経営権とは?譲渡方法や起こりやすい問題を解説

経営権とは?譲渡方法や起こりやすい問題を解説

「経営権とは何か?」

「経営権を譲渡するにはどうすればよいのか?」

経営権とは会社を経営する権利のことで、実際には株主が保有する重要な権利です。

発行済株式の過半数を所有していれば経営権があるとみなされ、取締役の選任・解任や役員報酬の決定などが可能になります。

経営権を譲渡する3つの方法
  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 会社分割

今回は、「経営権の基本概念」や「経営権を譲渡する方法」について詳しく解説していきます。

事業承継やM&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。

目次

経営権とは

経営権とは、会社を経営する権利のことで、実質的には株主が保有している重要な権利です。

「会社の経営者が経営権を持っている」と思いがちですが、実際は株主こそが真の経営権の保有者なのです。

経営者は株主に選任され、株主の代わりに会社を経営します。

つまり、経営者を選任できる権利を持つ株主こそが真の意味で経営権を持っているということになります。

発行済株式の過半数を所有していれば、会社の経営権があるとみなされます。

たとえば、取締役・監査役の選任や取締役の報酬など、普通決議で決められる項目であれば、経営権のある人が単独で決議できます。

株式の所有割合が大きいほど、会社への影響力も大きくなります。

経営権と支配権の違い

経営権は企業の日常的な経営を行う権利であり、支配権は企業の重要事項を決定する権利です。

項目経営権支配権
必要な株式保有比率過半数(50%超)3分の2以上(約66.7%)
決議の種類普通決議特別決議
主な権限取締役選任・解任、役員報酬決定定款変更、M&A、株式併合
対象事項日常的な経営事項会社の根本的変更事項

経営権は議決権のある株式の過半数(50%超)を保有することで獲得でき、株主総会の普通決議を可決させる権限です。

経営権を持つことで、取締役の選任・解任、役員報酬の決定、利益処分案の決定などが可能になります。

真の意味での経営権は、経営者を選任できる権利を持つ株主が保有しています。

支配権は議決権のある株式の3分の2以上を保有することで獲得でき、株主総会の特別決議を可決させる権限です。

支配権により定款変更、合併・会社分割などのM&A、株式併合などの重要事項を決定できます。

経営権の譲渡とは

経営権の譲渡とは、会社の経営権を第三者に譲り渡すことです。

株式会社では、真の経営権保持者は株主であるため、経営権の譲渡は主に株式譲渡によって実現されます。

過半数以上の株式を譲渡することで、買い手は普通決議での決定権を獲得し、実質的な経営権を得ることができます。

事例として、中小企業の後継者不足問題で悩む経営者が、M&Aによって会社の全株式を他社に譲渡するケースがあります。

また、不採算部門を切り離したい場合には、事業譲渡という手法で特定事業のみを譲渡することも可能です。

株式譲渡では会社がそのまま存続するため、手続きが簡単であるというメリットがあります。

経営権を譲渡する3つの方法

経営権を譲渡する3つの方法が分かる画像

経営権を譲渡する方法は、以下の3つです。

方法特徴対象範囲
株式譲渡中小企業M&Aの約90%で採用会社全体
事業譲渡譲渡範囲を自由選択可能選択した事業のみ
会社分割資産・負債が自動承継分割対象事業

それぞれの方法について詳しく解説していきます。

株式譲渡

株式譲渡は会社の議決権を持つ株式を買い手に売却することで、経営権を直接移転させる手法です。

中小企業のM&Aの約90%が株式譲渡で実施されており、手続きが簡単で法的にも確実性が高いことが特徴となります。

まず株式譲渡承認請求書を会社に提出し、取締役会での承認を得ます。

その後、買い手と株式譲渡契約を締結し、株主名簿の書き換えを行うことで経営権が正式に移転されます。

事業譲渡

事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を第三者に売却・移転するM&A手法です。

株式譲渡では会社全体の経営権が移転しますが、事業譲渡では譲渡したい事業の範囲を自由に選択できます。

また、売り手企業は事業の資産・負債・従業員を個別に選択して譲渡できるため、リスクを限定しつつ経営権を移転することが可能です。

例えば、製造業の会社が複数の事業部門を持つ場合、不採算部門だけを切り離して譲渡することで、その部門の経営権のみを買い手に移転できます。

手続きとしては、取締役会決議から始まり、事業譲渡契約の締結、株主総会での特別決議を経て完了します。

商品・設備・従業員・取引先との関係なども含めた事業全体が譲渡対象となるため、実質的な経営権の移転が実現されます。

会社分割

会社分割とは、株式会社が事業上の権利義務の全部または一部を分割して、他の会社に承継させるM&A手法の一つです。

通常の売買取引とは異なり、分割した事業に関わる資産、負債、契約、従業員などが自動的に承継会社に引き継がれます。

会社分割には「吸収分割」と「新設分割」の2つの方法があります。

吸収分割は既存の会社に事業を承継させる方法で、新設分割は新たに設立する会社に事業を承継させる方法です。

また、分割の対価を誰が受け取るかにより、分社型と分割型に分けられます。

例えば、自社の一部事業を既存の会社に譲渡したい場合は「吸収分割」を選択し、対価として承継会社の株式を受け取ることで、承継会社との資本関係を構築できます。

経営権の譲渡で起こりやすい問題

経営権の譲渡で起こりやすい問題が分かる画像

経営権の譲渡で起こりやすい問題は、以下の通りです。

経営権の譲渡で起こりやすい問題
  • 後継者不足
  • 相続争い・親族間トラブル
  • 従業員の離職・モチベーション低下

経営権の譲渡は、ただ事業を引き継ぐだけではなく、企業そのものの未来に大きな影響を与える重大なプロセスです。

準備や対応が不十分だと、会社の存続が危ぶまれたり、親族や従業員との関係に深刻な亀裂を生むこともあります。

問題がこじれる前に、正しい知識と冷静な判断を持ち、関係者との信頼関係を築きながら進めることが大切です。

後継者不足

経営権の譲渡における「後継者不足」は、企業存続に大きな問題を引き起こしています。

少子化やライフスタイルの多様化によって、親族や従業員で経営を引き継ぐ人材が見つからないケースが増えているためです。

例えば、近年では親世代も「子どもに無理に事業を継がせたくない」と考える傾向が強まっています。

また、経営者としての能力や想いの継承、さらには経営スキルや業界知識が求められる点もハードルとなっています。

業績が良くても後継者不足で事業が継続できない現実は、他にも多くの中小企業が直面しています。

相続争い・親族間トラブル

経営権の譲渡では、親族間での対立や感情的なもつれから深刻なトラブルが発生しやすいです。

経営権は会社の実権そのものであり、相続人それぞれが自分の正当性や期待を抱いているため、株式や役職の分配方法によって不満が生じやすいです。

たとえば、創業者が急逝し後継者指定が曖昧だった場合、兄弟間で「自分こそが後継者」と主張して争いに発展し、話し合いが決裂して会社が分裂するケースがあります。

また、株式を複数の親族で分けてしまうと、重要な決定ができなくなり、会社経営が立ち行かなくなることもあります。

最悪、裁判や社外株主を巻き込む泥沼の争いに発展し、会社の存続自体が危ぶまれます。

従業員の離職・モチベーション低下

経営権の譲渡時には、従業員の離職やモチベーション低下が発生しやすくなります。

主に雇用条件や職場環境の変化、会社方針の違いによる「不安」や「将来への不透明感」が従業員に広がるためです。

例えば事業譲渡の場合、新たな雇用契約の締結や待遇の見直しが行われるケースが多く、給与や勤務地、役職、福利厚生といった身近な働き方が変わることがあります。

このような変化は従業員にとって大きなストレスとなり、「今後この会社で働き続ける価値があるのか」と疑問を感じやすくなるのです。

経営権に関するよくある質問

会社経営や株式保有に関して、多くの方が疑問に思う「経営権」についてのよくある質問を紹介します。

経営権に関するよくある質問
  • 経営権を握るには株式を何パーセント保有する必要がありますか?
  • 社長と株主はどちらの方が会社での立場が上ですか?
  • 個人事業主に経営権という概念は適用されますか?

上記の疑問をわかりやすく解説していますので、気になる方はぜひチェックしてください。

経営権を握るには株式を何パーセント保有する必要がありますか?

経営権を握るには、会社の発行済株式の過半数(50%超)を保有する必要があります。

過半数の議決権があれば、株主総会における普通決議(取締役・監査役の選任や役員報酬の決定など)を単独で可決できるからです。

保有割合行使できる権利
33.4%以上特別決議の否決権
50%超普通決議の可決(経営権)
66.7%以上特別決議の単独可決
  • 株式総数が100株の場合は、51株以上を保有すれば経営権を握れます。
  • 共同創業者が複数いるケースでも、1人が51%以上を持っていれば単独で重要事項を決定できます。
社長と株主はどちらの方が会社での立場が上ですか?

会社で「立場が上」なのは株主です。

立場権限・役割
株主会社の所有者。取締役・社長の選任・解任ができる。会社の重要事項を最終決定。
社長会社を代表して経営実務を担う。ただし就任・退任は株主の決議次第である。

株主は会社の所有者であり、株主総会で社長(取締役)を選任・解任する権限を持っています。

例えば、オーナー社長の場合、社長自身が株式を多数保有していれば、経営判断を自分の意思で自由に行えます。

しかし、雇われ社長の場合は、株主が別にいて、その判断に従わなければなりません。

個人事業主に経営権という概念は適用されますか?

個人事業主にも「経営権」という概念は適用されます。

法人の場合は経営権が株主の持つ株式に基づいて存在しますが、個人事業主の場合は、事業を経営する権利や事業にまつわる財産など全てが事業主個人に属しています。

そのため、経営権も事業主1人に帰属します。

まとめ

経営権とは、会社を経営する権利であり、実質的には株主が保有しています。

株式を過半数以上持つことで普通決議を通せる「経営権」を、3分の2以上持つことで特別決議を通せる「支配権」を獲得できます。

また、経営権の譲渡は主に「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」という3つの方法があり、中小企業M&Aでは株式譲渡が最も一般的です。

経営権を理解することは、経営者はもちろん、株主や事業承継を検討している方にとって非常に重要です。

自社の株式保有割合や、今後の承継・譲渡の方法についてあらかじめ整理し、専門家に相談しながら計画的に進めていくことをおすすめします。

後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください

経営権の譲渡や事業承継は、単なる株式の売却やM&Aにとどまらず、会社の未来全体に関わる重大な意思決定です。

特に中小企業では、後継者不足や親族内での調整が難航し、存続そのものを揺るがす事態も少なくありません。

日本プロ経営者協会は、国内最大級のプロ経営者ネットワークを活用し、様々な事業承継・経営統合に豊富な実績を持っています。

複雑な承継スキームの設計から、承継後の経営戦略策定まで一貫してサポートいたします。後継者問題や経営権の譲渡でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

目次