計画を立て、長期的な視野で取り組むことが大切です。
労務問題を事前に解決しておく
事業承継のタイミングでは、未払い残業代や就業規則の不備、従業員への説明不足など、見過ごされていた労務トラブルが表面化しやすくなります。
例えば、過去の残業代未払いが突然請求されることや、就業規則が現状と合っていなかったことで現場が混乱するケースがあります。
こうしたリスクを防ぐため、承継前に労働環境や就業規則を見直し、労務デューデリジェンスや専門家の助言を受けておくことが効果的です。
対策 | 詳細 |
---|---|
就業規則の整備・見直し | 法改正や実態に合わせてアップデート |
未払い残業代や休暇の精算・確認 | 過去の未精算分も事前に対応 |
労務デューデリジェンス(専門家チェック) | 雇用契約や労働条件の精査 |
従業員への丁寧な説明とコミュニケーション | 不安解消・信頼構築のため、承継前から対話重視 |
問題社員の早期対応 | 適切な注意・指導でトラブルの拡大を未然防止 |
物流会社の事業承継を円滑に進めるには、事前に労務問題を一つずつ確認し、必要な是正や説明を徹底することが重要です。
物流会社の事業承継に関するよくある質問
物流会社における事業承継やM&Aを検討する際、多くの経営者が共通して抱える疑問があります。
ここでは、物流業界の最新動向やM&Aのメリット、相談先など、よくある質問とその答えをまとめました。
- 近年の物流業界におけるM&Aの件数はどのくらいありますか?
- 物流会社でM&Aを活用することでどのようなメリットを得られますか?
- 物流会社のM&Aや事業承継のおすすめの相談先は?
- 近年の物流業界におけるM&Aの件数はどのくらいありますか?
-
近年の物流業界におけるM&A件数は急増しており、2024年には年間で約120件、2025年前半だけでも約80件を超えています。
M&Aが活発化している理由は、経営者の高齢化や後継者不在への対応、2024年問題による人手不足への備え、さらにEC市場拡大による業界需要増が重なっているためです。
したがって、事業承継で悩む物流会社にとって、M&Aは急速に一般化した解決策となっているといえます。 - 物流会社でM&Aを活用することでどのようなメリットを得られますか?
-
物流会社がM&Aを活用する最大のメリットは、後継者問題の解決や事業の存続を図れることです。
実際にM&Aにより後継者がいなくても事業継続や従業員の雇用維持、資金力や効率化を実現しています。
M&Aを活用するメリット
- 物流会社のM&Aや事業承継のおすすめの相談先は?
-
物流会社のM&Aや事業承継で悩む場合は、専門のM&A仲介会社や公的機関、金融機関などへ相談するのが最適です。
相談先の種類 主な特徴 仲介専門会社 物流M&Aの経験が豊富、専門家のマッチング力が高い 公的支援センター 全国各地で事業承継・M&Aの無料相談・マッチング支援 金融機関 資金調達、士業やM&A専門家の紹介が可能 専門家(税理士等) 税務・法務面のアドバイス、相続や譲渡手続きに精通 業界団体・商工団体 物流・運送業界に詳しい情報を持つ 初めての事業承継やM&Aでは、まず無料で相談できる専門機関や仲介会社に問い合わせるのがおすすめです。
相談先ごとに比較検討しながら、自社に合った支援を選ぶようにしてください。
まとめ
物流業界では経営者の高齢化や後継者不足が深刻化しており、廃業を防ぐために「事業承継」が重要な課題となっています。
承継方法は大きく分けて、親族内承継・社内承継・M&A・事業譲渡 の4つがあり、企業ごとの事情や将来像に合わせて柔軟に選択することが求められます。
特にM&Aは後継者不足をカバーしつつ従業員の雇用維持や成長機会を生む手段として近年急増しています。
今回紹介した流れや注意点を踏まえ、経営者の方は 自社の現状を把握し、早めに専門家へ相談すること をおすすめします。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
物流業界における後継者不足やM&Aによる事業承継は、今や企業存続に直結する重要課題です。
日本プロ経営者協会は、国内最大級のプロ経営者ネットワークを活用し、事業承継や経営統合の支援に豊富な実績を誇ります。
物流業界特有の課題、ドライバー不足や2024年問題への対応、拠点運営の効率化など—に精通した専門家が、一社ごとの状況に合わせた最適な承継プランを提案します。
親族内承継からM&A、事業譲渡まで幅広く対応し、複雑な手続きや承継後の経営方針策定まで一貫してサポートいたします。
事業の将来に悩む経営者の方は、ぜひ日本プロ経営者協会までご相談ください。