企業価値は、基本的に「企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産」で計算します。
事業価値とは、本業によって将来生み出す利益やキャッシュフローなどをもとに算出した価値で、非事業用資産には余剰現預金や有価証券などが含まれます。
ただし、企業価値の算出方法は一つではありません。
本記事では、企業価値の計算方法や企業タイプ別の算出法、時価総額との違いについてわかりやすく解説します。
これからM&Aや事業承継を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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| 経済産業省 | ミラサポplus |
|---|---|
| 中小企業庁 | 事業承継 |
| 帝国データバンク | 倒産レポート |
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当記事を掲載している一般社団法人日本プロ経営者協会は、プロ経営者の育成・マッチングを通じて、企業の成長支援や後継者探しを含む事業承継課題の解決に取り組んでいます。
企業価値とは
企業価値とは、企業全体が持つ経済的な価値のことです。
日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」では、企業価値は、事業価値に事業以外の非事業用資産の価値を加えた、企業全体の価値として整理されています。
基本的には、企業が本業によって生み出す「事業価値」に、余剰現預金や有価証券などの「非事業用資産」を加えて算出します。
企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産
企業価値は、M&Aや事業承継などで会社の価値を把握する際の重要な指標です。
売り手と買い手が譲渡価格を検討する際の参考になるほか、自社の収益力や資産価値を客観的に見直す際にも活用されます。
なお、企業価値は株価だけで決まるものではありません。
企業価値がM&Aで重要となる理由
企業価値がM&Aで重要となるのは、売り手と買い手が納得できる譲渡価格を決めるための共通の物差しになるからです。
会社の売買では、売り手はできるだけ高く売りたい一方、買い手はできるだけ安く買いたいと考えるため、希望額だけでは交渉がまとまりません。
そこで客観的な基準として企業価値を算定し、話し合いのベースとなる価額を用意する必要があります。
たとえば、売り手が「3億円で売りたい」と主張しても、根拠がなければ買い手は判断できません。
企業価値評価によって「収益力や純資産から見て妥当な水準は2.5億円」といった算定結果が示されれば、双方が現実的な範囲で交渉を進められます。
最終的な成約価格は、企業価値を参考に、シナジーやリスク、デューデリジェンスの結果、交渉条件などを踏まえて決まります。
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企業価値とEV(事業価値)は何が違う?
企業価値とEVは似た言葉ですが、厳密にはイコールではない点に注意が必要です。
EV(Enterprise Value)は実務上、対象企業を実際に買収するときにいくら必要かという視点で使われる指標です。
| 用語 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 企業価値 | 株式価値(時価総額)+有利子負債 | 会社全体の価値 |
| EV | 株式価値+有利子負債-現金および現金同等物 | 実際の買収に必要な正味金額 |
EVで現預金を差し引く理由は、買収が完了すれば手元の現金を借入金の返済に充てられ、その分の資金が実質的に不要になるためです。
なお「EV=事業価値」として使われることも多く、文脈によって指す範囲が変わるため、どの意味で使われているかを確認することが実務では大切になります。
企業価値と時価総額は何が違う?
企業価値と時価総額は混同されがちですが、対象とする範囲が異なります。
時価総額が株主に帰属する株式価値のみを表すのに対し、企業価値は株主の取り分に加えて債権者の取り分(有利子負債)まで含めた会社全体の価値を示します。
| 概念 | 含まれる範囲 | 帰属先 |
|---|---|---|
| 時価総額(株式価値) | 株主の取り分 | 株主 |
| 企業価値 | 株主の取り分+債権者の取り分 | 株主・債権者 |
たとえば時価総額が10億円で有利子負債が4億円の上場企業なら、株主から見た価値は10億円ですが、会社全体の価値である企業価値は14億円になります。
借入の多い会社では両者の差が大きくなるため、時価総額だけで会社の実力を判断しないことが重要です。
企業価値・EV・株式価値の算出方法を比較
企業価値、EV、株式価値は、それぞれ異なる目的と計算式によって算出されます。
| 用語 | 意味 | 計算式 |
| 企業価値 | 会社全体の経済的価値 | 株式価値 + 有利子負債 |
|---|---|---|
| EV(事業価値) | 本業から生み出される価値 | 企業価値 - 非事業用資産 |
| 株式価値 | 株主に帰属する価値 | 企業価値 - 有利子負債 |
たとえば、会社を買収する際、買い手は「株式価値」の金額を支払って経営権を取得します。
しかし、その後に会社の負債も引き受けることになるため、実質的な買収コストは「企業価値」として把握しなければなりません。
このように、各指標の算出方法と構成要素を比較して把握することが、適切な評価につながります。

企業価値の計算方法3つ

企業価値を計算する手法には、大きく分けて3つのアプローチが存在します。
会社の現在の資産をベースにする方法、将来の利益を重視する方法、そして市場の相場と比較する方法です。
ここでは、それぞれの評価方法の考え方や具体的な計算の仕組みについて解説します。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業が将来どれだけ利益やキャッシュフローを生み出せるかに着目して、企業価値を評価する考え方です。
評価対象となる企業から、将来期待される利益や、キャッシュ・フローに基づき、価値を評価する方法である。将来の収益力を企業価値に反映させやすく、また、評価企業の独自の収益性などを基に、価値を測定できる。
引用:インカムアプローチ|グロービス経営大学院
将来性や事業リスクを反映できるため、「今後の稼ぐ力」を重視した評価を行いたい場面で用いられます。
代表的な算定方法には、DCF法・配当還元法・収益還元法があり、企業の状況に応じて使い分けられます。
DCF法
DCF法では、将来生み出すFCF(フリーキャッシュフロー)をWACCなどの割引率を用いて現在価値に換算します。
具体的には、予測期間中の各年のFCFを現在価値に割り引いた金額と、予測期間終了後の継続価値(ターミナルバリュー)の現在価値を合計して事業価値を算出します。
その後、余剰現預金や有価証券などの非事業用資産を加えることで企業価値を求めます。
事業価値 = Σ{FCFₜ ÷(1+WACC)ᵗ}+ 継続価値 ÷(1+WACC)
割引率にはWACCが用いられ、事業リスクが高いほど価値は低く算出されます。
配当還元法
配当還元法は、将来受け取ると予想される配当金を現在価値に割り引き、株式価値を算出する方法です。
株主が企業から得られる経済的な利益の一つである配当に着目して評価するため、将来の配当額や株主資本コストなどをもとに算出します。
配当が一定額で継続すると仮定する場合、基本的な計算式は以下です。
株式価値=1株当たりの予想配当金÷株主資本コスト
ただし、配当額は企業の配当方針によって左右されるため、配当が少ない企業や内部留保を重視する企業では、実際の収益力を十分に反映できない場合があります。
そのため、DCF法などほかの評価方法と組み合わせて判断することが重要です。
収益還元法
収益還元法とは、将来にわたって得られると見込まれる利益を基準に企業価値を算出する、インカムアプローチの代表的な方法です。
企業価値は「どれだけ安定して利益を生み出せるか」によって左右されるため、過去実績や事業計画から算出した平均利益を用いて評価する収益還元法は、考え方が直感的で理解しやすいという特徴があります。
収益還元法の基本的な計算式は、以下です。
事業価値(または株式価値) = 予想平均利益 ÷ 還元利回り
予想平均利益が1,000万円、還元利回りが10%の場合、企業価値は1億円と算出されます。
収益が安定している中小企業では、DCF法よりも簡易的に評価できる点が特徴です。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場で形成された価格や取引実績を基に企業価値を算出する評価手法です。
市場株価法・類似企業比較法・類似取引比準法といった方法があり、いずれも客観性の高さが特徴です。
マーケットアプローチは、非公開企業にも適用でき、かつ、市場で取引される価額を基準としているため客観性に優れるメリットがある。一方で、類似の上場企業がない、取引相場情報が入手できない、あるいは類似企業と比較対象企業の成長ステージが異なるなど、類似企業の選定や情報の入手が難しいケースがあるデメリットがある。
引用:マーケットアプローチ|グロービス経営大学院
以下では、それぞれの手法の考え方と算出イメージを分かりやすく解説します。
市場株価法
市場株価法は、株式市場で形成されている株価をもとに株式価値を算出するマーケットアプローチの一つです。
上場企業では日々株式が売買されており、市場株価には企業の収益力や成長性、将来への期待などが反映されています。
そのため、市場で形成された価格を利用して客観性の高い評価を行いやすい点が特徴です。
基本的な計算式は以下です。
時価総額(株式価値=株価×発行済株式数
実務では、特定の日の株価だけではなく、一定期間の平均株価を用いることで一時的な価格変動の影響を抑える場合もあります。
ただし、市場株価が存在しない非上場企業には直接適用できないため、主に上場企業の株式価値を評価する際に用いられます。
類似企業比較法
類似企業比較法は、マーケットアプローチの中でも比較的分かりやすく、計算式で企業価値を把握できる評価手法です。
同じ業界やビジネスモデルを持つ上場企業の市場評価を基準にするため、理論だけでなく実際の市場感覚を反映した企業価値を算出しやすいというメリットがあります。
類似企業の倍率が6倍で、評価対象企業のEBITDAが5億円であれば、企業価値は約30億円と算出できます。
類似取引比準法
類似取引比準法は、同業界で行われた過去のM&A取引を基準に企業価値を算出する、マーケットアプローチの代表的な方法です。
市場で実際に成立した取引価格を基にするため、理論だけでなく実態に即した企業価値を把握しやすいのが特徴です。
例えば、同業界のM&AでEBITDA倍率が5倍と確認でき、自社のEBITDAが1億円の場合、企業価値は5億円と算出します。
ただし日本では取引データが限定的なため、慎重な比較が求められます。
コストアプローチ
コストアプローチとは、企業が現在保有している資産と負債を基準に企業価値を算出する評価方法です。
帳簿上や時価の数値を用いるため、理論がシンプルで初心者にも理解しやすい特徴があります。
対象企業の貸借対照表の純資産に着目して、企業価値を評価することである。帳簿上の純資産をベースとしているため、客観性に優れている。しかし、一時点の純資産に基づいた価値評価となるため、のれんなどが適正に計上されていない場合、将来の収益能力の反映や、市場での取引環境の反映も難しい。また、特許といった技術資産が持つ収益力の反映がなされないというデメリットもある。
引用:コストアプローチ|グロービス経営大学院
以下では、代表的なコストアプローチの手法について、それぞれの考え方と特徴を解説します。
簿価純資産法
簿価純資産法は、貸借対照表に記載されている資産と負債の帳簿価額をもとに株式価値を算出するコストアプローチの一つです。
企業が保有する資産の合計から負債の合計を差し引くことで、帳簿上の純資産を求めます。
計算式は以下です。
簿価純資産 = 資産合計 - 負債合計
帳簿に記載された数値を使用するため計算が簡単で、客観的な数値をもとに評価できる点が特徴です。
一方で、不動産や有価証券などの含み益・含み損や、ブランド力、技術力、将来の収益力などは十分に反映されません。
時価純資産法
時価純資産法は、企業が持つ資産と負債を時価で評価し、企業価値をシンプルに算出できる方法です。
帳簿上の数字ではなく、市場価値を反映した金額を用いるため、企業の実態に近い価値を把握しやすくなります。
計算式は「時価純資産=時価資産合計−時価負債合計」です。
このように数字を当てはめるだけで算出できます。
ただし、ブランド力などの無形価値は反映されません。その特性を理解したうえで、企業価値評価として活用することが重要です。
時価純資産+営業権法
時価純資産+営業権法は、コストアプローチの中でも「将来の収益力」を加味できる、初心者にも理解しやすい企業価値評価手法です。
資産と負債を時価で評価した純資産に、利益の継続性やブランド力といった営業権を上乗せするため、帳簿上では見えない価値まで反映できます。
年買法では、株式価値=時価純資産+(年間利益×年数)という計算式を用います。
清算価値法
清算価値法は「会社を清算した場合にいくら残るか」を基準に企業価値を算出する方法です。
コストアプローチの中でも、廃業や倒産を前提とした評価で用いられます。
保有する資産を売却した金額から負債を差し引くため、将来の収益予測が不要で、計算が比較的分かりやすい点が特徴です。
清算価値は「清算価値=資産の時価合計-負債総額」という計算式で算出します。
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企業タイプ別に見る企業価値の算出方法
企業価値の適切な計算方法は、対象となる企業の規模や上場・非上場の違いによって大きく異なります。
それぞれの企業が置かれている状況に合わせて、最も理にかなった評価手法を選択することが重要です。
ここでは、企業タイプ別に適した算出法について解説します。
上場企業の企業価値を算出する方法
上場企業の企業価値は、市場株価をベースとしたマーケットアプローチで算出するのが基本です。
株式市場で日々取引される株価が、多くの投資家の判断を反映した客観的な価値を示しているからです。
具体的には、株価に発行済株式数を掛けて時価総額(株式価値)を求め、そこに有利子負債を加えて企業価値を計算します。
| ステップ | 計算内容 |
|---|---|
| 1 | 時価総額=株価×発行済株式数 |
| 2 | 企業価値=時価総額+有利子負債 |
| 3 | EV=時価総額+有利子負債-現預金 |
一時的な株価変動の影響を抑えたい場合は、過去数か月の平均株価を用います。
有価証券報告書などで財務データが公開されているため、DCF法やEV/EBITDA倍率と組み合わせて多面的に評価しやすいのも特徴です。
非上場企業の企業価値を算出する方法
非上場企業の企業価値は、市場株価が存在しないため、コストアプローチやインカムアプローチを中心に算出します。
株価が公開されておらず時価総額を直接求められないため、純資産や将来収益といった別の基準に頼る必要があるからです。
実務では、時価純資産に営業権を加える年買法(時価純資産+営業権法)が広く使われます。
一方で、類似する上場企業のEV/EBITDA倍率を借りて評価する類似企業比較法も、マーケットアプローチとして活用可能です。
- 資産の実態を重視するなら時価純資産法や年買法
- 将来の収益性を反映するならDCF法
- 相場観を取り入れるなら類似企業比較法
一つの手法に頼らず、複数の方法を組み合わせて総合的に判断することで、より納得感のある評価額に近づけます。
スタートアップの企業価値を算出する方法
スタートアップの企業価値(バリュエーション)は、将来の成長期待を大きく織り込んで算出するのが特徴です。
創業から日が浅く、現時点では利益やキャッシュフローが出ていない、あるいは赤字であるケースが多いからです。
そのため、純資産を基準とするコストアプローチでは価値が低く出てしまい、実態に合いません。
実務では、簡易的に倍率で価値を求めるマルチプル法や、将来の事業計画をもとにしたDCF法が用いられます。
- 類似スタートアップの資金調達額を参考にするマーケットアプローチ
- 将来の急成長を前提にした事業計画をもとにするインカムアプローチ
- DCF法では割引率にVCの期待収益率(VCレート)を用いることが多い
資金調達の場面では、投資家に成長性を説明できる根拠を用意することが、適切なバリュエーションにつながります。
中小企業の企業価値を計算する際のポイント
中小企業の企業価値を計算する際は、決算書の数字をそのまま使わず、実態に引き直すことが重要なポイントになります。
中小企業の決算書には、オーナーの過大な役員報酬や私的経費、一時的な特需などが含まれており、本来の稼ぐ力が見えにくいからです。
こうした要素を調整し、平常時に継続して生み出せる正常収益力を算定する作業を「利益の正常化」といいます。
- 過大な役員報酬や私的経費を業界水準に引き直す
- 一過性の利益や損失を除外して正常な利益を求める
- 土地や有価証券の含み損益を時価で反映する
正常化を飛ばして直近の利益だけで評価すると、実態とかけ離れた金額になりかねないため注意が必要です。
企業価値の評価を左右する5つの要因

企業価値は、単純な計算式だけで決まるものではなく、様々な外部環境や内部事情の影響を受けて変動します。
M&Aの交渉においては、これらの要因を正しく把握し、評価額にどう反映させるかが成約の鍵を握ります。
ここでは、企業価値に影響を与える5つの要因を紹介します。
M&Aや事業承継などによる「目的要因」
目的要因とは、何のために企業価値を評価するのかという目的そのものが評価額に影響する要因です。
同じ会社でも、M&Aによる売却、事業承継、相続、資金調達など目的が違えば、重視される視点や適用される手法が変わるためです。
たとえばM&Aでは買い手のシナジー効果を加味した価格が意識されますが、相続税の算定では税務上のルールに沿った評価が求められます。
このため、企業価値は「一物多価」と表現され、目的に応じて複数の異なる金額が算出され得ます。
- M&A・売却:シナジーや将来収益を反映しやすい
- 事業承継:後継者への移転や自社株評価を重視
- 相続・贈与:財産評価基本通達など税務基準に沿う
自分が何のために評価するのかを明確にすることが、適切な手法選びの出発点になります。

景気や経済動向を示す「一般要因」
一般要因とは、景気や金利、為替といった経済全体の動向が企業価値に及ぼす影響を指します。
企業は経済という大きな環境の中で事業活動を行っており、その良し悪しが将来の収益予測や投資家の期待に直結します。
たとえば金利が低い環境では、資金調達コストが下がり、株式の相対的な魅力が高まって評価が上がりやすくなります。
反対に景気が後退局面に入ると、投資家はより高いリターンを求めるため、同じ利益でも評価額が抑えられる傾向があります。
- 金利の水準は割引率(WACC)を通じて評価に影響する
- 景気動向は将来の売上・利益予測を左右する
- 市場全体のムードが投資家心理に反映される
自社の努力ではコントロールしにくい外部環境も、価値を左右する重要な要素だと理解しておきましょう。
市場の成長性や競合状況を反映する「業界要因」
業界要因とは、対象企業が属する業界の成長性や競合状況が企業価値に反映される要因です。
将来の収益力は、その会社単体の努力だけでなく、業界全体が伸びているか成熟しているかによっても大きく変動します。
たとえばEV/EBITDA倍率は、成長が期待される業界では8〜10倍程度、成熟業界では3〜5倍程度が目安とされます。
- 市場の成長性が高いほど将来性が価値に上乗せされる
- 競合が激しい業界では収益性が割り引かれやすい
- 倍率は業種によって大きく異なるため同業比較が基本
自社の価値を考える際は、業界全体の動向という視点を持つことが欠かせません。
自社の収益力や財務状況といった「企業要因」
企業要因とは、対象企業自身の収益力や財務状況、無形資産といった内部の要素が企業価値を左右する要因です。
最終的に価値の源泉となるのは、その会社がどれだけ安定して利益を生み出せるかという実力そのものです。
近年は、ブランドや技術、顧客基盤、人的資本といった帳簿に載らない無形資産が価値の中心になるケースも増えています。
- 正常収益力の高さと安定性が評価を押し上げる
- 健全な財務状況はリスクの低さとして評価される
- ブランド・技術・組織などの無形資産が価値を上乗せする
自社でコントロールできる部分だからこそ、日頃の経営が価値の向上に直結します。
株式の流動性や支配権が影響する「株主要因」
株主要因とは、株式の流動性や支配権の有無といった、株主の立場に関わる要素が企業価値に影響する要因です。
同じ会社の株式でも、自由に売買できるか、あるいは経営を左右できる支配権を伴うかによって、その価値は異なります。
たとえば非上場株式は市場での売買が難しく流動性が低いため、上場株式と比べて価値が割り引かれる傾向があります。
また、会社の意思決定を左右できる過半数の株式には、支配権プレミアムとして価値が上乗せされることがあります。
- 流動性が低い非上場株式は評価が下がりやすい
- 支配権を持つ株式には上乗せ(プレミアム)が生じる
- 少数株主の株式は配当還元法などで評価されることが多い
誰がどれだけの株式を保有しているかという視点も、価値を判断するうえで重要になります。
企業価値計算ツールの活用法
企業価値の計算は専門家に依頼するのが基本ですが、事前の目安を知りたい段階では計算ツールやエクセルの活用が有効です。
自社でおおよその評価額を把握しておくことで、相手がどのような前提で評価しているかを冷静に分析でき、交渉を有利に進める出発点になるからです。
ただし、こうしたツールはあくまで簡易的な把握のためのものであり、正常収益力の調整や無形資産の評価といった専門的な判断までは代替できません。
参考値として活用しつつ、実際のM&Aや事業承継では専門家による精緻な評価と組み合わせる姿勢が大切です。
企業価値をエクセルで簡単に計算する方法
企業価値は、DCF法の計算式をエクセルに組むことで、自分でも簡単にシミュレーションできます。
将来のFCFを現在価値に割り引く計算は、表計算ソフトの数式機能と相性がよいからです。
基本的な組み方は、年度ごとにFCFを入力し、それぞれをWACCで割り引いて合計する流れになります。
| 項目 | エクセルでの計算イメージ |
|---|---|
| 各年のFCF | 営業利益×(1-税率)+減価償却費-設備投資±運転資本増減 |
| 割引計算 | FCF÷(1+WACC)の年数乗 |
| 継続価値 | 最終年度FCF×(1+成長率)÷(WACC-成長率) |
| 事業価値 | 各年の現在価値と継続価値の合計 |
このように列を作れば、割引率や成長率を変えたときに価値がどう動くかも一目で確認できます。
前提条件を変えて複数のシナリオを試せる点が、エクセル活用の大きなメリットです。
売り手が企業価値評価で気をつけるべきポイント

以下では、企業価値評価において売り手が特に注意すべきポイントを3つご紹介します。
- 正常利益を正しく算定する
- 含み益・含み損を整理する
- 会社の強みや成長性をアピールする材料を整える
それぞれの項目をしっかり理解し、買い手との交渉で不利にならないようにしてください。
正常利益を正しく算定する
売り手にとって正常利益を正しく算定することは、企業価値評価で最大限の評価を得るために重要です。
M&Aや企業価値評価では、一時的な収益や特別損益を調整し、「本来稼ぐ力」を明確に示す必要があります。
曖昧だと買い手からリスクが高いと判断され、期待した評価が得られなくなります。
例えば、臨時の設備売却益や特別損失が計上されていた場合、それらを除外した上で利益を算出します。
また、過剰な役員報酬や福利厚生費、節税目的の支出なども業界水準で再計算し、より実態に近い利益へと調整します。
そうすることで、買い手にとって納得感のある評価資料となり、交渉も有利に進みます。
含み益・含み損を整理する
企業価値評価では、保有資産の簿価と現在の時価に差がないかを確認し、含み益・含み損を整理することが重要です。
決算書に記載された帳簿価額が、現在の市場価値と一致しているとは限らないためです。
特に土地や建物、有価証券などは、取得時から価格が大きく変動している場合があります。
例えば、帳簿価額5,000万円の土地の時価が8,000万円まで上昇していれば、3,000万円の含み益があります。
反対に、時価が3,000万円まで下落していれば、2,000万円の含み損が生じていることになります。
こうした含み損益は、必ずしもそのまま財務諸表に反映されているとは限りません。
そのため、時価純資産法などを用いて企業価値・株式価値を評価する際には、資産を時価に評価し直して実態に近い価値を把握する必要があります。
売り手は、事前に主要な資産の含み益・含み損を整理しておくことで、買い手との価格交渉で評価の根拠を説明しやすくなります。
会社の強みや成長性をアピールする材料を整える
企業の強みや成長性を具体的に示すことが、より高い評価額を引き出すポイントです。
企業価値は財務データだけで決まるのではなく、今後の伸びしろや独自性のアピールによって買い手の期待値が変わるからです。
たとえば、IT活用で業務効率化を図っている会社や、新規事業への積極投資・研究開発を行い、増収率や増益率が右肩上がりである企業は、買い手にとって魅力的です。
また、損益計算書や貸借対照表を整理し、停滞している資産や負債がないように事前準備を行うことも、一目で分かりやすい強みとなります。
企業価値評価で高い評価を得るには、会社の将来性や独自の強みを数値等で分かりやすく伝えられるように準備することが大切です。
双方の利害が絡む複雑な判断となるため、M&Aの専門家に相談しながら検討を進めることをおすすめします。

買い手が企業価値評価で確認すべきポイント

買い手が企業価値評価で確認すべきポイントは、以下の3つです。
- 買収価格の妥当性を見極める
- 財務の実態とリスクを徹底的に調査する
- 投資に見合うリターンとシナジー効果を検証する
それぞれのポイントについて解説していきます。
買収価格の妥当性を見極める
企業価値評価は数字だけでなく、業界の相場や成長性、将来のリスクなど多角的な観点から見る必要があります。
高すぎれば投資回収ができず損失リスクが増し、安すぎれば他社に競り負ける可能性があります。
「インカムアプローチ(DCF法など)」では将来キャッシュフローを予測し現在価値に割り引きます。
ほかにも「マーケットアプローチ(類似企業との比較)」や「コストアプローチ(資産価値重視)」を使い、相場感や目的に応じて組み合わせるのが一般的です。
例えば、IT企業なら、急な技術革新リスクや主要人材の流出リスクも必ず評価材料に加えます。
財務諸表だけでなく負債や潜在リスクもチェックし、想定外の債務にも注意するようにしてください。
財務の実態とリスクを徹底的に調査する
買収で後悔しないためには、財務の実態とリスクを徹底的に調査することが重要です。
表面上の決算書の数字だけでは本当の企業の健康状態やリスクを把握できません。
決算書には現れない不正会計や簿外債務、将来的な税務リスクなどの問題が隠れている場合もあるためです。
譲渡企業が提示する財務データの裏付けを取るため、財務デューデリジェンス(FDD)を行います。
土地や資産の評価額が適正かを調べたり、想定外の簿外債務や偶発債務(将来発生しうる未認識の負債)がないかを確認します。
また、粉飾決算が行われていないか、不自然な売上計上や原価調整がないかをチェックし、正常な収益力を算定します。
税務リスクの確認や、過去数年分の財務諸表をもとに、将来のキャッシュフロー予測も重要な作業です。
このように、表面的な財務データだけで判断せず、徹底した調査を通じて企業価値の裏付けとリスク把握を行うことが大切です。
投資に見合うリターンとシナジー効果を検証する
投資に対して見合うリターンとシナジー効果を判断するには、「どのくらい利益・成長が見込めるか」「どれだけコストや時間を削減できるか」の2点が重要です。
将来キャッシュフローや具体的なシナジー効果(コスト削減・売上増加など)を正しく予測することが、投資回収の確実性に直結します。
| ポイント | 詳細 | 具体例 |
|---|---|---|
| 売上増加の見込み | 両社の顧客基盤や商品の相互活用 | 新市場参入・クロスセル |
| コスト削減 | 管理部門・生産設備の統合 | 重複業務・部門の整理 |
| 技術・ノウハウ強化 | 研究開発の共有、人的資源の補完 | 新製品開発・効率化 |
| 財務 | 資金調達力・キャッシュフローの改善 | 余剰資金の活用・資金調達力向上 |
買い手は「期待できるリターンやシナジー効果が数値でしっかり説明されているか」を企業価値評価で確認する必要があります。
根拠に基づいた事業計画・相乗効果の可能性を冷静に見極めることが重要です。
企業価値評価を行うタイミング
企業価値評価を行うタイミングは、主に経営の大きな意思決定やM&Aを考える際に訪れます。
企業価値の評価は、譲渡や買収の判断材料となります。
客観的な価値を知ることで、適切な価格交渉や事業計画が可能になるからです。
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| M&Aの検討時 | 事業売却や買収の可否を判断するための基準 |
| 事業承継の手続き前 | 次世代への引き継ぎで適正な評価額を知るため |
| 大型資金調達や上場準備 | 投資家や株主への説明や交渉材料とするため |
| 経営方針の見直し時 | 現状分析や成長戦略の検討に役立てるため |
このように、企業価値評価は重要な経営判断やM&Aの大きな分岐点で実施することが大切です。
迷った時は、上記のタイミングを参考に検討しましょう。
企業価値評価に関するよくある質問
企業価値評価に関するよくある質問に回答します。
- 企業価値評価ガイドラインとは何ですか?
- 企業価値はEBITDAの何倍を目安に考えればいい?
- DCF法で使うWACCはどのように計算する?
- 企業価値を調べるにはどのような情報が必要?
- なぜPERは15倍なのですか?
企業価値評価ガイドラインとは何ですか?
「企業価値評価ガイドライン」とは、日本公認会計士協会が公表する、企業価値評価業務の実務上のガイドラインのことです。
公平なルールがあることで、買い手も売り手も納得できる妥当な金額を導き出せるようになります。
具体的には、将来の利益を予測する手法や、似た企業の株価を参考にする方法などの手順が詳しく定められています。
例えば、企業の買収や相続といった重要な場面でこのガイドラインが使われることで、計算ミスや不当な評価を防げます。
参考:企業価値評価ガイドライン
企業価値はEBITDAの何倍を目安に考えればいい?
企業価値の目安は、EV/EBITDA倍率で見ると業種や規模によって幅がありますが、一つの基準として上場企業で8〜10倍程度とされます。
EV/EBITDA倍率は、買収コストを本業の利益で何年で回収できるかを示す指標であり、倍率が低いほど割安と判断されるからです。
非上場の中小企業の場合は、流動性や規模の観点から上場企業よりも評価が割り引かれることが多く、EV/EBITDA倍率としては3〜5倍程度が目安とされます。
| 区分 | EV/EBITDA倍率の目安 |
|---|---|
| 上場企業(平均) | 8〜10倍程度 |
| 中小企業 | 3〜5倍程度 |
ただし、これは市場環境や業界動向で変動する大まかな指標です。
あくまで初期段階の目安とし、個別の判断は多角的な分析で行いましょう。
DCF法で使うWACCはどのように計算する?
DCF法で割引率として使うWACC(加重平均資本コスト)は、株主資本コストと負債コストを資本構成で加重平均して計算します。
企業は株主からの出資(自己資本)と金融機関からの借入(負債)の両方で資金を調達しており、その平均的なコストが将来キャッシュフローを割り引く率になるからです。
計算式は「WACC=株主資本比率×株主資本コスト+有利子負債比率×税引後負債コスト」となります。
株主資本コストは直接求めるのが難しいため、一定の前提を置いたCAPMという理論に基づいて算定するのが一般的です。
- 低金利で借入をしている企業は負債コストが下がりWACCも低下
- 株主が高いリターンを求めるとWACCは上昇
- WACCの設定は企業価値を大きく左右する
割引率の妥当性が評価結果を大きく変えるため、慎重な設定が求められます。
企業価値を調べるにはどのような情報が必要?
企業価値を調べるには、財務諸表を中心とした会社の実態がわかる情報が必要です。
どのアプローチを使うにしても、純資産や利益、キャッシュフローといった数値が計算の基礎になるからです。
まずは最新の決算書(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)を整え、勘定科目の内容を精査します。
- 直近数年分の財務諸表と事業計画
- 土地・有価証券などの時価がわかる資料
- 役員報酬や特別損益など正常収益力の調整に必要な情報
- ブランド・技術・顧客基盤といった無形資産の説明資料
マーケットアプローチを使う場合は、類似する上場企業の有価証券報告書などの公開データも活用します。
これらを事前にそろえておくことで、精度の高い評価をスムーズに進められます。
なぜPERは15倍なのですか?
PER(株価収益率)は15倍前後が一つの目安とされることがあります。
これは、日本の株式市場においてPERが15倍前後で推移してきた時期が長く、市場平均を判断する際の参考水準として使われてきたためです。
PERは「株価が1株当たり利益(EPS)の何倍まで評価されているか」を示す指標で、以下の計算式で求めます。
PER = 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)
PER15倍が一つの目安とされる背景には、主に以下のような考え方があります。
- 日本株の市場平均と比較する際、15倍前後が一つの参考水準として用いられてきた
- PERの逆数である利益利回りに換算すると、PER15倍は約6.7%となる
- PERが高い企業は、将来の利益成長に対する期待が株価に織り込まれている場合がある
- PERが低い企業は、成長期待が低いほか、事業リスクなどが株価に織り込まれている場合がある
このように、15倍という数字は絶対的なルールではありませんが、相対的な割安・割高を判断するための基準(ベース)として広く共有されています。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
企業価値評価は、M&Aや事業承継において適正な取引を行うために欠かせない重要な指標です。
しかし「会社をいくらで評価すべきか」「どの承継方法が最適か」といった判断は、経営者ご自身だけで解決するのは容易ではありません。
日本プロ経営者協会は、国内最大級のプロ経営者ネットワークを活かし、中小企業からクリニック・医院まで幅広い分野で事業承継・経営統合を支援してきた実績を持つ専門組織です。
資産・負債の整理、将来キャッシュフローを踏まえた評価、そして承継後の経営戦略立案に至るまで、一貫したサポートをご提供いたします。
後継者問題や承継準備に不安をお持ちの経営者様は、ぜひお気軽に当協会へご相談ください。

| 日本プロ経営者協会の概要 | |
|---|---|
| 名称 | 一般社団法人日本プロ経営者協会 |
| 設立日 | 2019年7月 |
| 活動内容 | プロ経営者によるセミナーの開催 企業への経営者の紹介 経営者に関する調査・研究 書籍の出版 |
| 代表理事 | 堀江 大介 |
| 所在地 | 東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービルディング21階 |
| URL | https://www.proceo.jp/ |
まとめ
企業価値の評価では、将来の収益に着目するインカムアプローチ、市場相場と比較するマーケットアプローチ、保有資産を基準とするコストアプローチの3つを理解し、会社の規模や上場・非上場の状況に合った手法を選ぶことが大切です。
また、正常収益力の算定や含み損益の整理を丁寧に行うことで、より実態に近い評価へと近づけられます。
今回紹介した計算方法や評価を左右する要因を押さえ、複数の手法を組み合わせて総合的に判断し、売り手・買い手の双方が納得できる適正な評価額を導き出すことが、円滑な交渉の土台となります。

