「事業承継と事業継承の違いとは?」
「事業承継を行う際の注意点は?」
事業承継と事業継承は似た言葉ですが、意味には明確な違いがあります。
「事業承継」は、単に会社の株式や資産などの目に見える経営権を引き継ぐだけでなく、経営者の想いや価値観といった無形資産まで次世代へ継続させることを指します。
一方、「事業継承」は、事業そのものを引き継ぐという広い意味の言葉で、株式や不動産といった目に見える有形資産や権利を渡すことを指すことが多いです。
本記事では、二つの言葉の違いと、それぞれの適切な使い方、事業承継の具体的な方法について解説します。
これから事業承継を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
事業承継と事業継承の違い
事業承継と事業継承は、どちらも「引き継ぐ」という意味を持ちますが、大きな違いは「引き継ぐ対象が無形か有形か」という点にあります。
「事業承継」は会社や事業を次世代に引き継ぐ際に、経営理念やビジョン、企業文化、従業員や取引先との信頼関係、経営ノウハウなどの目に見えない価値(無形資産)を受け継ぐことを指します。
一方、「事業継承」は株式や不動産、経営権といった目に見える有形資産や具体的な権利を譲り渡すことを意味します。
以下に、事業承継と事業継承の違いを表にしました。
項目 | 事業承継 | 事業継承 |
---|---|---|
引き継ぐ対象 | 経営理念 ビジョン 企業文化 従業員や取引先との信頼関係 経営ノウハウ | 株式 不動産 経営権 |
ニュアンス | 「想い」や「価値観」まで含めて継続させる | 目に見える資産や権利の移転 |
目的 | 会社の存続・発展、ブランド価値の維持 | 財産や権利の譲渡そのもの |
法律上の「承継」と「継承」の違い
法律用語としては「承継」が正しく、「継承」は法律上ではあまり使われません。
- 承継…権利や義務を引き継ぐこと全般を指す法律用語です。会社法や民法などでも「事業承継」「相続承継」といった形で使われます。
- 継承…文化や伝統など、無形のものを受け継ぐ場合に使われる一般的な日本語です。
つまり、会社の株式・事業資産・債務といった法律上の権利義務を引き継ぐ場合は「承継」を使うのが正確です。
一方、家業の理念や職人技など、目に見えない精神的・文化的なものを受け継ぐ場合は「継承」が適切とされます。
会社法でも記載されているのは「承継」です。
会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
参考:会社法第2条第27号
ビジネスの現場では、承継と継承を正しく使い分けることで文章の正確性と信頼性が高まり、誤解を防ぐことができます。
事業承継と事業継承の使い分け
事業承継と事業継承は、意味の違いを理解するだけでなく、実際の文脈で正しく使い分けることが大切です。
以下の表に、ビジネスシーンにおける事業承継と事業継承の使い分け例をまとめました。
選ぶべき言葉 | 使用シーン |
---|---|
事業承継 | 後継者育成や経営者交代 国の制度や法律の表記 M&Aで事業を引き継ぐ場合 会社分割で新しい事業部を独立させる場合 |
事業継承 | 保有する株式を譲渡する場合 役職や称号の受け渡し 家元制度での跡継ぎ指名 |
会社の存続や理念の継続を意識した場面では「事業承継」を使い、単純な権利や地位の移転を表す場合は「事業継承」を使うのが一般的です。
事業承継で引き継ぐ要素3つ

事業承継で引き継ぐべき要素は、以下の3つです。
- 経営権の承継(人の承継)
- 経営資源の承継
- 物的資産の承継
それぞれの詳細と重要ポイントを解説していきます。
1.経営権の承継(人の承継)
事業承継において最も重要なのが経営権の承継(人の承継)です。
人の承継には、経営者本人だけでなく、会社を支える幹部・従業員、取引先や顧客との関係まで含みます。
まず、経営権の承継では後継者の選定と育成が欠かせません。
適切な後継者を選び、経営に必要な知識やスキルを計画的に引き継ぐことで、会社のビジョンや戦略を途切れさせずに未来へつなげることができます。
また、幹部や従業員との信頼関係を維持することも重要なポイントです。
承継のタイミングで社内に不安が広がると、優秀な人材が流出したり、業績が不安定になるリスクがあります。
後継者がスムーズに信頼を得られるよう、現経営者が積極的に橋渡しを行うことが求められます。
2.経営資源の承継
事業承継では、会社が持つ経営資源を体系的に引き継ぐことも重要です。
経営資源とは、企業活動を継続・発展させるための「財務面・知的価値・取引関係」などを指し、現場レベルでの事業運営を円滑に進める土台となります。
経営資源の主な対象と詳細は以下のとおりです。
経営資源 | 具体例 |
---|---|
財務資産 | 自社株・出資持分 運転資金 借入金・保証金 売掛金・買掛金 |
知的資産 | 経営理念 ブランド 営業ノウハウ 顧客情報 商標・特許 |
取引関係 | 主要取引先 金融機関との関係 キーパーソン人脈 |
経営資源の承継は、単なる資産や情報の引き渡しではなく、組織の強みを次世代へ確実に引き継ぐための流れです。
経営権だけでなく経営資源を計画的に引き継ぐことで、事業承継後も安定した運営と成長が期待できます。
3.物的資産の承継
事業承継において忘れてはならないのが、物的資産の承継です。
物的資産とは目に見える有形の財産を指し、具体例は以下のとおりです。
物的資産の種類 | 具体例 |
---|---|
不動産 | 事業用土地 工場 オフィスビル |
設備・機械 | 生産機械 車両 IT機器 |
商品在庫 | 製品 原材料 仕掛品 |
物的資産の承継では契約書の作成や税金の申告等の手続きが必要であり、財産の承継時には多額の税金が発生する可能性もあるため、税理士に相談しながら慎重に進めましょう。
早めの節税対策と適切な計画により、スムーズな事業承継を実現できます。
事業承継の種類3つ

事業承継には主に3つの種類があり、それぞれ異なる特徴とメリットを持っています。
承継方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
親族内承継 | 早期からの後継者育成が可能 従業員や取引先からの信頼を得やすい 税法・民法上の優遇措置がある | 後継者の適性不足のリスクがある 親族間での対立が発生する可能性がある |
親族外承継(社内承継) | 会社の業務や企業文化を深く理解している 従業員や取引先からの信頼を得やすい 後継者の資質を客観的に見極めやすい | 株式取得や資金調達の負担が大きい 親族の理解を得られない場合がある 後継者候補の流出リスクがある |
第三者承継(M&A) | 創幅広い候補者から適任者を選べる 従業員の雇用や取引先との関係を維持しやすい 現経営者が創業者利益を得られる 後継者不在でも事業存続が可能 | 相手探しや条件交渉に時間がかかる 従業員や取引先が不安を抱く可能性がある 買い手企業との文化や方針が合わないリスクがある M&Aの手続きが複雑で専門知識が必要 |
それぞれの承継方法について、詳しく見ていきましょう。
1.親族内承継
親族内承継とは、経営者の子どもや配偶者、兄弟姉妹など親族に会社を引き継ぐ方法です。
日本では最も一般的な事業承継の形であり、特に中小企業では多く採用されています。
早い段階から後継者候補を育成できるため、企業文化や経営理念をスムーズに継承しやすい点が特徴です。
親族内承継のメリット
親族内承継のメリットとしては、以下の理由が挙げられます。
- 早期からの後継者育成が可能
- 従業員や取引先からの信頼を得やすい
- 税法・民法上の優遇措置がある
親族が後継者となる場合、幼少期から経営者の考えや事業内容に触れる機会が多く、早期から後継者としての意識を育てることができます。
また、血縁関係に基づく安心感から、従業員や取引先に承継を受け入れてもらいやすく、社内外の混乱を最小限に抑えられるでしょう。
さらに、親族内承継には税法・民法上の優遇措置があり、たとえば、法人版事業承継税制(特例措置)を活用することで、株式や事業用資産を承継する際の相続税・贈与税が最大で100%猶予されます。
親族内承継のデメリット
親族内承継のデメリットとしては、以下の課題が挙げられます。
- 後継者の適性不足のリスクがある
- 親族間での対立が発生する可能性がある
親族内承継では、血縁関係を理由に後継者を決めるケースが多く、必ずしも経営者としての資質を持った人材が後継者になるとは限りません。
適性が不足している場合、事業承継後に経営が不安定になり、業績悪化を招く恐れがあります。
また、複数の親族が後継者候補になると、誰が承継するかをめぐって親族間で争いが発生するリスクがあります。
2.親族外承継(社内承継)
親族外承継(社内承継)とは、親族以外の役員や従業員に事業を引き継がせる方法で、近年多くの企業で採用されている手法です。
長年会社で働いてきた従業員なら、業務内容や企業文化を深く理解しており、スムーズな経営移行が可能でしょう。
経営者としての資質がある優秀な人材を社内から選定できるため、親族内に後継者がいない場合の有効な解決策となっています。
親族外承継(社内承継)のメリット
親族外承継(社内承継)のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 会社の業務や企業文化を深く理解している
- 従業員や取引先からの信頼を得やすい
- 後継者の資質を客観的に見極めやすい
親族外承継では、長年会社で働いてきた役員や従業員が後継者となるため、日々の業務内容や企業文化を深く理解しており、承継後もスムーズに経営を引き継げます。
また、社内で築かれた信頼関係があるため、従業員や取引先からも受け入れられやすく、経営交代による不安を最小限に抑えられます。
親族に縛られず、経営能力やリーダーシップを客観的に判断して後継者を選べるため、事業成長につながる可能性も高まります。
親族外承継(社内承継)のデメリット
親族外承継(社内承継)のデメリットとしては、以下のような課題があります。
- 株式取得や資金調達の負担が大きい
- 親族の理解を得られない場合がある
- 後継者候補の流出リスクがある
親族外承継では、後継者が経営権を持つために株式を取得する必要があり、資金調達の負担が大きくなることがあります。
また、親族が会社を継がないことに不満を持ち、親族間で対立が生じるケースもあります。
さらに、後継者候補が社外からスカウトされるなど、承継前に離職してしまうリスクもあるため、会社としての待遇改善や育成計画が不可欠です。
これらの課題を解決するためには、専門家に相談しながら事業承継計画を早期に策定し、親族や関係者への理解を得ることが重要です。
3.第三者承継(M&A)
第三者承継(M&A)とは、経営者の親族や従業員以外の外部の第三者に対して株式譲渡や事業譲渡等により事業を引き継ぐ方法です。
後継者不足に悩む中小企業で近年急増しており、企業同士のM&A(合併・買収)を活用することで、事業の存続と従業員の雇用確保を同時に実現できます。
親族や社内に後継者がいない場合の有力な選択肢です。
第三者承継(M&A)のメリット
第三者承継(M&A)のメリットは以下の通りです。
- 幅広い候補者から適任者を選べる
- 従業員の雇用や取引先との関係を維持しやすい
- 現経営者が創業者利益を得られる
- 後継者不在でも事業存続が可能
第三者承継では、親族や社内に限定せず、外部から幅広い候補者を探すことができるため、経営能力や資金力を持つ適任者を選定しやすいのが特徴です。
また、M&Aによって買い手企業の資源やネットワークを活用でき、従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま事業を発展させることができます。
さらに、現経営者は株式売却によって創業者利益を得られ、個人保証から解放されるケースも多く、安心して事業を譲渡できます。
第三者承継(M&A)のデメリット
第三者承継(M&A)には以下の課題もあります。
- 相手探しや条件交渉に時間がかかる
- 従業員や取引先が不安を抱く可能性がある
- 買い手企業との文化や方針が合わないリスクがある
- M&Aの手続きが複雑で専門知識が必要
第三者承継では、適切な相手を探すために時間とコストがかかります。
条件交渉やデューデリジェンス(企業調査)など、専門的な手続きが多く、専門家のサポートが不可欠です。
また、経営交代が外部の第三者によって行われるため、従業員や取引先が不安を感じ、離職や契約解消といった問題が起きる可能性もあります。
さらに、買い手企業との経営理念や企業文化が合わない場合、組織内の混乱や業績悪化につながるリスクがあるため、慎重な準備と計画が必要です。
事業承継を行う流れ
事業承継を行う流れは以下の手順があります。
事業承継の第一歩は、自社の現状を正確に把握することです。
財務状況、収益構造、資産・負債の状況を詳細に分析し、キャッシュフローの見通しや潜在的なリスクを明確にします。
また、相続に関する課題も検討し、法定相続人・自社株の評価・納税方法などを整理する必要があります。
次に、事業を引き継ぐのにふさわしい後継者を決定します。
血縁や経験だけでなく、リーダーシップや決断力、コミュニケーション能力などの経営者としての資質を総合的に判断することが重要です。
後継者が決定した後は、社内のさまざまな部署を経験させるジョブローテーションや外部研修への参加など、体系的な育成計画を実行していきます。
承継時期や後継者育成の方針、株式譲渡の具体的な方法を明確に定めた事業承継計画を策定します。
専門家と連携し、10年程度の中長期的な視点で計画を立てることが重要です。
この計画には、承継完了までの具体的な工程表も含める必要があります。
親族、従業員、取引先、金融機関などの関係者に対して、適切なタイミングで事業承継の方針を周知します。
特に従業員に対しては、後継者の存在を早期に周知し、実際に業務を通じて信頼関係を築く機会を設けることで、承継後の円滑な経営につなげます。
株式譲渡または事業譲渡による正式な承継手続きを行います。
株式譲渡は手続きがシンプルですが、事業譲渡は手続きが複雑になる傾向があるため注意が必要です。
契約書の作成と締結を行い、専門家に相談しながら手続きを進めることが重要です。
最後に、「経営権」「事業資産」「知的資産」の3つの要素を後継者に引き継ぎます。
株式譲渡による経営権の移転、事業に必要な資産の譲渡、そして長年培った経営ノウハウや顧客との信頼関係という知的資産の継承を行います。
この段階では、丁寧な指導と引き継ぎ計画の作成が不可欠です。
事業承継は一朝一夕に完了するものではなく、長い期間をかけて計画的に進めるプロセスです。
早期に準備を始め、専門家のサポートを受けながら段階的に取り組むことで、会社の価値を最大限に保ちながら次世代への橋渡しが可能になります。
中小企業の事業承継をめぐる現状
中小企業では、後継者不足や経営者の高齢化が深刻化しており、適切な事業承継が進まないことが大きな課題となっています。
結果的に、休廃業や解散を選択する企業が増加し、地域経済や雇用にまで影響が及んでいます。
以下では、最新の統計データをもとに、後継者不在率や経営者の高齢化の実態、そして休廃業・解散件数の推移について解説していきます。
後継者不在率と経営者の高齢化の実態
中小企業では後継者不足と経営者の高齢化が深刻化しており、早期の事業承継対策が求められています。
中小企業庁「中小企業白書2024」によると、2023年時点で後継者が未定の企業は54.5%にのぼり、経営者の70歳以上の割合も過去最高を記録しています。
特に地方では後継者候補が確保できず、現経営者が高齢のまま事業を続けるケースが増加しました。
その結果、病気や事故による急な引退で廃業や雇用喪失につながるリスクが高まっています。
事業承継は単なる世代交代ではなく企業の理念や従業員の生活を未来へつなぐものです。
国や自治体の支援制度を活用し、早期に計画を立てることが会社と地域を守ることとなります。
休廃業・解散の件数推移と地域経済への影響
中小企業の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、地域経済への影響が深刻化しています。
東京商工リサーチの調査によると、2024年の休廃業・解散件数は62,695件と過去最多を記録しました。
背景には、経営者の高齢化と後継者不足、原材料価格の高騰や人手不足などの課題が重なっています。
特に地方では代替企業が少なく、雇用喪失や取引ネットワークの分断、地域産業の衰退といった悪影響が広がりやすい状況です。
休廃業を防ぎ、会社を次世代へつなぐには、事業承継計画を早期に策定し、段階的に実行していくことが求められます。
親族内承継だけでなく、M&Aなど第三者への承継も視野に入れ、国や自治体の支援制度を活用しながら、計画的に事業を次世代へ引き継ぐ取り組みが必要です。
参考:2024年の「休廃業・解散」企業 動向調査|東京商工リサーチ
事業承継を行う際の注意点

事業承継を行う際の注意点は、以下の3つです。
- 後継者に心理的・財務的な負担が生じる
- 株式を売却すると利益に税金がかかる
- 親族間で相続トラブルが起きる可能性がある
ポイントを事前に理解しておくことで、事業承継後に起こりやすいトラブルを未然に防ぐことができます。
以下に詳しく説明しますので、参考にしてください。
後継者に心理的・財務的な負担が生じる
事業承継では、後継者が会社を引き継ぐために精神的なプレッシャーと資金面での負担を同時に抱えるケースが多く見られます。
経営者としての責任感から「事業を失敗させてはいけない」という重圧がかかり、メンタル面に大きなストレスを感じることも少なくありません。
また、株式の取得や設備投資、借入金の返済など、多額の資金を準備する必要がある場合もあります。
この負担を軽減するためには、早い段階から金融機関や専門家と相談し、承継計画を明確に立てることが重要です。
後継者を孤立させず、周囲がサポートできる体制を整えることも成功の鍵となります。
株式を売却すると利益に税金がかかる
事業承継において会社を売却する場合、株式売却による利益(売却益)には税金が課されます。
この税金は「譲渡所得税」として扱われ、所得税と住民税が合計で約20%課税されるのが一般的です。
税負担を考慮せずに売却を進めると、実際に手元に残る資金が大きく減少してしまうため注意が必要です。
以下の表で、株式売却にかかる税金の基本を整理しました。
区分 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
課税対象 | 株式の売却益(売却額 - 取得費・売却手数料) | 利益分のみが課税対象 |
税金 | 所得税+住民税=合計約20% | 高額売却ほど税負担も増加 |
申告方法 | 確定申告が必要 | 翌年3月15日までに申告・納付 |
節税対策 | 事業承継税制・特例措置など | 事前に税理士へ相談することが必須 |
株式の売却益には必ず税金がかかるため、売却前に税額を把握しておくことが欠かせません。
早い段階から税理士やM&Aアドバイザーなどの専門家と連携して、資金計画を立てておくことが成功へのポイントです。
親族間で相続トラブルが起きる可能性がある
親族内承継では、株式や資産を誰がどのように引き継ぐのかを巡って親族間で対立が発生するケースがあります。
特に、兄弟姉妹や複数の親族が関わる場合、「なぜ特定の人だけが事業を継ぐのか」「株式分配は公平か」といった問題が感情的なトラブルに発展しやすくなります。
こうしたリスクを避けるためには、遺言書や株式の譲渡計画を早めに整備し、親族全員が納得できる形で進めることが重要です。
また、第三者である専門家を交えて説明・相談を行うことで、冷静な話し合いが可能になります。
親族間の信頼関係を保ちながら事業承継を成功させるためには、法務・税務の専門知識を活用したトラブル防止策が不可欠です。
事業承継を成功させるポイント
事業承継を成功させるポイントは以下の3つです。
- 事業承継の準備を早めに始める
- 親族間の話し合いでトラブルを防ぐ
- 専門家に相談する
成功のポイントを意識して行動すれば、事業承継は単なる世代交代ではなく、会社と従業員を守るための前向きな一歩となるでしょう。
事業承継の準備を早めに始める
事業承継は、経営者の引退直前になって慌てて準備を始めると、後継者育成や資金計画が間に合わず、トラブルに発展する可能性があります。
特に後継者が未定の場合は、承継方法の選択や関係者との調整に時間がかかるため、5年~10年先を見据えて早めに計画を立てることが重要です。
早期準備を行うことで、後継者へのスムーズな権限移譲や金融機関との信頼関係構築が進み、企業価値を高めた状態で次世代へ事業を引き継ぐことができます。
親族間の話し合いでトラブルを防ぐ
事業承継では、株式や不動産などの財産をどのように分けるか、後継者を誰にするかといった問題から、親族間で意見が対立し、トラブルに発展するケースが少なくありません。
こうした事態を防ぐためには、経営者や後継者候補だけで判断せず、家族全員が集まり、早い段階から事業承継の方向性を話し合うことが重要です。
このとき、経営と相続を切り離して整理し、誰が経営を担い、誰が財産を相続するのかを明確にしておくと、感情的な衝突を避けやすくなります。
また、親族間の理解を深めることで、後継者の選定後も家族が一丸となって事業を支えやすくなり、円満な事業承継につながります。
専門家に相談する
事業承継には、税務・法務・労務など幅広い専門知識が求められるため、経営者や後継者だけで進めると大きなリスクを抱える可能性があります。
こうした課題を回避するためには、専門家のサポートを受けながら進めることが不可欠です。
特に以下の専門家への相談がおすすめです。
- 税理士
- 弁護士
- 公認会計士
- M&Aアドバイザー
- 事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)
専門家を活用することで、節税対策や最適な承継方法の提案を受けられ、複雑な手続きもスムーズに進めることができます。
早期に相談することで、安心して事業を次世代へ引き継ぐ準備が整います。
承継と継承の違いに関するよくある質問
承継と継承の違いに関するよくある質問に回答します。
- 契約書では「承継」と「継承」のどちらを使いますか?
- 中小企業における事業承継の現状や課題は何ですか?
以下に解説しますので、参考にしてください。
契約書では「承継」と「継承」のどちらを使いますか?
契約書においては、通常「承継」を使用します。
「承継」は、権利や義務を包括的に受け継ぎ、継続して引き継ぐという意味を持ち、会社の株式・資産・契約上の義務など、目に見える財産から経営権といった無形資産まで含めて引き継ぐ場合に適しています。
そのため、M&Aや事業承継契約書などでは一貫して「承継」を使うのが法務上の一般的な慣例です。
一方、「継承」は文化や伝統、技術などを受け継ぐ場合に使われることが多く、契約書の文言としてはやや抽象的で法的な明確性に欠けます。
したがって、契約書や登記など法律上の文書では「承継」を用いることが適切です。
中小企業における事業承継の現状や課題は何ですか?
中小企業の事業承継における大きな課題は、経営者の高齢化に伴う後継者不足です。
中小企業庁のデータでは、60歳以上の経営者のうち約半数が後継者を決められていないのが現状となっています。
課題 | 詳細 |
---|---|
経営者の高齢化 | 引退したくても後継者不在で引退できない状況 |
後継者不足 | 労働人口減少により今後さらに深刻化 |
後継者育成の困難 | 経営者の高齢化により育成が間に合わない |
資金・税金負担 | 財産権や経営権の移転にかかる費用が高額 |
上記の課題に対し、中小企業庁は「事業承継ガイドライン」を策定し、事業承継税制や各種補助金制度を通じて支援を行っています。
各地域の商工会議所や金融機関、専門家団体とも連携し、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)といったさまざまな事業承継の形に対応できるサポート体制を整えています。
中小企業庁や専門家の支援制度を活用しながら、経営者は早い段階で承継の準備を始めることが求められるでしょう。
事業承継と事業継承の違いのまとめ
「事業承継」は、会社の株式や資産といった目に見える経営権だけでなく、経営者の想いや価値観、従業員との信頼関係といった無形資産まで含めて、次世代へ引き継ぐことを指します。
会社を存続させ、長期的に成長させるための包括的なプロセスであり、契約書や法律上の文書でも主にこの「承継」が使われます。
一方、「事業継承」は、単に事業を受け継ぐという広い意味を持ち、文化や伝統、技術など目に見えないものを含めた一般的な“引き継ぎ”を表す場合に使われます。
つまり、会社を未来へつなぐための正式なプロセスは「事業承継」と覚えておくと安心です。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
事業承継は経営権、経営資源、物的資産の3つの要素を適切に引き継ぐ複雑なプロセスです。
特に親族外承継では、後継者選定から株式移転、知的資産の継承まで多くの課題が存在します。
一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、こうした事業承継の課題解決に特化したサポートを提供しています。
経営能力と意欲を重視した後継者選定、関係者からの理解獲得支援、個人保証の引き継ぎ対策など、承継プロセス全体をワンストップでサポートします。
事業承継や後継者問題でお悩みの方は、ぜひ日本プロ経営者協会までご相談ください。