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ストックオプション付与型プロ経営者の報酬モデル

※こちらは2020年12月9日に視聴希望者限定で行われたイベントのアーカイブ記事です。

ファンド等投資会社に採用されてプロ経営者に送られる場合、必ずしもベースの給与所得+インセンティブ賞与等の給与所得に限らず、ファンドの方針によってはストックオプションや経営者による出資等のインセンティブが付与される事が数多く存在します。

特に優良案件として多くのリターンを得られた場合にはそのストックオプションによる報酬は億を超える事も。通常の会社員や雇われ経営者よりも高い報酬が期待できる場合が有ります。

今回日本プロ経営者協会では両共同代表理事による、ファンド等に採用されるプロ経営者の報酬体系の実態に加え、実際の投資会社による投資の事例を用いてどういった結果をもたらしたプロ経営者がどういった報酬を受け取ったのかを明らかにし、プロ経営者になることによって期待できる金銭的チャンスについてお伝えします。

登壇者

小野俊法氏
一般社団法人日本プロ経営者協会 代表理事
マラトンキャピタルパートナーズ(株) 代表取締役 共同パートナー

一兆円以上を運用するファンド運用会社にて約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント等を行う会社を設立(後に売却)。その後M&Aアドバイザリー業務経験を経て現職の出自となるバイアウトファンドであるACAに入社。過去の自身の投資も含め、中小企業のバイアウト投資を過去40件近く実行した経験を有し、現場経験を持つ個人におけるバイアウト投資としては日本でトップの経験数を誇る。投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。

目次

イントロダクション、登壇者紹介

堀江

ヤマトヒューマンキャピタル株式会社代表取締役、一般社団法人日本プロ経営者協会代表理事の堀江大介と申します。本日のテーマは、事業承継問題をプロ経営者によって解決していこうというコンセプトの中でも、特にご質問を数多くいただいている「お金」の話です。年俸はもとより賞与やストックオプションといったプラスαの部分を含めて、どのようなベネフィット、リターンがあるのか、あるいはどのようなリスクがあるのかといったところを中心に、お話をさせていただければと思います。

プロ経営者のキャリアのお話、転職事例については私の方でお話をさせていただき、ファンドマネージャーから見たプロ経営者の選定、ストックオプションによる金銭的ベネフィットなどについては、一般社団法人日本プロ経営者協会代表理事の小野俊法からお話をさせていだこうと思います。よろしくお願いいたします。

小野:一般社団法人日本プロ経営者協会 代表理事の小野と申します。私は代表理事の傍ら、マラトンキャピタルパートナーズ株式会社というファンドの代表取締役と務めております。(2021年4月現在)
実は私のファンドと私のキャリア全体でお世話になったプロ経営者の方が7名ほどいらっしゃって、その中の3、4名に登壇をお願いしたのですが、中小企業を経営していた中で、億単位の収入を得ていたことを社員に知られたくない、表に出たくないということでお断りされた状況にあります。ここでしか聞けない貴重なお話とはいえ、ご本人たちには言いづらいことだと思いますので、本日は我々が代わりにお話しさせていただくかたちになります。

自己紹介ですけれども、私は不動産ファンドで一時期400億円規模のファンドを一人で運用していました。そのあとに自分でやらないと儲からないということで、バングラデシュで自分のファンドをつくったり、メーカーを設立して売却したりしました。その後は「やはり会社の方が面白いな」ということでBIG4のFASでM&Aアドバイザリーを手掛けまして、10数年前からPEファンドで中小企業投資に携わっています。私の所属するPEファンドの特徴は、営業利益1億円〜4億円の小規模な案件を手掛けていることです。その一方で、会社が手掛けることのないような、より小規模な案件に関しては5件ほど自分で投資しています。これまでの投資案件は約40件で、個人でも投資を行なっていますので、個人としては国内No. 1の経験数だと自負しています。ほかにも自分でつくった会社を売った経験もありますし、自分で投資した経験もあるので、かなり多様な経験を積んでいるのではないかと思っています。続いて堀江さんお願いします。

堀江

あらためまして堀江です。私は新卒で野村證券に入社いたしまして、その後、ITスタートアップ、コンサル業界専門の人材紹介会社を経て、ヤマトヒューマンキャピタルを創業いたしました。当社はM&A、事業再生、PEファンド、ファンドの投資先のCXOに特化した人材紹介会社でして、プレイヤーとしてもこれまで約200名の転職支援をしてきました。手前味噌ですがこの領域で200名の転職を支援した人はそうはいないと思いますので、今日は是非業界の情報をたくさんシェアしたいと思います。

本日のアジェンダですが、このあと簡単に日本プロ経営者協会のご紹介をさせていただいて、その後、「ストックオプション付与型プロ経営者の報酬モデル」というテーマでパネルディスカッションをさせていただきます。最後に、最近話題になっているサーチファンドのお話ですが、弊社で考えているコミュニティ型サーチファンドについてお話しさせていだき、皆様からのご質問にお答えしていこうと思います。ぜひ最後までお付き合いください。

事業承継の時代=プロ経営者の時代

堀江

日本プロ経営者協会について、小野から簡単にご説明させていただきたいと思います。小野さん、よろしくお願いします。

小野:まず、私たちが日本プロ経営者協会を設立した背景から、お話ししたいと思います。日本企業の3社に2社は後継者がおらず、2015年に約403万社あった企業数は、2025年には320万社まで落ち込むという予測があります。今後、事業承継に対するニーズが急速に高まっていくのは間違いないといっていいでしょう。

一般的に事業承継といいますとお金の話になりがちですが、お金は世の中に溢れています。地銀さんを含めて、金融機関は金余りの状況が続いていますが、だからとって事業承継がそれほど進んでいるわけではありません。つまり、事業承継はお金の問題ではないんですね。決定的に重要なのは、むしろ、後継者がいるかどうかなのです。そして、特に中堅中小企業が第三者への事業承継を進める中で、後継者として期待されているのがプロ経営者です。いかにしてプロ経営者とのマッチングを進めるかが、スムーズな事業承継のカギを握るといっても過言ではありません。一言でいえば、現代は「事業継承の時代=プロ経営者の時代」なんです。私どもが日本プロ経営者協会を設立した理由もこの点にあります。

「事業承継の時代」のプロ経営者とは

小野:事業承継の時代におけるプロ経営者のイメージは、一般的なそれとは少し違います。プロ経営者といいますと、元日本マクドナルドホールディングス社長兼CEOの原田泳幸さんや、サントリーホールディングス社長の新浪剛史さんなど、外部から招聘されて、上場企業の再生や成長を加速させる役割を担う経営者のことを思い描く方が少なくないと思います。しかしながら、事業承継の時代における、プロ経営者のメインステージは中堅中小企業です。原田さんや新浪さんが手掛けるような上場企業の案件は一年間で数える程しかありませんが、中小企業の事業承継を主戦場とするプロ経営者には年間数千件以上のチャンスがあります。とりわけ中小企業での地味で泥臭い経営の経験、大企業の部門長や、子会社での経営の経験をお持ちの方にとっては、プロ経営者として活躍できるフィールドが広がっているのです。

続いて、事業承継のフェーズで求められる能力やスキルについて、お話ししたいと思います。私は、経営者に求められるのは「財務・会計」「ビジネス」「業界知見」「人心掌握(リーダーシップ)」の4つの力だと考えています。ただ、とりわけ中小企業の事業承継にフォーカスした場合、もっとも重要で欠かすことができないのが「リーダーシップ」です。なぜかというと、事業承継案件の中には、後継者がいないというだけで、経営には何の問題もないというケースが少なくありません。こうした場合、現状を維持することができれば、プロ経営者は最低限の役割を果たしたことになります。したがって、大掛かりな構造改革や事業改革を行なって大きな変化を起こすことよりも、社員をまとめることの方が圧倒的に重要で、それには人心掌握術(リーダーシップ)が不可欠だというわけです。人心掌握ができない人は、中小企業のプロ経営者として活躍することはできません。逆に、人心掌握に長けてさえいれば、ほかの部分については多少、目をつむることができる。それくらい人心掌握の力が重要なんです。続いて、堀江さんから、プロ経営者の報酬事情についてお話しいただきます。

プロ経営者の報酬ピラミッド

堀江

では、プロ経営者の報酬の全体像について、私からお話しします。プロ経営者の報酬は、経営する会社の規模によって、①年収数億円の「大企業CEO」を頂点として、②年収2000万〜4000万円+業績賞与の「ミドル~ラージキャップファンド投資先CEO」、③年収1000万〜2000万円+業績賞与の「スモールキャップ投資先CEO」、④数百万〜1000万円の「中小零細企業を承継したCEO」という、4つの層に分けることができます。もちろん例外もありますが大枠で分けるとこんなイメージではないでしょうか。各層の求人案件数は、①から④に近づけば近づくほど、ピラミッド状に増えていくイメージです。

直近、弊社経由でプロ経営者として転職された方が2人いらっしゃいますので、その方々の事例を交えながらお話しさせていただきたいと思います。お一人目は、もともと上場企業の子会社の代表を務めていた60歳の方で、売上60億、社員約100人程度の婦人用品の卸売販売会社の社長に就任された方のケースです。この会社はプリンシパル・インベストメントを手掛けるファンドの投資先で、業績は悪くないが、元オーナー経営者がそろそろ引退したいということで売りに出された案件でした。このご転職者は、積極的にM&Aを仕掛ける大手企業の執行役を務めながら、投資先事業の立て直しを行なっていた方で、今後は自身が社長ポジションをという志向をお持ちでした。前職の年収は1000万円、プロ経営者としてのオファー年収は1200万円(月収100万円×12カ月)です。こちらに加え、成果に応じたインセンティブはありましたが、プロ経営者ポジションとしては低い水準の報酬でした。ただ、年齢も年齢なので長く社長ができればいいということで、転職を決断されました。

もう一人は、前職で上場企業のグループ子会社の管理部門責任者、CFOを務めていた、55歳の方の事例です。この方は、産業機器の製造・販売を手掛ける、売上約170億、従業員数約1000人の会社の代表に就任。前職の年収は2000万円で、プロ経営者としてのオファー年収は1800万円でした。インセンティブはイグジットを実現するまで在籍していたら1500万円のボーナスが付与されるという契約でした。

高収益な案件を手掛けるファンドでは、数千万〜数億円の収入も

堀江

視視聴者の皆様の中には、「プロ経営者の収入って意外と安いんだな」と感じられた方も少なくないかもしれません。確かに、総合商社の部長や、コンサルのパートナーなど、大企業に務める高報酬の方からするとスモールキャップファンドの投資先CEOの年収は必ずしも魅力的ではない場合もあります。後継者としてプロ経営者を求めている会社も、また、プロ経営者になりたいという人も確実に増えているにもかかわらず、マッチングが成立する案件がそれほど多くない理由の一つはこの報酬の問題です。

小野:そうですね。中小企業の事業承継案件で、プロ経営者を志す方が大きな魅力を感じられるような案件は希少といわざるを得ないのかもしれません。中小企業の場合、プロ経営者に十分な対価を支払う余裕がないというケースは少なくありません。給料はサラリーマン時代±α、インセンティブは目標利益を超えた分の1〜3割程度で、総額で年収2000万円に届くかどうかという水準が一般的で、インセンティブがないということも珍しくありません。中小企業のオーナーさんの中には「儲かってるのに、いい人が来てくれない」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、ある意味で当然と言わざるを得ない部分もあるんです。

しかしながら、高収益な案件に取り組む一部のファンドの場合、プロ経営者は2〜3年間、投資先の経営に携わり、ストックオプションの売却益として数千万円〜数億円の収入を得ることができます。ここでは私が個人的に行ってきた投資を例として取り上げみましょう。これまでに杭打ち工事、コンクリート補修、自動工作機器製造、建設人材派遣、計器関連の計5社への投資を行ってきましたが、投資先を厳選していることもあり、4倍〜11倍のリターンを出しています。その分、プロ経営者にも多くの報酬をお渡しすることができており、皆さんの収入はストックオプションの現金化によって4000万円〜3億5000万円となりました。

プロ経営者の皆さんには、売り手先候補のオーナー社長さんを一緒に口説きにいくなど、案件が決まる前の段階から関わってもらっています。「自分の後継者を連れてきた人に会社を売る」というオーナーさんは少なくないからです。「買えるかどうかわからないところから、関わらなくてはいけないのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、案件化の前からファンドと一緒に取り組むからこそ、大きな対価を得ることができるんですね。

一方、私自身はハンズオンに直接関与することはほとんどなく、基本的には月に一度のペースで管理をしたり、ときどき送られてくるメールに返信をしたりする程度です。つまり、アドバイスはしますが、経営は一任している。成功も失敗もプロ経営者の双肩にかかっているので、投資額の数倍以上といった大きなリターンが上がったら、ストックオプションの売却によって数千万円〜数億円の成功報酬を得られる仕組みをつくっているのです。

堀江

プロ経営者の方はどれくらいお金を出されているんですか。

小野:ストックオプションを買っていただくわけですが、最も多く出された方でも300万円足らずです(結果3.5憶円程度を得る事に)が。われわれ日本プロ経営者協会としても、こうした案件を数多くマッチングできるようにしていきたいと思っています。

ストックオプション付与型プロ経営者の報酬モデル

小野:金融系の方はご存知だと思いますが、ストックオプション付与型の報酬モデルの基本的なスキームについて、ご説明したいと思います。
まず、ストックオプションとは、一定の価格で株式を買う権利のことです。ここでは、プロ経営者との間でストックオプションを20%支給する契約を結び、株式価値が1億円から10億円になったというケースを取り上げて、プロ経営者の報酬について考えてみましょう。株式価値の20%はプロ経営者のものなので2億円分の価値をプロ経営者が持っていることになりますが、ストックオプションというのは株式を買う権利のことなので、行使しなければいけません。具体的には、プロ経営者が、1億円の20%に当たる2000万円を払って増資をし、10億円の20%に当たる2億円を得ることになります。両者の差額の1億8000万円がプロ経営者に入るリターンです。

堀江

実際にキャッシュを得るタイミングはいつになるのでしょうか。

小野:基本的には、イグジットのタイミングですね。

堀江

イグジットの前には売ることができないのでしょうか。

小野:原理的には売却できます。ただし、ファンドとしては勝手に売却されると、その人のロイヤリティが低くなる可能性があるので、できればイグジットと同時に売ってほしいというのが本音です。

高額な報酬につながるのは、どのような案件か

小野:続いて、どのような事業承継案件が高額の報酬につながるのかということについて、お話しします。
基本的には、M&Aのトランザクションの最初の方から関わることのできた案件ほど、高額報酬につながると考えていいと思います。最も高額の報酬につながるのは、「案件サーチ」から関わるケースです。例えば、親友の親が経営者で、自分に会社を引き継いでほしいと頼まれている。自分でも経営したいと思っているが、お金がないのでどうしようということで、私どもファンドにご相談をいただくケースがこれに当たります。このような案件の場合には、数千万円のソーシングフィーを受け取ることも可能です。

次に高額の報酬を期待できるのは「オリジネーション」、すなわち売り手のオーナー経営者さんを説得する段階から関わるケースです。サインアップボーナスを含めて、少なくとも数千万以上の報酬が得られる案件になります。ごくまれに「エグゼキューション」の段階で、ビジネスデューディリジェンスに関わり、事業を理解した人がそのままプロ経営者として経営を引き継ぐケースもありますが、一番安いのが「ハンズオン」、すなわち投資の後から入る案件です。通常のファンドはこの時点からプロ経営者を探すわけですが、「投資をしたので、こういう経験のある人いませんか?」というような、通常の社員募集に近い扱いとなり、報酬も年収1500万円程度になります。

堀江

先ほどお話しした、弊社を経由してプロ経営者になられたお二方の事例は、ハンズオンを開始してから決定したケースに入ります。ファンドさんから「投資が決まったからプロ経営者を探してくれ」という依頼を受けまして、プロ経営者候補の方にお声掛けしたという流れです。これまで小野さんと弊社の候補者で一緒に案件を発掘しようとしたケースもありますがあれはオリジネーションの段階から関与した事例ですね。

小野:ええ。関東のメーカーさんで、1億円の投資で7億円程度のリターンが見込める案件でした。オーナーさんの願いは「株価なんてどうでもいい。とにかく後継者を連れてきて欲しい」ということで、プロ経営者候補者と一緒に面談に行ったんです。オーナーさんは候補者をとても気に入ってはいたのですが、最後の最後でハシゴを外されて決まらなかったんです。何でもかんでもうまくいくわけではありませんが、日本プロ経営者協会のFacebookグループには良い案件の情報を今後もどんどん流していく方針です。ぜひご登録いただければと思います。

コミュニティ型サーチファンドの可能性

小野:先ほどお話ししたように、プロ経営者として数千万円〜数億円の高額報酬を獲得するには、「案件サーチ」の段階から関与する必要があります。そのために必要なのは、自分が所属するコミュニティ、すなわち家族や知り合いを通じて案件を獲得することです。こうしたチャンスはどこにでも存在するわけではありませんが、だからといってゼロではない。実際、自分が所属するコミュニティから案件を獲得するチャンスは、日本全国で年間数百件〜千件、私の周囲でも年間数件は出てきます。私は「コミュニティ型サーチファンド」と呼んでいますが、大切なのは、こうした案件に出会ったときにお金がないからといって諦めるのではなく投資関係者に相談したり、日本プロ経営者協会のネットワークを活用してマッチングしてくれる投資家を探したりすることです。コミュニティ型のサーチファンドの機能を活用することで、ストックオプションを得ながらプロ経営者のキャリアをスタートさせるチャンスをつかんでいただきたいと思っています。そして、マラトンキャピタルパートナーズ株式会社がこのコミュニティー型サーチファンドの資金の出し手になることになっています。

堀江

イメージとしては、日本プロ経営者協会のFacebookコミュニティのメンバーが、皆で協力しながら案件を探していく。お金はファンドさんに投資してもらい、案件を見つけた人がプロ経営者として社長になってもいいし、他のメンバーにパスしてもいい。このようにして、ファンドさんと一緒にバリューアップを進められたら面白いですよね。日本プロ経営者協会の今後のイベントでは、事業承継オーナーと出会う方法や案件獲得の方法などについてもディスカッションしていきたいと思います。

小野:そうですね。自分では投資できないが、経営はできそうな案件に出会ったときにどうするか。その部分のノウハウについてもお話ししたいと思っています。

Q&A

個人M&Aの実際

堀江

個人M&Aによりオーナー経営者になる場合と、プロ経営者になる場合との報酬の違いについて聞かせてください。

小野:ストックオプション付与型の報酬モデルであれば、ローリスク・ハイリターンを実現することができます。リスクを挙げるとすれば、それまでに築き上げてきたキャリアを捨てて、経営者になることくらいでしょう。一方、そもそも個人M&Aで買った会社を経営して、数億円の報酬を得るのはなかなか大変です。また、個人M&Aの場合には、銀行ローンを活用したり、自分が保証人になって融資を受けたりすることを考えると、リスクは決して小さくありません。ハイリターンが得られればいいということなのでしょうが、実際には「そこまでリターンが見込めるのかな」というところに、リスクをかけている人が多い印象です。

堀江

個人M&Aは大きな話題を集めていますが、個人で会社を買った後の成果に関してはまだまだ未知数で、データとして出てくるのはこれからですね。

小野:ええ。成功している人もいれば、失敗している人もいます。目利きの力次第だと思います。起業ほどではありませんが、個人M&Aにこうした失敗のリスクがあることを留意しておく必要がありますね。

プロ経営者に求められるスキル・マインドセット、キャリア、年齢

堀江

「プロ経営者として最低限有しているべきスキルセット、マインドセットについて教えてください」というご質問をいただいています。

小野:先ほどお話しした「財務・会計」「ビジネス」「業界知識」「人心掌握(リーダーシップ)」の4つに関しては、全てカバーしてもらいたいというのが正直なところです。プロ経営者を志す方であれば「財務・会計」「ビジネス」については、ある程度勉強されていると思いますし、「業界知識」については本やネットで勉強できます。したがって、知識レベルに関しては、そこまで高度なものが求められるわけではありません。ただ、やはり問題は「人心掌握(リーダーシップ)」で、これは本を読んで身につけられるものではありませんし、どんなに努力しても苦手という方もいらっしゃいます。この点については面接でしっかりと見極めるようにしています。

堀江

キャリアに関して申し上げますと、ファンドさんがプロ経営者に最も求めているのは、事業会社の経営、もしくはそれに近い経験です。ただ、事業会社に入社して経営幹部に上り詰めるにはかなりの時間がかかるので、戦略的にキャリアをつくり上げていく必要があります。例えば、ライザップさんやDMMさんのような、さまざまな業界でM&Aを積極的に行っている事業会社、もしくは、社内にPMI専門チームを抱えているような事業会社に転職し、経営の経験を積む。あるいは、ファンドの投資先の経営を代行するコンサルティングチームに入る。何れにしても事業会社の経営経験を積むことができるよう意識する必要があります。

小野:「プロ経営者という業界・キャリアには、何歳までに飛び込むべきでしょうか」というご質問をいただいていますが、年齢については如何でしょうかね。プロ経営者として入る会社の組織バランスにもよるとは思いますが、30代後半で活躍されている方もいますし、60歳で初めて経営者になる方もおられますね。

堀江

そうですね。ガンガン伸びている会社であれば、30代でも十分活躍できると思います。ただ、事業承継のフェーズに入っている中小企業の場合、オーナーさんが70代、現場の社員も50代というケースが少なくありません。こうした会社に30代後半で入ると、若造扱いされて組織をうまくまわせない可能性も考えられます。うまくいくとすれば、「この人は自分の息子と同じくらいの年齢だけどスゴい。しかも、上から目線ではなく、自分たちと同じ目線で話してくれる。かわいいから支えてあげよう」と思わせられるようなコミュニケーション能力、人心掌握力・リーダーシップを備えた方でしょうね。

最終的にMBOを行う可能性は?

堀江

「ストックオプションだけでなく、最終的にMBOを行う可能性はないのでしょうか?」というご質問をいただいております。

小野:可能性はあると思います。実際、ファンドにプロ経営者として送り込まれた人が、レバレッジをかけて、メザニンも入れて、さらに自分でも少しお金を入れて、株式を買い取ったケースもあります。ただし、ある程度成長している会社であれば、それを見込んだ上でのバリュエーションになるので、いいディールになるのかというと微妙なケースが多いのかもしれません。

女性プロ経営者の可能性

堀江

女性のプロ経営者の可能性についてご質問をいただいております。基本的に性別は関係ないと思うのですが如何でしょうか。

小野:大企業を中心に女性の社外取締役を登用するケースが増えていることからもわかるように、基本的に性別は関係ありません。ただ、昭和的な価値観を持っているオーナーさんが経営する中小企業で女性が活躍するのは、現実的には厳しいといわざるを得ないでしょうね。また、女性のオーナー経営者さんには「後継者も絶対に女性がいい」という方もいれば、「女性はダメ」という方もいらっしゃるので、ケースバイケースだと思います。

堀江

「CEOではなく、まずはCMO(最高マーケティング責任者)やCDO(最高デジタル責任者)からスタートできるような案件はないのでしょうか?」というご質問をいただいています。個人的な印象としては、CFOはよくありますが、CMOやCDOを募集する案件はほとんど見たことがないですね。

小野:私の友人に、再生系のファンドの案件で、COO、副社長のポジションを務めたことをきっかけに、プロ経営者になった人がいます。オペレーションに近いCOOのようなポジションから入るのが理想的だと思いますが、ファンドのことがよくわかっていて、取締役副社長といった肩書きがついていれば、CDOやCMOも入り口としては悪くないと思います。

プロ経営者を入れてもうまくいかないケースとは

堀江

「バイアウト後に業績が現状維持ならば良いと伺いましたが、プロ経営者が入ってうまくいかなかったケースはありますか?」というご質問です。

小野:外部から送り込んだプロ経営者をクビにせざるを得なくなったような案件はないですね。うまくいかなかったのは、オーナー経営者さんの意中の人材を内部昇格させた案件です。

堀江

私の周りですと、弊社からのご紹介ではないですが、プロ経営者として転職されたものの投資先の幹部やファンドサイドとのコミュニケーションがうまくいかず、退職となってしまったケースはちらほら聞きます。

小野:なるほど。コミュニケーションや関係づくりがうまくいっていないと、足元をすくわれても不思議ではありません。逆に、そこの部分さえきちんとできていれば、周りが頑張って支えてくれる気がしますね。

堀江

あとは元も子もない話ですが、投資価格が非常に高いとか、プロ経営者側の問題ではなく、そもそも投資案件としてきわめてハードだったという事例も良く聞きます。それを何とかするのが経営者だと、と言われればその通りですが。

小野:レバレッジをかけすぎて、毎年、二桁成長を実現しないとLBOが返せないというような案件もありますからね。

堀江

その意味でいえば、ファンドの期待値をプロ経営者候補者の方が正確に理解し、それが現実的なのかということをきちんと判断されたほうがいいですね。

小野:一般論ですが、ミドルキャップ以上の案件の8割くらいは、われわれのような小規模な案件を手掛けている立場からすると、かなりチャレンジングなイメージがありますね。

堀江

そうなんですね、一般的にPEファンドが期待するIRRはどれくらいでしょうか。

小野:大きなファンドであれば10%あれば御の字、できれば15%、20%までいきたいという感じだと思います。一方、私たちのような小さなファンドだと、最低でも20%というイメージです。実際にはもっといっていますけれども。

堀江

ありがとうございます。最後に日本プロ経営者協会に関するお知らせです。日本プロ経営者協会では、Facebookグループで会員コミュニティを運営しています。各種イベント情報の配信のほか、事業承継案件・プロ経営者の探索、会員間のコミュニケーションの場としてご利用いただけますので、是非、ご登録ください。また、事業承継のプロ経営者ポジションに関する情報収集はヤマトヒューマンキャピタルにもお気軽にお問い合わせください。視聴者の皆様、本日はご視聴いただきありがとうございました。

小野ありがとうございました。

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