「事業承継の費用はどれくらいかかる?」
事業承継では、相続税や贈与税、法人税、譲渡所得税、各種登記に関する税金が発生するほか、税理士・弁護士やM&A仲介会社など専門家への報酬も必要になります。
承継の方法や会社の規模によっても負担額は大きく異なり、事前の準備や対策によって大幅な節税やコスト削減が可能です。
本記事では、「事業承継にかかる費用」や「事業承継の費用を抑える方法」について詳しく解説します。
事業承継で不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
監修者

代表理事
小野 俊法
経歴
慶應義塾大学 経済学部 卒業
一兆円以上を運用する不動産ファンド運用会社にて1人で約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント・セキュリティプリンティング会社を設立(後に2社売却)。
その後M&Aアドバイザリー業務経験を経てバイアウトファンドであるACAに入社。
その後スピンアウトした会社含めファンドでの中小企業投資及び個人の中小企業投資延べ16年程度を経てマラトンキャピタルパートナーズ㈱を設立、中小企業の事業承継に係る投資を行っている。
投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。
事業承継にかかる費用
事業承継では税金や専門家への報酬など、多くの費用が発生します。
なぜなら、会社の資産や株式を引き継ぐ際には相続税や贈与税などの税金が課せられ、さらに手続きの複雑さから税理士や弁護士への依頼が必要になるからです。
費用項目 | 詳細 |
---|---|
相続税 | 会社の資産を相続するときにかかる税金 |
贈与税 | 親族や第三者に資産や株式を贈与するときにかかる税金 |
法人税 | 事業の利益に対してかかる税金 |
登録免許税 | 登記に関する税金。株式や不動産の名義変更で発生 |
不動産取得税 | 不動産を取得した際にかかる税金 |
専門家報酬 | 税理士や弁護士、M&A仲介業者などへの報酬 |
手続き実費 | 登記変更や書類作成時にかかる実費 |
親族内承継の場合、税理士費用は、業務内容や規模によって100万円〜1,000万円程度と幅があります。
M&Aによる承継では、仲介業者への成功報酬が譲渡価格の1~5%かかることもあります。
事業承継の費用は承継方法や会社の規模により大きく異なるため、事前に専門家へ相談することが重要です。
事業承継にかかる税金

事業承継にかかる税金は以下の通りです。
- 相続税
- 贈与税
- 法人税
- 譲渡所得税
- 消費税
- 登録免許税
事業承継では複数の税金が同時に発生する可能性があり、それぞれに異なる税率と計算方法が適用されます。
これらの税金を正しく理解することで、適切な事業承継計画を立てることが可能です。
それでは事業承継にかかる税金について解説していきます。
相続税
事業承継時には会社の株式や事業用資産を相続するため、一般的な相続よりも課税対象額が大きくなります。
相続税の税率は課税価格に応じて10~55%まで段階的に上昇し、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えた部分に課税されます。
法定相続分に応じた取得金額(A) | 税額 |
---|---|
1,000万円以下 | A×10% |
1,000万円超から3,000万円以下 | A×15%-50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | A×20%-200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | A×30%-700万円 |
1億円超から2億円以下 | A×40%-1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | A×45%-2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | A×50%-4,200万円 |
6億円超 | A×55%-7,200万円 |
遺産総額1億円、相続人が妻と子ども2人の場合を見てみましょう。基礎控除額は4,800万円となり、課税対象額は5,200万円になります。法定相続分で計算すると、妻の相続税額は340万円、子どもそれぞれは145万円となり、総額630万円の相続税が発生します。
ただし、事業承継税制を活用すれば、一定の要件を満たした場合に相続税の支払いを猶予・免除できます。
贈与税
贈与税の税率は基礎控除額110万円を超えた部分に対して10~55%まで段階的に上昇し、年間110万円以下であれば贈与税はかかりません。
課税価格(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
父親から息子へ500万円の贈与を行った場合を見てみましょう。基礎控除額110万円を差し引いた課税価格は390万円となります。
特例税率を適用すると、390万円×15%-10万円=48万5,000円の贈与税が発生します。
一般贈与(特例贈与ではない)で、配偶者から800万円の贈与を受けた場合、課税価格は690万円になります。
税率40%、控除額125万円を適用すると、690万円×40%-125万円=151万円の贈与税となります。
しかし、事業承継税制を活用すれば、対象となる株式の評価額の80%が猶予され、一定の要件を満たした場合に贈与税の支払いを猶予・免除できます。
法人税
法人税の税率は事業所得が年間800万円を超えると一律23.20%になり、個人事業主の所得税(5%から45%)よりも税負担を抑えられます。
事業承継で重要なのは、承継方法によって法人税の発生有無が決まることです。
課税所得2,000万円のうち資本金1億円以下の法人を見てみましょう。
800万円以下の部分は800万円×15%=120万円、800万円超の1,200万円部分は1,200万円×23.2%=278万4,000円となり、合計398万4,000円の法人税が発生します。
事業承継では株式譲渡や相続による承継なら法人税は発生しませんが、事業譲渡による承継では上記のような法人税が必要になります。
譲渡所得税
事業承継時に会社の株式や事業用資産を売却すると、譲渡所得税が発生します。
事業承継における譲渡所得税は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。
税率は資産の所有期間によって決まり、5年以下の短期譲渡所得では約39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)、5年超の長期譲渡所得では約20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)となります。
【会社株式を4,000万円で売却し、取得費が3,000万円、譲渡費用が100万円の場合】
譲渡所得は4,000万円-3,000万円-100万円=900万円となります。所有期間が3年の短期譲渡所得なら、900万円×39.63%=約357万円の譲渡所得税が発生します。
長期譲渡所得なら900万円×20.315%=約183万円となり、所有期間によって大きく税負担が変わります。
消費税
事業承継における消費税の納税義務は、法人と個人事業主で大きく異なります。
法人の場合は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、引き続き課税事業者として納税義務が発生します。
一方、個人事業主の場合は、生前贈与による事業承継では後継者が新たに開業したとみなされ、基本的に2年間は免税事業者となるため消費税の納税義務はありません。
譲渡側は対価を受け取らないため消費税の支払い義務はありません。
後継者側も開業時点では過去2年間の売上実績がないため、消費税の納税義務は発生しません。
登録免許税
事業承継時の登録免許税は、不動産や株式の名義変更にかかる税金で、固定資産税評価額の0.4~2%程度が一般的な相場になります。
事業承継では会社の株式や事業用不動産を後継者に移転する際に登記手続きが必要となり、登録免許税が発生します。
税率は登記の種類によって異なり、相続や合併による所有権移転は0.4%、贈与や交換による移転は2%が基本税率となっています。
課税標準は固定資産税評価額(取引価格の約7割が目安)に基づいて計算されます。
専門家に事業承継を依頼する際の料金相場
専門家に事業承継を依頼する際の料金相場は、以下です。
専門家 | 料金相場 | 特徴 |
---|---|---|
税理士 | 100~1,000万円 | 業務範囲や会社規模により大幅に変動。株式評価のみなら数十万円 |
弁護士 | 50~数百万円 | 相談料・着手金・報酬金の組み合わせ。料金体系は事務所により異なる |
M&A仲介会社 | 数百万円~数千万円 | 複数の費用が段階的に発生。成功報酬が大きな割合を占める |
それぞれの費用について詳しく解説します。
税理士への報酬
事業承継を税理士に依頼する場合の報酬は、100~1,000万円程度が一般的な相場となっています。
事業承継の税理士報酬に大きな差が生じる理由は、依頼する業務の範囲や会社の規模によって作業量が大きく変わるためです。
株式評価のみの簡単な業務なら数十万円で済みますが、事業承継計画の策定や複雑な組織再編を伴う場合は高額になります。
業務別の費用相場
業務内容 | 費用相場 |
---|---|
自社株評価・相続税評価額算出 | 10~50万円 |
特例事業計画策定・認定支援機関申請 | 10~80万円 |
事業承継税制の手続き | 50~250万円 |
納税猶予の相続税申告書作成 | 10~20万円 |
事業計画書作成 | 50~100万円 |
総合的な事業承継サポート | 300~500万円 |
事業承継の税理士報酬は業務内容により大きく異なるため、事前に複数の税理士事務所から見積もりを取るようにしましょう。
弁護士への報酬
事業承継を弁護士に依頼すると、相談料・着手金・報酬金で合計50~数百万円の費用がかかります。
業務別の費用相場
業務内容 | 費用相場 |
---|---|
相談料 | 5,000円~2万円/時間 |
着手金 | 30万円~50万円 |
成功報酬 | 取引額の10%程度 |
利益300万円から3000万円程度の後継者への事業承継では、30万円から50万円程度が相場となっています。
M&Aによる事業承継では、売却価格5億円以下の場合に最大2500万円の報酬金が発生します。
M&A仲介会社への報酬
M&A仲介会社への報酬は複数の費用が組み合わさり、総額で数百万円から数千万円になることが一般的です。
事業承継を専門家に依頼する際は、相談から成約まで様々な段階で費用が発生するためです。
M&A仲介会社は長期間にわたってサポートを提供し、成功に向けて継続的な業務を行うことから、複数の料金体系を設けています。
M&A仲介会社の費用相場
費用 | 相場 | 発生タイミング |
---|---|---|
相談料 | 0~1万円 | 初回相談時 |
着手金 | 50~200万円 | 契約締結時 |
月額報酬 | 20~200万円/月 | 契約期間中の毎月 |
中間報酬 | 50~200万円 | 基本合意締結時 |
成功報酬 | 取引額の1~5% | M&A成約時 |
最低報酬額 | 500~2,500万円 | 成功報酬の最低金額 |
M&A仲介会社への報酬は段階的に発生し、特に成功報酬が大きな割合を占めます。
事前に料金体系を確認し、複数の会社から見積もりを取ることで、費用感を把握することができます。
事業承継の費用を抑える方法

事業承継の費用を抑える方法は、以下の通りです。
- 事業承継税制を活用する
- 株価引下げ対策
- 複数の業者の価格を比較検討する
それでは費用を抑える方法について解説していきます。
事業承継税制を活用する
事業承継税制とは、中小企業の経営者が後継者に事業を引き継ぐ際に、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税を猶予し、一定の条件を満たした場合には免除される制度です。
事業承継税制の概要
項目 | 一般措置 | 特例措置 |
---|---|---|
対象株式数 | 発行済議決権株式総数の3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与100%、相続80% | 100% |
後継者 | 筆頭株主である後継経営者1人のみ | 持ち株10%以上の後継経営者3人まで |
適用期限 | なし | 2027年12月31日まで |
特例承継計画の提出 | 不要 | 必要 |
雇用確保要件 | 5年平均で相続・贈与時の80%以上を維持 | 実質撤廃 |
事業承継税制を活用すれば、後継者が支払う相続税や贈与税を大幅に軽減できます。
特例措置を利用すれば、全株式に対して贈与税・相続税の納税が100%猶予されます。
従来の一般措置では対象株式数の上限が3分の2でしたが、特例措置では全株式が対象となり、猶予割合も100%に拡大されています。
事業承継の費用負担で悩む経営者は、2027年12月31日までの期限内に事業承継税制を検討することをおすすめします。
株価引下げ対策
事業承継の費用を抑えるには、株価引下げが効果的です。
事業承継では、後継者に多額の相続税や贈与税が課せられます。
中小企業でも数千万円から億単位の税金が発生するケースは珍しくありません。
株価が高いままでは、後継者が納税資金を用意できず、承継が困難になってしまいます。
株価引き下げる方法
方法 | 効果 |
---|---|
役員報酬の引き上げ | 利益・純資産の減少 |
役員退職金の支払い | 大幅な利益圧縮 |
配当金の引き下げ | 類似業種比準方式での株価低下 |
生命保険への加入 | 現金の減少効果 |
不動産の購入 | 現金資産の減少 |
株価引下げ対策は、計画的に実施することで事業承継の費用負担を大幅に軽減できます。
ただし、事業に悪影響を与えないよう、専門家と相談しながら適切な方法を選択することが大切です。
複数の業者の価格を比較検討する
事業承継では税理士や仲介会社など、さまざまな専門家への依頼が必要になります。
同じ手続きでも業者によって費用が大きく異なるため、事前に複数の業者の価格を比較検討して予算に適した業者を選択することが重要です。
まず、各業者の手数料体系を確認し、成果報酬型や完全報酬制など、料金システムの違いを理解することが大切です。
また、自分でできる手続きは自力で行い、専門的な手続きのみ専門家に依頼することでコストを削減する方法もあります。
事業承継の費用に関するよくある質問
事業承継の費用に関するよくある質問にお答えします。
- 事業承継の費用は誰が負担するのでしょうか?
- 事業承継の税金対策にはどのような方法がありますか?
- 事業承継時の資金調達方法は?
事業承継の費用や資金調達、税金対策について疑問をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
事業承継の費用は誰が負担するのでしょうか?
事業承継の費用は最終的に会社が負担することになります。
相続で株式を引き継ぐなら相続税、贈与なら贈与税が発生します。
しかし、後継者がこれらの税金を支払う資金は、会社から受け取る給与や配当が原資となります。
M&Aの場合でも、持株会社が株式を購入する資金は、会社が稼いだ利益から配当として支払われるお金です。
先代経営者が事前に資金を準備していても、結局は会社からの給与などを貯めたものであり、根本的な負担者は変わりません。
事業承継の費用負担は、表面上は後継者や持株会社が行いますが、資金の出所をたどると会社にたどり着きます。
事業承継の税金対策にはどのような方法がありますか?
事業承継における税金対策は、以下の通りです。
対策方法 | 効果 | 適用条件 |
---|---|---|
事業承継税制(特例措置) | 贈与税・相続税の100%納税猶予 | 特例承継計画の提出、雇用維持など |
生前贈与(基礎控除活用) | 年間110万円まで非課税 | 連年贈与に注意が必要 |
相続時精算課税制度 | 2,500万円まで税率20% | 60歳以上から18歳以上への贈与 |
事業承継税制の特例措置を活用すれば、承継する株式にかかる贈与税・相続税の全額が納税猶予の対象となります。
また、年間110万円の基礎控除を活用した生前贈与を計画的に行うことで、長期にわたって節税効果を得ることができます。
上記の対策を組み合わせることで、事業承継時の税負担を大幅に軽減できます。
事業承継時の資金調達方法は?
事業承継では、日本政策金融公庫の融資制度や信用保証協会の保証制度など、複数の資金調達方法があります。
調達方法 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」 | 事業承継に必要な設備資金・運転資金の融資 | 融資限度額14億4千万円、特別利率が適用 |
信用保証協会の保証制度 | 担保不足でも融資を受けやすくする保証 | 保証料の軽減や経営者保証の免除あり |
民間金融機関からの融資 | 一般的な銀行融資 | 審査基準は各金融機関により異なる |
事業承継・引継ぎ補助金 | 経営革新等に対する補助金 | 返済不要だが用途に制限あり |
事業承継ファンド | 投資家による資金提供と経営支援 | 資金提供と経営改善支援がセット |
後継者が自己資金だけでまかなうことは困難なケースが多く、専用の支援制度を活用することが重要になります。
まずは政府系金融機関の優遇制度を検討し、必要に応じて複数の方法を組み合わせることをおすすめします。
まとめ
事業承継には相続税や贈与税、登録免許税、専門家への報酬など、さまざまな費用や税金が発生します。
負担を軽減するためには事業承継税制の活用や株価引下げ対策、複数業者の費用比較など、計画的な準備が重要です。
補助金や優遇融資などの公的支援制度も積極的に活用することをおすすめします。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
事業承継では、税金や手続き、専門家への依頼といった多くの課題や費用が発生し、後継者にとっても大きな環境変化を伴います。
一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、事業承継や後継者問題でお悩みの経営者・企業オーナー様を総合的にサポートしています。
経営人材の紹介、サーチファンド、経営コーチング、各種専門家ネットワークによるワンストップ対応を通じて、後継者選定から資本の引き継ぎ、組織の成長・経営改善まで幅広く対応可能です。
事業承継や後継者対策でお困りの方は、ぜひ一度JPCAへご相談ください。