「有限会社の事業承継はどうすればいい?」
「相続税や贈与税を抑える方法はある?」
有限会社の事業承継では、後継者への「株式の移転(譲渡・相続)」と「経営権の承継」を計画的に進めることが最重要であり、特例有限会社の制度を理解することで税金や手続きの負担を大きく抑えることができます。
対策なしで相続が発生すると、株式評価が上がって税金負担が大きくなり、親族間でのトラブルが起きることもあります。
特例有限会社の場合、役員構成や決議事項に独自の取り扱いがあるため、承継プランを最適化する余地も多くあります。
今回は、「有限会社の事業承継方法」や「承継にかかる費用」「税金を抑える具体的な対策」「注意すべきポイント」などについて詳しく解説していきます。
これから有限会社の事業承継を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
監修者

代表理事
小野 俊法
経歴
慶應義塾大学 経済学部 卒業
一兆円以上を運用する不動産ファンド運用会社にて1人で約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント・セキュリティプリンティング会社を設立(後に2社売却)。
その後M&Aアドバイザリー業務経験を経てバイアウトファンドであるACAに入社。
その後スピンアウトした会社含めファンドでの中小企業投資及び個人の中小企業投資延べ16年程度を経てマラトンキャピタルパートナーズ㈱を設立、中小企業の事業承継に係る投資を行っている。
投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。
有限会社とは
有限会社とは、2006年5月の会社法施行まで日本で設立が認められていた会社形態の1つです。
有限会社は、旧商法下において資本金300万円以上で設立できた法人形態でした。
株式会社の最低資本金が1,000万円だった当時、有限会社は比較的少額の資本金で法人化できたため、小規模事業者に広く活用されていました。
また、出資者全員が有限責任社員となり、会社が倒産した場合でも出資額以上の責任を負う必要がないという特徴がありました。
しかし、2006年の会社法施行により有限会社法が廃止され、新規設立は不可能になりました。
既存の有限会社は「特例有限会社」として存続しており、実質的には株式会社として扱われています。
有限会社と特例有限会社の違い
有限会社と特例有限会社の最大の違いは、株式を発行できるかどうかです。
旧有限会社は株式を発行できませんでしたが、特例有限会社は株式会社として扱われるため株式の発行が可能になっています。
| 項目 | 旧有限会社 | 特例有限会社 |
|---|---|---|
| 株式発行 | 不可 | 可能 |
| 出資者の呼称 | 社員 | 株主 |
| 最高意思決定機関 | 社員総会 | 株主総会 |
| 法的位置づけ | 有限会社法に基づく | 会社法上の株式会社 |
つまり、特例有限会社は「有限会社」という名称を残しながらも、実質的には株式会社の性質を持つ会社形態となっています。
一方で役員任期がない、決算公告義務がないなど、旧有限会社の特性も一部引き継いでいます。
有限会社が事業承継する方法

有限会社が事業承継する方法は以下の通りです。
- 親族内承継
- 親族外承継(社内承継)
- M&A
上記の事業承継方法について解説していきます。
親族内承継
親族内承継とは、経営者が自分の子どもや孫などの親族に会社を引き継ぐ事業承継の手法です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な承継先 | 子ども・配偶者・兄弟姉妹など |
| 手法 | 相続、贈与、遺言、生前贈与+事業承継税制の活用など |
| メリット | 価値観を共有しやすく、従業員や取引先も安心しやすい |
| デメリット | 兄弟間の不公平感や遺留分を巡るトラブルが起きやすい |
ただし、有限会社(特例有限会社)では株式が親族に分散すると、後継者の議決権が弱まり経営判断に支障が出るおそれがあります。
そのため、早い段階から後継者を決めて教育しつつ、遺言書の作成や事業承継税制の利用、遺留分への配慮を専門家と検討することが重要だといえます。
親族外承継(社内承継)
親族外承継(社内承継)とは、現経営者の親族以外の従業員や役員に会社を引き継ぐ事業承継の手法です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な承継先 | 社内の役員・従業員など |
| 手法 | 株式譲渡、代表取締役の交代のみ、MBO(経営陣による買収) |
| メリット | 業務に精通した人材を選べる 企業文化を承継しやすい 親族内より選択肢が広い |
| デメリット | 後継者の株式取得資金が必要 従業員間の人間関係に影響が出る可能性がある |
社内から後継者を選ぶことで業務内容を熟知した人物が経営を引き継げるため、円滑な承継が可能になります。
また、親族内承継よりも後継者候補の選択肢が多く、適任者を見つけやすいメリットがあります。
ただし、有限会社では後継者が株式や出資持分を取得する資金を用意する必要があるため、専門家と相談しながら株式譲渡やMBOなどの手法を検討する必要があります。
M&A
M&Aによる承継とは、会社の経営権を別の会社や個人に譲渡することで事業を引き継ぐ手法です。
親族や社内に適任者がいない場合でも、外部から最適な承継先を見つけることができます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な承継先 | 他の会社・外部の経営者 |
| 手法 | 株式譲渡、事業譲渡など |
| メリット | 後継者不在でも廃業せずに承継可能 売却によりまとまった資金が得られる 企業理念を引き継いでもらえる |
| デメリット | 経営権を完全に喪失する 従業員の配置転換や労働条件が変わる可能性がある 取引先との関係に影響が生じる場合がある |
創業者は株式売却の対価を老後資金などに充てやすく、従業員の雇用や取引関係も維持しやすい点がメリットといえます。
一方で、特例有限会社(現在の有限会社)は全株式が譲渡制限株式であり、株式を第三者に譲渡するには原則として株主総会の承認が必要です。
このため、早い段階から専門家と一緒に株主構成や定款を確認し、スキームを検討しておくことが重要になります。
有限会社の事業承継にかかる費用
有限会社の事業承継にかかる費用は、以下です。
| 費用項目 | 詳細 |
|---|---|
| 相続税 | 遺産総額から基礎控除を引いた額に10〜55%の累進課税 |
| 贈与税 | 生前贈与額から110万円を引いた額に10〜55%の累進課税 |
| 税理士・会計士報酬 | 事業承継全体の支援で30万円〜 |
| 弁護士費用 | 相談料・着手金・成功報酬で数十万円〜 |
| M&A仲介手数料 | 成功報酬は譲渡代金の約5%(最低報酬500〜2,500万円) |
| 登記・司法書士報酬 | 役員変更や本店移転で1件3〜4万円 |
相続や生前贈与による承継では、会社の評価額が高いほど税負担も大きくなります。
相続税
相続税は、遺産総額から基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引き、その残りに10〜55%の累進税率をかけて計算します。
有限会社の株式も他の財産と合算して評価されるため、会社の純資産や収益力が高いと課税対象になりやすいといえます。
たとえば、社長の遺産総額が6,000万円、相続人が配偶者と子1人(2人)のケースでは次のように計算します。
| 項目 | 金額・内容 |
|---|---|
| 遺産総額 | 6,000万円 |
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×2=4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 6,000万円−4,200万円=1,800万円 |
| 税率・控除 | 1,800万円は税率15%・控除額50万円 |
| 概算相続税 | 1,800万円×15%−50万円=約220万円の納税が必要 |
このように、基礎控除を超える部分にのみ相続税が課税されます。
事業承継を計画する際は、相続財産の評価額と控除額を事前に確認することが大切です。
贈与税
有限会社の事業承継で生前贈与を行う場合、後継者には贈与税が発生します。
贈与税の速算表(特例贈与財産用)
| 課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | – |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
たとえば、8,000万円の生前贈与を受けた場合、課税対象は7,890万円(8,000万円−110万円)となります。
税率55%、控除額640万円が適用され、納税額は3,699万5,000円(7,890万円×55%−640万円)です。
このように、事業承継では贈与税の負担を事前に把握し、計画的に進めることが重要になります。
その他費用
有限会社の事業承継では、相続税や贈与税だけでなく、専門家への報酬や登記手続き、M&A仲介手数料などの費用がかかります。
| 費目 | 詳細 | 目安費用の相場 |
|---|---|---|
| 税理士・会計士報酬 | 事業承継全体の現状分析〜実行支援 | 一式およそ30万円〜 |
| 弁護士費用 | 遺産分割 契約書作成 トラブル対応など | 相談料:1時間5,000〜2万円 着手金:50〜100万円程度 成功報酬:得られた利益の約10% |
| M&A仲介手数料 | 仲介業者への報酬 | 成功報酬は譲渡代金の約5%が目安 最低報酬額は500〜2,500万円程度 ※小規模案件でも最低報酬がネックになりやすい |
| 登記・司法書士報酬 | 代表者変更・本店移転などの変更登記 | 役員変更や本店移転の司法書士報酬は 1件あたり3〜4万円が相場とされています。 |
上記に加えて、デューデリジェンス(DD)費用や評価報酬、印刷・郵送などの実費も発生します。
中小企業庁の「事業承継・引継ぎ補助金」では、M&A仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用、設備廃棄費用などが補助対象とされており、条件を満たせば負担を抑えられる可能性があります。
有限会社の事業承継で税金を抑える方法
有限会社の事業承継において、どのように税金を抑えることができるのでしょうか。
実際に活用されている対策としては、以下のような方法が挙げられます。
事業承継税制を活用する
事業承継税制とは、中小企業の後継者が会社の株式を引き継ぐときに発生する「相続税・贈与税」の負担を大きく軽減するための特別な税制度のことです。
有限会社(特例有限会社)も、中小企業基本法上の中小企業で非上場であれば対象会社になり得ます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税負担 | 自社株にかかる相続税・贈与税の納税を原則100%猶予し、要件を満たせば免除されます |
| 対象 | 中小企業の非上場株式(株式会社・特例有限会社など)が対象になります |
| 手続き | 都道府県への「特例承継計画」を2026年3月31日までに提出し、そのうえで2027年12月31日までに贈与・相続で株式を承継する必要があります |
| 注意点 | 雇用維持や事業継続などの要件があり、毎年の報告や継続届出が求められます。専門家のサポートがあると安心できます |
例えば、評価額が高い有限会社の株式を子どもにまとめて贈与する場合、そのままでは多額の贈与税が発生して資金繰りを圧迫するおそれがあります。
事業承継税制を利用すれば、その税金の納付が猶予され、会社を継続して要件を守れば、猶予された税額が将来免除されるケースも期待できます。
株価を下げる対策を実施する
有限会社の自社株評価が高いままだと、事業承継のときの相続税や贈与税が大きくなってしまいます。
利益や純資産を計画的にコントロールすれば、自社株の評価額も一定の範囲で抑えられ、結果として後継者の納税額を軽減できる可能性があります。
| 対策 | 詳細 |
|---|---|
| 役員退職金を支給する | 利益と純資産が減少し、自社株評価を下げやすくなるため、功績に見合う金額を設定する必要がある |
| 設備投資・保険加入を活用する | 将来の成長に必要な投資を行いながら、一時的に利益や現預金を減らし、純資産を適切な水準まで調整する |
例えば、長年会社を支えてきた先代に退職金を支給すると、その期の利益が減り純資産も下がるため、自社株の評価額を抑えやすくなり、同じ株数を贈与しても税負担を減らせる可能性があります。
ただし、株価を下げることだけを目的とした経済合理性のない取引は、租税回避と判断されるおそれがあるので注意が必要です。
有限会社が事業承継する際の注意点
有限会社の事業承継における注意点は下記の3つです。
- 株式は譲渡制限がある
- 複数の親族に株が分散するとトラブルの元になる
- 無償譲渡でも税金が発生することがある
上記の注意点を見落とすと、承継手続きが遅れたり、親族間トラブルの原因になります。
株式は譲渡制限がある
有限会社の株式には必ず譲渡制限が設けられているため、事業承継の際には株主総会での承認が必須となります。
手続きの流れ
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1. 譲渡承認請求 | 譲渡する株式数や譲渡先の情報を記載した請求書を提出する |
| 2. 株主総会での承認 | 原則として株主総会の普通決議で承認を得る必要がある |
| 3. 決定内容の通知 | 承認・不承認の決定を請求者へ通知します |
| 4. 株式譲渡の実行 | 承認後、株式譲渡契約を締結し株主名簿を書き換えます |
なお、既存株主間での譲渡の場合は、承認手続きが不要となるケースもあります。
有限会社の事業承継では、すべての株式に譲渡制限があることを理解し、早めに株主総会の承認手続きを進めることが重要です。
複数の親族に株が分散するとトラブルの元になる
有限会社の株式が複数の親族に分散すると、経営の安定や意思決定が困難になるため、後々大きなトラブルにつながります。
株式が分散していると、経営方針や会社の重要事項を決定する株主総会で意見が割れやすくなります。
また、経営に関わらない親族が配当のみを目的として経営に口出しをする場合や、遺産分割協議がまとまらず会社の経営権が不安定になるリスクも高まります。
| 状態 | 起こりやすいトラブル |
|---|---|
| 親族が少しずつ株を保有 | 株主総会で意見が割れ、重要な決議が進まない |
| 経営に関わらない親族も株主 | 経営方針に口出しされ、後継者の裁量が狭くなる |
| 相続でさらに細かく分散 | 遺産分割や遺留分をめぐる親族間の争いが長期化 |
このようなトラブルを避けるには、事前に後継者へ株式を集中させ、他の親族には預貯金や不動産など別の財産で調整する方法が有効です。
無償譲渡でも税金が発生することがある
有限会社(特例有限会社)の事業承継では、「無償で株式を譲れば税金はかからない」と考えてしまいがちですが、これは大きな誤解です。
株式を無償で後継者へ移転した場合、税務上は“贈与”とみなされ、後継者に贈与税が発生する可能性があります。
また、名目上は有償譲渡であっても、実際の譲渡価額が時価より極端に低い場合には、その差額が「みなし贈与」と判断され、贈与税の課税対象となる点にも注意が必要です。
無償や低額での株式移転は、事前の税務確認を怠ると後継者に多額の税負担が発生するリスクがあるため、必ず専門家に相談しながら進めましょう。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
日本プロ経営者協会は、国内最大級のプロ経営者ネットワークを活用し、中小企業の事業承継や第三者承継(M&A)の課題解決に豊富な実績を持つ組織です。
特例有限会社を含む中小企業の事業承継について、親族内承継・社内承継・M&Aの選択肢整理から、税負担を抑えるスキーム検討、承継後の経営改善まで一貫してサポートします。
有限会社の事業承継や後継者問題でお悩みの方は、まずは日本プロ経営者協会へお気軽にご相談ください。

| 日本プロ経営者協会の概要 | |
|---|---|
| 名称 | 一般社団法人日本プロ経営者協会 |
| 設立日 | 2019年7月 |
| 活動内容 | プロ経営者によるセミナーの開催 企業への経営者の紹介 経営者に関する調査・研究 書籍の出版 |
| 代表理事 | 小野 俊法 堀江 大介 |
| 所在地 | 東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービルディング21階 |
| URL | https://www.proceo.jp/ |
まとめ
有限会社の事業承継は「親族内承継」「社内承継(役員や従業員への承継)」「M&A」の3つの方法があります。
承継方法や会社の状況により、必要なステップや発生する税金、注意点が異なります。
株式や出資持分の分散によるトラブル回避や税負担軽減、事業承継税制の活用など、準備できることから計画的に取り組むことをおすすめします。
ご自身の会社や状況に合った承継方法を早めに検討し、必要に応じて専門家へ相談しましょう。
