事業承継や敵対的買収への防衛策として活用される一方、投資家から警戒されるといった注意点もあるため、仕組みを正しく理解しておくことが大切です。
今回は、「黄金株の仕組みやメリット・デメリット」「発行方法や手続き」「黄金株を発行している日本企業の事例」などについて、初めての方にも分かりやすく解説していきます。
黄金株の導入や事業承継を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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黄金株とは「株主総会などの重要な決議に拒否権を行使できる拒否権付種類株式」

黄金株とは、株主総会などの重要な決議に対して拒否権を行使できる「拒否権付種類株式」の通称です。
通常、企業の経営に関する方針は、株主が保有する議決権の割合に応じて決まります。
一方、黄金株は、定款で定めた事項について、保有する株式数にかかわらず決議を止められる仕組みです。
企業が黄金株を発行し、その株主が種類株主総会で承認しなければ、通常の株主総会で可決された議案であっても成立しません。
そのため、黄金株は、M&Aによる買収への対策や、事業承継後も先代経営者が一定の影響力を残す方法として活用されます。
このように黄金株は、企業の経営に大きな影響を与える重要な決議に対し、特定の株主がブレーキをかけられる「種類株式」です。
ただし、拒否権が強力なため、発行する際は対象となる事項や保有者を慎重に決める必要があります。
黄金株の行使方法
黄金株の拒否権は、対象となる議案について「種類株主総会」で承認しないことによって行使されます。
なぜこのような形になるかというと、会社が定款で「特定の重要事項は通常の株主総会の決議に加えて、黄金株を持つ株主だけで構成される種類株主総会の決議も必要」と定めておくためです。
たとえば会社の合併について黄金株を設定した場合、通常の株主総会で可決されても、黄金株の株主が種類株主総会で同意しなければ、その合併は効力を持ちません。
つまり黄金株を持つ株主は、たった1株であっても重要な意思決定にブレーキをかけられるという強力な権限を握ることになります。
黄金株の名前の由来は英語の「Golden Share」から
黄金株という名前は、英語の「Golden Share(ゴールデン・シェア)」を日本語に訳したものに由来します。
たった1株でも会社の重要な決定を止められるほど価値ある株式であることから、「金のように貴重な株式」という意味で比喩的に名付けられました。
この呼び方は、1980年代にイギリス政府が国営企業を民営化する際、国が支配権を維持する手段として導入したことに端を発するとされています。
この仕組みと名称が世界各国へ広まり、日本でも「黄金株」という通称が定着しました。
普通株式との違い
黄金株と普通株式の最大の違いは、特定の議案に対して「拒否権」を持っているかどうかにあります。
普通株式は保有する株数に応じて議決権が与えられ、株数が多いほど発言力が大きくなる仕組みです。
一方で黄金株は、保有株数にかかわらず、定款で定めた重要事項について1株で決議を否決できる特別な権利を持っています。
| 比較項目 | 普通株式 | 黄金株(拒否権付種類株式) |
|---|---|---|
| 議決権の考え方 | 1株につき1議決権 | 1株でも特定事項に拒否権あり |
| 影響力の源泉 | 保有する株数(量による支配) | 付与された拒否権(質による支配) |
| 主な目的 | 出資と経営参加 | 重要事項のブロック・防衛 |
| 定款への記載 | 不要な場合が多い | 必須 |
このように黄金株は「決定に参加する」よりも「決定を止める」ために使われる点が普通株式と大きく異なります。
属人株との違い
黄金株と混同されやすい制度に「属人株」がありますが、この2つは権利の付き方がまったく異なります。
黄金株は株式そのものに拒否権が結び付いているため、誰が保有しても効力は変わりません。
これに対して属人株は、株主という「人」に着目して権利を設計するもので、「特定の株主Aだけは1株につき複数の議決権を持つ」といった株主ごとの取り扱いを定められる仕組みです。
たとえば経営者本人が生きている間だけ強い議決権を持たせたいといった場合には、属人株が使われることがあります。
両者の主な違いは次のとおりです。
| 比較項目 | 黄金株 | 属人株 |
|---|---|---|
| 権利が付く対象 | 株式そのもの | 株主個人 |
| 譲渡・相続時 | 権利がそのまま移る | 原則としてその人限りで消える |
| 登記の要否 | 必要 | 不要(定款記載のみ) |
| 導入の決議 | 特別決議 | 特殊決議でハードルが高い |
導入のしやすさや権利の移り方が違うため、目的に応じた使い分けが求められます。
日本で黄金株が認められている法的根拠
日本で黄金株が発行できる法的根拠は、会社法第108条第1項第8号にあります。
種類株式には剰余金の配当や議決権の制限など全部で9種類があり、そのうちの1つが「拒否権付種類株式」、すなわち黄金株です。
2006年に施行された会社法では、一部の株式にだけ譲渡制限を付けることが可能になったため、黄金株が第三者へ流出して悪用されるリスクを抑えやすくなりました。
このような制度整備によって、黄金株は買収防衛策や事業承継の手段として使いやすいものになったのです。

黄金株が活用される場面

黄金株は、経営権を守りたい場面や外部からの介入を防ぎたい場面で活用されます。
ここでは、M&Aや経営権の維持、敵対的買収への対策、事業承継やグループ経営といった代表的な4つの場面を具体的に見ていきましょう。
M&Aで黄金株が利用されるケース
M&Aの場面では、買収された後も一定の経営コントロールを残す手段として黄金株が利用されます。
なぜなら、M&Aで株式の過半数が相手に渡っても、黄金株があれば合併や事業譲渡といった重要事項を否決できるからです。
たとえば創業家が会社を売却する際、普通株式は買い手に譲りつつ、黄金株だけを手元に残すことで、会社の解散や重要資産の売却を防ぐといった使い方が考えられます。
また、親会社が子会社の黄金株を持つことで、グループ全体のガバナンスを維持するケースも見られます。
このように黄金株は、M&A後の経営の方向性を守るための「保険」のような役割を果たします。
経営権を維持したい企業で活用されるケース
創業者や現経営者が経営権を維持したい場合にも、黄金株は有効な手段となります。
その理由は、取締役の選任・解任などの人事に対しても拒否権を行使できるためです。
たとえば資金調達のために外部の投資家へ多くの株式を発行すると、通常であれば議決権が分散して経営者の発言力が弱まります。
しかし経営者が黄金株を1株保有していれば、望まない取締役の選任を止めるなど、会社の根幹に関わる決定を守れます。
株式を手放しても経営の主導権だけは確保したいという場合に、黄金株は心強い選択肢になるでしょう。
敵対的買収への対策として利用されるケース
黄金株は、敵対的買収に対する防衛策としても機能します。
というのも、買収者が株式の過半数や3分の2以上を取得して形式的に経営権を握ったとしても、黄金株による拒否権があれば、経営陣の入れ替えや重要資産の売却といった動きをブロックできるからです。
たとえば信頼できる第三者に黄金株を持たせておけば、大量の株式を買い集められても、買収者は思いどおりに会社を支配できません。
ただし、拒否権が強すぎると企業価値を高める提案まで排除してしまう「過剰防衛」につながる懸念もあり、導入には慎重な設計が求められます。
防衛の盾として強力である一方、使い方を誤ると自社の成長機会を狭めるおそれもある点は意識しておきたいところです。
事業承継やグループ会社の経営管理で活用されるケース
事業承継やグループ会社の管理においても、黄金株は柔軟な仕組みとして活用されています。
中小企業では、後継者が全株式を引き継げず議決権の過半数を確保できないことも少なくないため、承継の過程で経営が不安定になりがちです。
そこで、普通株式を後継者へ渡して経営権を移しつつ、先代経営者が黄金株を保有すれば、必要な場面だけブレーキをかけられます。
グループ会社の場合は、親会社が子会社の黄金株を持つことで、子会社の重要人事や合併などに対して拒否権を確保できます。
段階的に権限を引き継ぎながら安全に承継を進めたい企業にとって、黄金株は有力な手段といえるでしょう。

黄金株のメリット4つ

黄金株の最大の魅力は、少ない持ち株でも経営の重要な意思決定を守れる点にあります。
ここでは黄金株が持つ4つのメリットを、具体的な効果とともに解説します。
重要事項に対する拒否権を維持できる
黄金株を持つ最大のメリットは、会社の重要事項に対する拒否権を保ち続けられる点です。
これは、黄金株が1株であっても定款で定めた議案を否決できるという、通常の議決権割合とは無関係の強い権限を備えているためです。
たとえば経営者が保有株式の大半を後継者や投資家へ譲った後でも、合併や定款変更といった根幹の決定については、黄金株を通じて最終的な歯止めをかけられます。
株式の保有比率が下がっても影響力を失わないという点は、他の防衛策にはない大きな強みです。
経営の安定性を確保しやすい
黄金株は、突発的な経営方針の転換を防ぎ、経営の安定性を確保しやすくします。
その理由は、一部の経営陣や外部株主による独断的な意思決定に対して、拒否権という形でストップをかけられるからです。
たとえば後継者が経験の浅い段階で無理な事業拡大や高額な設備投資を進めようとした場合でも、黄金株を持つ先代経営者がその決議をブロックできます。
これにより、会社が誤った方向へ急に舵を切るリスクを抑えられます。
買収後も創業者や既存株主の意向を反映できる
M&Aや買収が行われた後でも、創業者や既存株主の意向を経営に反映し続けられる点もメリットです。
黄金株の拒否権は株式の保有割合に左右されないため、買い手が経営権を握った後でも一定の関与を残せるからです。
実際に、企業や政府が重要な会社への影響力を保つ目的で黄金株を活用する事例が国内外で見られます。
たとえば買収後に本社の移転や社名変更といった動きが出た場合でも、黄金株の保有者が同意しなければ実行できないよう設計できます。
会社を手放しても大切にしてきた理念や方針を守りたいという思いを、形として残せる仕組みなのです。
企業価値やブランドを守りやすい
黄金株は、長年培ってきた企業価値やブランドを守る盾としても機能します。
なぜなら、外部からの不適切な買収提案や、短期的な利益だけを狙った経営方針の変更を、拒否権によって退けられるからです。
たとえば独自の技術やブランドを持つ企業が、その価値を理解しない相手に事業を切り売りされそうになった際、黄金株があれば事業譲渡そのものを止められます。
これにより、企業が積み上げてきた信用や強みを、外部の都合で損なわれるリスクを減らせます。

黄金株のデメリット4つ

黄金株は強力な権限を持つ一方で、扱いを誤ると経営に悪影響を及ぼすこともあります。
ここでは導入前に必ず理解しておきたい4つのデメリットを解説します。
M&Aや資金調達が難しくなる可能性がある
黄金株を発行すると、将来のM&Aや資金調達が難しくなる可能性があります。
その理由は、拒否権を持つ株主が1人でも存在すると、買い手や出資者にとって経営の予測が立てにくくなるためです。
たとえば会社を買収したい相手からすれば、多額の資金を投じても黄金株1株で重要な決定を覆されるリスクがあるため、交渉に二の足を踏むことがあります。
さらに、黄金株を後継者以外が保有していると、相続税や贈与税の負担を軽減できる「事業承継税制」が使えなくなる可能性もあります。
黄金株の存在が、かえって会社の選択肢を狭めてしまう場面もある点には注意が必要です。
投資家や買い手から敬遠される場合がある
黄金株は、投資家や買い手から警戒され、敬遠される場合があります。
これは、黄金株の存在がガバナンス(企業統治)のゆがみと受け取られ、経営の透明性や公平性に疑問を持たれやすいためです。
また、黄金株は定款に明記され登記も必要となるため、登記簿を確認すれば第三者にもその存在と内容が把握されてしまう点も、警戒される一因です。
たとえば「先代の影響力が強すぎるのではないか」「少数の意見で経営が左右されるのではないか」と見られ、金融機関や投資家から慎重な評価を受けることがあります。
株主平等の原則を重視する市場では、こうした特別な株式が信頼性に影響を及ぼすおそれも否定できません。
拒否権の運用次第では経営判断が停滞することがある
黄金株の拒否権は、運用を誤ると経営判断の停滞を招くことがあります。
なぜなら、拒否権が乱用されると、本来進めるべき意思決定が繰り返しブロックされ、会社が前に進めなくなるからです。
たとえば事業承継後に先代経営者が頻繁に拒否権を行使すると、後継者の判断が何度も否定され、モチベーションの低下や経営の混乱につながりかねません。
また、経営に関心の薄い相続人へ黄金株が渡った場合、感情的な理由で重要な議案が否決されるリスクもあります。
強力な権限であるがゆえに、誰がどのように使うかを慎重に見極める必要があるのです。
発行前に定款や会社法上の要件を確認する必要がある
黄金株を発行する前には、定款や会社法上の要件をしっかり確認しておく必要があります。
その理由は、手続きに不備があると、せっかく設定した拒否権が無効と判断されてしまう可能性があるためです。
たとえば定款に明記されていない事項について拒否権を行使したり、拒否権の対象範囲が曖昧なままだったりすると、法的な効力が認められないことがあります。
また、種類株式への変更には同じ種類の株式を持つ株主全員の同意が必要になるなど、細かなルールも定められています。
黄金株は権限が強い分だけ手続きも厳格なため、専門家に相談しながら進めることが大切です。
黄金株の発行方法と手続き
黄金株を発行する方法には、大きく分けて「既存の普通株式を黄金株へ変更する方法」と「新たに黄金株を発行する方法」の2つがあります。
どちらの場合も、定款変更や株主総会の特別決議、登記といった手続きが欠かせません。
ここでは全体の流れと2つの方法、必要な手続きを順に解説します。
黄金株を発行する流れ
黄金株を発行する基本的な流れは、定款の変更から登記までの一連の手続きで構成されます。
これは、黄金株が種類株式である以上、会社の基本ルールである定款にその内容を明記し、公的に登記する必要があるためです。
大まかな流れは、次のとおりです。
| ステップ | 手続きの内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①定款変更の決議 | 株主総会を開き、黄金株の内容を定款に定める | 特別決議(議決権の3分の2以上)が必要 |
| ②保有者の決定・合意 | 誰に黄金株を持たせるかを決め、必要な合意を取る | 信頼できる相手を慎重に選ぶ |
| ③株主の同意取得 | 会社法で求められる株主の同意などを取得する | 種類株式への変更では株主全員の同意が必要 |
| ④変更登記の申請 | 法務局へ変更登記を申請する | 議事録や同意書などの書類を準備する |
このステップを一つずつ丁寧に踏むことで、拒否権が法的に有効な黄金株として成立します。
手続きの順序を誤ると無効になるおそれがあるため、計画的に進めることが重要です。
既存の普通株式を黄金株へ変更する方法
すでに発行されている普通株式を黄金株へ変更する方法もあります。
この方法が選ばれる理由は、新たに資金を払い込まなくても、経営者などが持つ既存の株式に拒否権を付与できるためです。
具体的な手順は、以下のようになります。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1.定款変更 | 株主総会の特別決議で定款を変更し、拒否権の対象となる事項を定める |
| 2.合意書の締結 | 対象株主と「自分の株式を黄金株として扱う」旨の合意書を交わす |
| 3.株主全員の同意 | 同じ種類の株式を持つ株主全員から同意を得る |
| 4.変更登記 | 黄金株の内容を反映した変更登記を行う |
たとえば、すでに株式を保有している経営者が、追加の出資をせずに経営コントロールだけを強めたいといった場合に適しています。
新規発行のような払込みが不要なため、比較的取り組みやすい方法といえるでしょう。
新たに黄金株を発行する方法
すでにある株式を変更するのではなく、新たに黄金株を発行する方法もあります。
この方法は、特定の相手に新しく拒否権付きの株式を持たせたい場合に用いられます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1.定款変更 | 株主総会の特別決議で黄金株を種類株式として定款に追加し、拒否権の範囲や発行総数を定める |
| 2.募集事項の決定 | 発行する株式の種類・数、払込金額、払込期日などを決議する |
| 3.通知と申し込み | 引受人へ通知し、黄金株の引受けの申し込みを受け付ける |
| 4.割り当て・払い込み | 株式を割り当て、期日までに払い込みを受ける |
| 5.変更登記 | 資本金の増加や黄金株の内容などを登記する |
これらの手順を踏み、払い込みが完了すると、引受人は正式に黄金株の株主となります。
既存株式の変更と違って新たな払込みが発生するため、資金の受け入れを伴う点が特徴です。
定款変更や株主総会で必要となる手続き
黄金株の発行では、定款変更と株主総会での特別決議が中心的な手続きとなります。
これは、黄金株が会社の基本的な意思決定の仕組みに関わる重要な株式だからです。
必要となる手続きは、次のとおりです。
| 手続き | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 定款変更 | 拒否権の対象事項や発行可能株式総数を明記する | 対象範囲を具体的かつ明確に定める |
| 特別決議 | 出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決する | 決議要件を満たさないと無効になる |
| 株主の同意 | 種類株式へ変更する場合は同じ種類の株主全員の同意を得る | 一人でも反対すると変更できない |
| 変更登記 | 黄金株の内容などを法務局へ登記する | 議事録・合意書・同意書などが必要 |
これらを正しく踏むことで、初めて黄金株の拒否権が法的に有効となります。
書類の準備も多く、手続きに不備があると無効になるおそれもあるため、司法書士や弁護士のサポートを受けると安心です。
黄金株を発行する際の注意点

黄金株は強力な権利を持つからこそ、発行時にいくつかの注意点を押さえておく必要があります。
以下では「譲渡制限の設定」「拒否権の範囲の明確化」「相続・承継時の取り扱い」という3つのポイントを解説します。
譲渡制限を設定して保有者を管理する
黄金株を発行する際は、譲渡制限を設定して保有者をしっかり管理することが大切です。
その理由は、黄金株が自由に譲渡できる状態だと、会社と敵対的な第三者へ渡ってしまい、経営に深刻な影響を及ぼすおそれがあるためです。
こうしておけば、信頼できる人以外への移転を未然に防げます。
黄金株は「誰が持つか」で経営の安定性が大きく変わるため、譲渡制限による管理は必須の対策といえるでしょう。
拒否権を行使できる範囲を明確にする
黄金株を発行するときは、拒否権を行使できる範囲をあらかじめ明確にしておく必要があります。
なぜなら、対象となる事項が曖昧なままだと、拒否権の効力をめぐって争いが生じたり、無効と判断されたりするリスクがあるためです。
たとえば「取締役の選任・解任」「合併や事業譲渡」「定款変更」など、拒否権の対象を具体的に定款へ記載しておくことが望ましいでしょう。
併せて、拒否権の有効期限を「発行から3年間」などと定めておくと、経営の硬直化を防ぎやすくなります。
保有者の相続・承継時の取り扱いを決めておく
黄金株の保有者が亡くなった場合に備えて、相続や承継時の取り扱いをあらかじめ決めておくことも重要です。
これは、黄金株が相続されると、経営に関心や能力のない人物へ強力な拒否権が渡ってしまう可能性があるためです。
たとえば定款に「保有者が死亡した際には黄金株を普通株式へ転換する」「会社が買い取る」といった規定を盛り込んでおけば、相続による混乱を防げます。
これは「取得条項付株式」として設計する方法とも組み合わせられます。
黄金株は世代をまたいで影響力を持つため、出口となる処理まで見据えて設計しておくことが、安全な運用につながります。
黄金株を発行している日本企業の一覧
黄金株や、それに近い特別な株式を活用している日本企業は、ごく限られています。
以下では「日本製鉄」「CYBERDYNE株式会社」「国際協力銀行(JBIC)」という、黄金株や政府関与の文脈でよく取り上げられる3社を紹介します。
日本製鉄
日本製鉄による買収後、子会社となったUSスチールが米政府へ黄金株を発行したことが、黄金株の事例として大きな注目を集めました。
これは、日本製鉄自身が黄金株を発行したわけではなく、経済安全保障上の懸念を解消するために、完全子会社となったUSスチールが米政府へ1株を発行したという構図です。
実際に同年9月には、米政府がこの黄金株を根拠に工場停止計画へ介入したと報じられています。
国家の安全保障とグローバルなM&Aが結び付いた、現代を象徴する事例といえるでしょう。
参考:日本製鉄株式会社による米国鉄鋼公社買収案について – ホワイトハウス
CYBERDYNE株式会社
CYBERDYNE株式会社は、装着型ロボット「HAL」を手がける筑波大学発のベンチャー企業で、創業者の支配権を守る種類株式を活用しています。
厳密には拒否権付の黄金株ではなく、創業者の山海嘉之氏が普通株式の10倍の議決権を持つ「B種類株式」を保有している点が特徴です。
日本の会社法では1株に複数の議決権を直接付けることが認められていないため、単元株制度を組み合わせ、1単元あたりの議決権に差を設ける工夫がなされています。
これは議決権に強弱を持たせた種類株式を発行したまま上場した、日本で初めての事例として評価されました。
黄金株そのものではありませんが、経営権を維持するための種類株式の代表例としてよく紹介されています。
参考:有価証券報告書
国際協力銀行(JBIC)
国際協力銀行(JBIC)は、日本政府が全株式を保有する特殊会社であり、政府が強い統制下に置く企業として知られています。
たとえば合併や解散といった重要な事項については、通常の会社法とは別に法律で定めることとされ、株主である国や主務大臣による監督のもとに置かれています。
つまり黄金株のように1株で拒否権を持つのではなく、全株式の保有と特別法によって国の関与を担保している点が特徴です。
政府が公共性の高い事業への影響力を保つ手段として、黄金株と近い役割を果たしている事例といえるでしょう。
参考:株式会社国際協力銀行
国内の上場企業で黄金株を発行しているのは「株式会社INPEX」のみ
国内の上場企業のうち、会社法上の黄金株を発行しているのは株式会社INPEXの1社だけです。
これは、東京証券取引所が株主平等の原則を重視し、黄金株の発行を原則として認めていない中で、INPEXが例外的に上場を認められているためです。
INPEXは石油や天然ガスの開発を担う国策企業であり、海外のエネルギー企業に買収されると国内へのエネルギーの安定供給が脅かされる懸念があります。
そのため経済産業大臣が「甲種類株式」と呼ばれる黄金株を1株保有し、次の6つの事項について拒否権を持っています。
- 取締役の選任・解任
- 重要な資産の処分
- 定款変更
- 合併・株式交換・株式移転
- 資本の額の減少
- 会社の解散
この拒否権はエネルギーの安定供給に資する場合に限って行使できるものとされ、これまで実際に行使されたことはありません。
エネルギー安全保障という国益を背景に、上場企業として唯一の黄金株が認められているのです。
黄金株に関するよくある質問
ここでは、黄金株について多く寄せられる疑問を、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
黄金株は上場企業でも発行できる?
上場企業でも黄金株を発行することは、制度上は不可能ではありませんが、実際には極めて限定的です。
その理由は、東京証券取引所が投資家保護と株主平等の観点から、黄金株の発行を原則として認めておらず、条件を満たさない場合は上場廃止の対象となるためです。
例外として認められるのは、株主や投資家の利益を不当に侵害しないと取引所が判断した場合に限られます。
現時点で黄金株を発行している上場企業は、エネルギー安全保障を理由に認められたINPEXの1社のみです。
黄金株は1株だけでも効力がある?
黄金株は、たった1株だけでも十分に効力を発揮します。
これは、黄金株の力が保有する株数ではなく、定款で付与された「拒否権」という権利そのものに基づいているためです。
たとえば他の株主がどれだけ多くの普通株式を持っていても、黄金株を1株持つ株主が種類株主総会で同意しなければ、対象となる議案は成立しません。
実際にINPEXやUSスチールの事例でも、政府が保有するのは黄金株1株のみです。
黄金株は廃止・回収できる?
黄金株は、一定の手続きを踏むことで廃止・回収することが可能です。
ただし、黄金株自体が拒否権を持つ株式であるため、廃止には通常の定款変更に加えて、黄金株を持つ株主が参加する種類株主総会の決議も必要になる点に注意が必要です。
たとえば発行の段階で「取得条項付株式」として設計しておけば、あらかじめ定めた条件を満たしたときに、会社が強制的に株式を取得して廃止に結び付けられます。
一方で、こうした条項がない場合は、保有者との協議が不可欠となります。
黄金株の相続や譲渡では何に注意すべき?
黄金株の相続や譲渡では、意図しない人物へ拒否権が渡らないようにすることが重要です。
なぜなら、黄金株は株式そのものに権利が結び付いているため、相続や譲渡によって、経営に関与する意思のない相手へ強い権限が移ってしまうおそれがあるためです。
対策としては、譲渡制限を設けて会社の承認なしに譲渡できないようにしたり、死亡時に普通株式へ転換する規定を定款に盛り込んだりする方法が有効です。
なお税務上の取り扱いについては、相続税の評価上、拒否権の有無は考慮せず、普通株式と同様に評価するのが原則とされています。
政府が保有する黄金株の銘柄は?
日本で政府が黄金株を保有している上場企業は、現時点ではINPEX1社のみです。
INPEXがエネルギーの安定供給を担う国策企業であり、海外資本による買収を防ぐ目的で、経済産業大臣が黄金株を保有しているためです。
加えて、政府は経済安全保障の観点から、黄金株の活用範囲を広げつつあります。
たとえば最先端の半導体量産を目指すラピダスについては、経済産業省が政府出資の条件として黄金株の発行を求める方針を明らかにし、独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)が保有する仕組みが検討されていると報じられています。
このように黄金株は、外資による買収や技術流出に備える国家的な手段としても注目を集めています。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
日本プロ経営者協会は、国内最大級のプロ経営者ネットワークを活用し、中小企業の事業承継課題の解決に豊富な実績を持つ組織です。
黄金株を活用した段階的な承継から、親族内承継、第三者承継(M&A)まで、あらゆる承継パターンに対応いたします。
経験豊富なプロ経営者が、後継者の見極めや経営権の引き継ぎ、承継後の経営方針の策定まで一貫してサポートするため、オーナー自身が自社に最適な経営者を選べる点が大きな強みです。
さらに、定款変更や種類株式の設計といった専門的な手続きについても、必要に応じて専門家と連携しながら丁寧にお手伝いいたします。
「誰に会社を託せばよいか分からない」「経営権を守りながら承継を進めたい」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、日本プロ経営者協会までお気軽にご相談ください。

| 日本プロ経営者協会の概要 | |
|---|---|
| 名称 | 一般社団法人日本プロ経営者協会 |
| 設立日 | 2019年7月 |
| 活動内容 | プロ経営者によるセミナーの開催 企業への経営者の紹介 経営者に関する調査・研究 書籍の出版 |
| 代表理事 | 堀江 大介 |
| 所在地 | 東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービルディング21階 |
| URL | https://www.proceo.jp/ |
