事業承継を進める際、銀行は資金調達だけでなく、自社株評価や専門家の紹介、後継者・買い手候補のマッチングまで幅広く相談できる身近な窓口です。
一方で、紹介できる承継先が銀行のネットワークに限られたり、提携するM&A仲介会社への依頼によって手数料が高くなったりする可能性には注意が必要です。
この記事では、事業承継における銀行の役割やメリット・デメリット、相談から実行までの流れを解説します。
銀行以外の相談先や費用についても紹介するので、自社に合った相談先を選ぶための参考にしてください。
日本プロ経営者協会のコラムでは、経営人材・事業承継・企業改革に関する情報を扱うメディアとして、企業・経営者が適切な意思決定を行えるよう、以下の方針に基づきコンテンツを制作しています。
- 公的機関・業界団体・調査機関のデータを参照
- 事業承継・M&A・経営人材に関する制度・実務を踏まえた解説
- 実際の経営事例・ケーススタディに基づく情報提供
当サイトの記事は、以下の公的機関・調査データを参考にしています。
| 経済産業省 | ミラサポplus |
|---|---|
| 中小企業庁 | 事業承継 |
| 帝国データバンク | 倒産レポート |
| 日本政策金融公庫 | 事業承継マッチング支援 |
単なる情報提供にとどまらず、経営判断に必要な一次情報・実務知見をもとにコンテンツを設計しています。
当記事を掲載している一般社団法人日本プロ経営者協会は、プロ経営者の育成・マッチングを通じて、企業の成長支援や後継者探しを含む事業承継課題の解決に取り組んでいます。
事業承継における銀行の役割
事業承継において、銀行は経営者にとって身近で頼りになる「相談窓口」の役割を担っています。
銀行は日頃の融資や預金取引を通じて企業の財務状況や経営実態を把握しているため、経営者の現状を踏まえた現実的で具体的なアドバイスが期待できます。
| 役割 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 財務状況の把握 | 決算書や取引実績から会社の実態を理解 |
| 自社株評価の支援 | 株式の価値算定や相続・贈与への助言 |
| 資金の支援 | 相続税や株式買取などに必要な融資の提案 |
| 専門家の紹介 | 税理士・M&A仲介会社などへの橋渡し |
| 承継先のマッチング | ネットワークを活かした第三者承継の提案 |
このように銀行は、お金の貸し借りだけでなく、事業承継全体を後押しする総合的なサポート役として機能します。
事業承継を銀行に相談する3つのメリット

銀行に相談する最大の魅力は、日頃の信頼関係とお金の専門性を活かした支援を受けられる点にあります。
ここでは、代表的な3つのメリットを順番に見ていきましょう。
普段からの取引で自社の財務・経営状況を深く理解している
日頃から融資取引のある銀行は、決算書や日々のやり取りを通じて会社の内情を理解しているため、自社の状況を一から説明する手間が省けます。
特にメインバンクは他の取引銀行より関係が深いため、経営理念や今後の展望を細かく伝えなくても、スムーズに相談を始められます。
資金繰りや自社株評価などお金に関する包括的な相談が可能
融資を本業とする金融機関である銀行は、資金面の課題解決に強みを持っており、事業承継に伴う「お金の問題」を幅広く相談できる相手です。
具体的には、以下のような相談に対応してもらえます。
- 株式の買い取りや相続税の支払いに必要な資金の融資
- 自社株の評価や相続・贈与を見据えた対策の助言
- 経営者個人が抱える連帯保証(個人保証)の解除に関する相談
- 承継後も融資を受け続けやすくするための関係づくり
こうしたお金にまつわる悩みをまとめて相談できる点は、銀行ならではの強みだといえるでしょう。
相談料や着手金などの「初期費用」が無料の銀行が多い
初期費用をかけずに相談を始められる点も、銀行の魅力の一つです。
特に地方銀行では、相談の初期段階で手数料が発生しない傾向があります。
実際に事業承継が進み始めた段階で、銀行が提携先の税理士やM&A仲介会社から紹介料を受け取るビジネスモデルであるケースが多く、経営者側は「まず気軽に相談してみる」ことが可能です。
| 費用の種類 | 地方銀行の傾向 |
|---|---|
| 相談料 | 原則無料のケースが多い |
| 着手金 | 原則無料のケースが多い |
| 成功報酬 | 成約時に発生する場合がある |
初期費用の心配が少ないからこそ、最初の一歩を踏み出しやすいといえます。

事業承継を銀行に相談する3つのデメリット

一方で、銀行への相談にはいくつか注意すべき点も存在します。
良い面だけでなく弱点も理解したうえで、相談先を選ぶことが大切です。
承継先の候補が銀行の取引先や提携先に限られる場合がある
銀行が紹介できる相手は、基本的にその銀行の取引先や提携するネットワークの範囲に限られるため、承継先の選択肢が狭くなってしまう可能性があります。
その結果、本来であればもっと有利な条件で承継できたはずの機会を逃してしまうおそれもあります。
提携する仲介会社へ委託され手数料が割高になるケースもある
銀行に相談しても、実務は提携先の仲介会社が担当することが多い点に注意が必要です。
銀行自体はM&Aの専門機関ではないため、具体的な手続きは外部のM&A仲介会社や証券子会社へ委託されるケースがあります。
その場合、仲介会社の報酬に銀行への紹介手数料相当分が上乗せされていたり、仲介報酬とは別に銀行へ情報提供料を支払う契約になっていたりして、直接仲介会社へ依頼するよりも総額の手数料が割高になる可能性があります。
| 取引金額の区分 | 料率の目安 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
紹介の経路によって総額が変わるため、費用の内訳は事前にしっかり確認しましょう。
融資取引など銀行側の事情が提案内容に影響する可能性がある
銀行の提案には、銀行自身の利益が影響する可能性があることも押さえておきましょう。
銀行もビジネスとして事業承継を支援しているため、必ずしも売り手にとって最善の提案となるとは限らず、銀行自身の利益が影響する可能性もあります。
売り手が本来得られたはずの譲渡価格より低くなってしまうリスクも否定できません。
だからこそ、銀行から示された提案をそのまま受け入れるのではなく、中立的な第三者の意見も取り入れながら慎重に判断することが重要です。
銀行へ事業承継を相談・依頼する際の流れ
銀行への相談は、いきなり承継が実行されるわけではなく、段階を踏んで進んでいきます。
これは、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」が示す一般的な流れに沿って支援が行われるためです。
実際の相談から実行までは、おおむね次のステップで進みます。
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| ①相談・準備 | メインバンク等の窓口へ相談し、準備の必要性を認識する |
| ②見える化 | 決算書などをもとに財務・経営状況や課題を把握する |
| ③磨き上げ | 企業価値を高めるための経営改善を進める |
| ④計画・マッチング | 承継計画の策定や、第三者承継の候補探しを行う |
| ⑤実行 | 株式の移転やM&Aなど、実際の承継を実行する |
多くの経営者がまず利用するのは、ステップ①の初期相談です。
まずは気軽に相談し、自社の状況を整理することから始めるとよいでしょう。
参考:事業承継 | 中小企業庁
銀行以外の事業承継の相談先5選

事業承継の相談先は、銀行だけではありません。
相談先ごとに得意分野や費用が異なるため、自社の課題に合った窓口を選ぶことが成功への近道です。
ここでは、代表的な5つの相談先を紹介します。
M&A仲介会社・アドバイザー
専門的な知識と独自のネットワークを活かし、相手企業探しから交渉、契約手続きまで一貫して支援してくれるため、第三者への承継(M&A)を具体的に進めたい場合の有力な相談先になります。
たとえば、後継者不在の会社でも、条件に合う買い手候補を全国から探してもらえる可能性があります。
ただし成約時にはレーマン方式に基づく成功報酬が発生するため、料金体系を事前に確認することが大切です。

弁護士
株式や経営権の移転には会社法・相続法・契約法など複数の法律が関わり、専門的な対応が必要になるため、法的なトラブルや複雑な権利関係が絡む場合の相談に適しています。
相続人同士の争いを防ぐための遺言・遺留分対策や、契約書の作成・チェックなどで力を発揮します。
紛争リスクや交渉ごとが想定される場面では、弁護士が心強い味方になるでしょう。
初回相談を無料としている事務所も多いため、まずは気軽に問い合わせてみるのも一つの方法です。
税理士
税務の専門家であり、事業承継税制の活用や相続税・贈与税の負担軽減に強みを持っているため、税金対策を重視したい場合の相談におすすめです。
特に顧問税理士がいる場合は、すでに会社の内情を理解しているため、気軽かつスムーズに相談を始められます。
自社株の評価額や税負担の見通しがなければ、承継方法の損得も判断できません。
「まず何から手をつけるべきか」を整理するうえで、税理士は最初に相談したい相手の一人だといえます。
公認会計士
会計監査や企業価値評価のプロであり、財務面から客観的な分析ができるため、会社の価値を正確に把握したい場合に頼りになります。
社内後継者への承継で税負担が重くなりやすいケースでも、数字にもとづいた助言が受けられます。
税理士資格を併せ持つ公認会計士も多く、会計と税務の両面から相談できる点も魅力です。
公的機関「事業承継・引継ぎ支援センター」
各都道府県に設置された国の公的機関で、後継者不在企業と譲受希望者のマッチングなどを無料または低コストで支援しているため、中立的な立場で費用をかけずに相談したい場合に最適です。
ただし税務や株価対策までは踏み込まないため、税理士など他の専門家との併用が前提となります。
「まず気軽に、費用をかけずに相談したい」という初期段階の経営者にぴったりの窓口です。
事業承継を銀行に相談する際によくある質問
最後に、事業承継を銀行に相談する際に多く寄せられる疑問にお答えします。
事業承継税制の活用について銀行はどこまでサポートしてくれる?
銀行は事業承継税制の情報提供や専門家紹介を行いますが、手続きの実務まで完結できるとは限りません。
税制の要となる「特例承継計画」の作成には、認定経営革新等支援機関による指導・助言が必須とされているためです。
一方で、そうでない銀行では、提携する税理士や会計士へ橋渡しする形が中心になります。
なお、特例措置を受けるための特例承継計画の提出期限は、2027年9月30日まで延長されています。
事業承継を銀行に相談するといくら費用がかかる?
銀行に事業承継を相談する際の費用は、相談内容や銀行、利用する支援サービスによって異なります。
初回相談や事業承継に関する一般的な相談は無料で対応している銀行もありますが、M&Aの仲介や企業価値評価、専門家の紹介などを依頼する場合は、別途費用が発生することがあります。
特に第三者承継としてM&Aを進める場合は、着手金や中間金、成功報酬などが設定されるケースがあります。
成功報酬は、取引金額に応じて一定の料率をかける「レーマン方式」で算出されることが一般的です。
また、銀行から提携するM&A仲介会社や税理士、弁護士などを紹介してもらう場合は、各専門家への報酬が別途必要になることもあります。
そのため、相談を始める前に、相談料の有無だけでなく、着手金・成功報酬・専門家報酬などを含めた費用の内訳を確認しておくことが大切です。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
銀行は、資金調達や自社株評価、専門家の紹介など、事業承継について幅広く相談できる身近な窓口です。
一方で、後継者探しや第三者承継を進める場合は、銀行の取引先や提携先だけでなく、より幅広い選択肢から承継方法を検討したいケースもあります。
「銀行に相談しているが、ほかの選択肢も比較したい」「後継者候補が見つからない」「第三者承継も含めて検討したい」といった場合は、複数の相談先から情報を集め、自社に合った方法を検討することが大切です。
事業承継の進め方や後継者探しでお悩みの方は、日本プロ経営者協会へご相談ください。

| 日本プロ経営者協会の概要 | |
|---|---|
| 名称 | 一般社団法人日本プロ経営者協会 |
| 設立日 | 2019年7月 |
| 活動内容 | プロ経営者によるセミナーの開催 企業への経営者の紹介 経営者に関する調査・研究 書籍の出版 |
| 代表理事 | 堀江 大介 |
| 所在地 | 東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービルディング21階 |
| URL | https://www.proceo.jp/ |
まとめ
事業承継を進める際は、銀行の役割やメリット・デメリットを理解し、自社の状況に合った相談先を選ぶことが大切です。
銀行は財務状況を把握している身近な相談相手であり、資金調達や自社株評価、専門家の紹介など幅広い支援を受けられます。
今回紹介した相談の流れや費用、銀行以外の相談先も参考にしながら、まずはメインバンクや専門家へ相談し、自社の課題や承継方法を整理してみましょう。
