「地位承継とは?」
「地位承継のメリットは?」
地位承継とは、契約にともなう権利や義務を別の人に移すことです。
賃貸物件の名義変更やM&Aでの権利の引継ぎなど、私たちの身近な場面で活用されています。
- 経営権を維持したまま事業譲渡が可能
- 必要な資産・契約のみを選択して承継できる
- 譲渡側はリスク回避・節税効果が期待できる
今回は、「地位承継の3つのメリット・デメリット」や「地位承継を行う際の手順と注意点」などについて詳しく解説していきます。
これから事業譲渡や地位承継を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
地位承継とは
地位承継とは、契約にともなう権利や義務を別の人に移すことです。
賃貸物件の名義変更やM&Aでの権利の引継ぎなど、私たちの身近なところで活用されています。
地位承継が必要になる理由は、契約の主体を変更する際にトラブルを防ぐためです。
たとえば、会社の事業譲渡では、従業員との雇用契約や取引先との契約など、さまざまな権利義務関係を新しい事業主に移さなければなりません。
上記の手続きをしっかりと行わないと、誰が責任を負うのかあいまいになってしまいます。
このように、地位承継は、契約の主体を安全に変更するための重要な手続きです。
地位承継の3つのメリット

地位承継の3つのメリットは、以下の通りです。
- 経営権を維持したまま事業譲渡が可能
- 必要な資産・契約のみを選択して承継できる
- 譲渡側はリスク回避・節税効果が期待できる
それぞれのメリットについて紹介していきます。
経営権を維持したまま事業譲渡が可能
事業譲渡なら、経営権を手放さずに事業の一部だけを売却できます。
地位承継では、資産や負債、権利や義務を個別に引き継げるからです。
株式譲渡だと会社全体を丸ごと譲渡するので経営権も移ってしまいますが、事業譲渡では譲渡したい部分だけを切り出して売却できます。
会社の法人格はそのまま残り、売却した事業以外の経営権は完全に維持できます。
必要な資産・契約のみを選択して承継できる
地位承継を行うと、必要な資産や契約だけを引き継げます。
分類 | 具体例 |
---|---|
不動産関連 | 店舗の賃貸借契約 |
設備・機械 | 建設機械のリース契約 |
労働関係 | 従業員との雇用契約 |
取引先関係 | 販売契約・業務委託契約 |
金融関係 | 債権債務関係 |
知的財産 | 特許権・商標権 |
地位承継では、資産・負債や権利・義務を個別に譲受側に移転します。
株式譲渡のように企業全体を一括で承継するのとは異なり、譲渡側は経営権を維持しながら事業の一部を切り離すことができます。
また、譲受側は必要最低限の対価で事業のうち必要な部分のみを取得できるため、リスクを最小限に抑えながら事業拡張が可能です。
譲渡側はリスク回避・節税効果が期待できる
地位承継においては、譲渡側にとって重要なリスク回避と節税効果が期待できます。
地位承継によるリスク回避効果は、譲渡側が経営権を完全に手放すことなく、選択的に事業を切り離せることにあります。
また、事業譲渡で生じるのれんの償却により、5年間にわたって損金算入が可能となり、法人税の節税効果を得られます。
メリット | 内容 | 効果 |
---|---|---|
経営権維持 | 譲渡後も経営権を保持 | 役員報酬継続、生活不安軽減 |
中核事業集中 | 不採算事業の切り離し | 経営資源の最適配分 |
簿外債務回避 | 選択的譲渡により負債を除外 | 偶発的損失リスクの軽減 |
のれん償却 | 5年定額償却で損金計上 | 法人税の節税効果 |
投資資金確保 | 譲渡対価による資金調達 | 成長投資への資金確保 |
このように、経営権を維持しながらリスクを軽減し、税負担を抑えることで、より強固な経営基盤を構築することができます。
地位承継の3つのデメリット

地位承継にはデメリットも存在します。ここでは、代表的なデメリット3つとその背景をわかりやすく解説します。
- 事業にかかる負債が売り手に残ることがある
- 譲渡益課税など税負担が発生する
- 手続きが煩雑で時間やコストが大きい
事業にかかる負債が売り手に残ることがある
事業譲渡では負債が売り手に残る可能性が高く、譲渡後も借金の返済義務に悩まされることがあります。
事業譲渡では買い手が必要な資産や権利だけを選んで取得するため、売り手側に債務が残る仕組みになっています。
債務超過企業が事業譲渡を行う場合、事業だけを売却して債務だけが残る可能性があります。
また、事業譲渡契約そのものでは債務は引き継がれないため、個別に債務引き受け契約を結ぶ必要があり、譲受企業が買収対象外とみなした事業の債務はそのまま残ります。
さらに、事業譲渡で得た対価で借金を返せるかもしれませんが、債務超過から直ちに解消できるとは限りません。
譲渡益課税など税負担が発生する
地位承継における最大のデメリットは、譲渡側に重い税負担が発生することです。
特に事業譲渡では、株式譲渡と比較して税率が大幅に高くなるため注意が必要です。
税金の種類 | 税率 | 適用対象 |
---|---|---|
事業譲渡(法人税等) | 約30~40% | 譲渡益全体 |
株式譲渡(個人) | 20.315% | 譲渡益全体 |
法人税 | 約30% | 事業譲渡益 |
事業譲渡によって得た譲渡益に対して法人税が課税されます。
株式譲渡の場合は約20%の税率であるのに対し、事業譲渡では約30~40%の税率が適用されるため、譲渡側の税負担が格段に重くなります。
手続きが煩雑で時間やコストが大きい
地位承継における手続きの煩雑さと時間・コストの問題は、譲渡側にとって負担が大きいです。
なぜなら、地位承継では株式譲渡と異なり、資産・負債や契約などを一つずつ個別に移転する必要があるからです。
取引先が100社ある場合、100社分の契約書を作成し、それぞれから個別に同意を得なければなりません。
従業員についても、一人ひとりから承諾を得て労働契約を結び直す必要があり、その過程で説明に出向いたり交渉が難航することもあります。
地位承継を行う際の手順
事業譲渡は単に会社を売買するのではなく、契約や許認可などの権利を個別に移転する必要があるため、譲渡側にとって複雑な手続きとなるケースが多いです。
そのため、事前に適切な手順を把握しておくようにしましょう。
地位承継を行う際の手順
まず、どの事業を譲渡するかを明確に定めます。
対象となる資産・負債・契約関係・人員・許認可を網羅的にリストアップし、地位承継が必要な項目を漏れなく洗い出すことが重要です。
譲受企業との間で基本合意書を締結し、地位承継の対象契約を文書化します。
この段階で譲渡範囲を明文化しておくことで、後のトラブルを防げます。
譲受企業による詳細な調査が行われ、地位承継対象の契約や権利義務関係が精査されます。
地位承継に関する詳細な取り決めを含む事業譲渡契約を締結します。
事業譲渡の20日前までに株主への通知または公告を行います。
取引先や従業員など、契約の相手方から地位承継に関する個別の同意を取得します。
従業員については新たな雇用契約の締結が必要です。
業種によっては、譲受企業が監督官庁に地位承継届や許認可の再取得申請を行います。
最終的に、すべての権利義務を譲受企業に移転する手続きを完了させます。
例えば、店舗を賃借しているビジネスでは、賃貸借契約の賃借人としての地位を譲受企業に移転するため、賃貸人(大家)の承諾が不可欠です。
承諾を得られなければ、物理的に店舗を使い続けることができず、事業譲渡が成立しません。
このように、地位承継は法的手続きだけでなく、事業の存続を左右する経営上の重要事項となります。
地位承継を行う際の注意点

地位承継を円滑に進めるため、取引先や関係者に迷惑がかからないよう、次のことに注意しましょう。
- 契約ごとに取引先の承諾を得る必要がある
- 承継対象と非対象を明確にしておく
- 許認可やライセンスの取り直しが必要な場合がある
上記の注意点について紹介していきます。
契約ごとに取引先の承諾を得る必要がある
地位承継を行う際は、契約ごとに取引先から承諾を得ることが法的に義務付けられています。
地位承継には相手方の同意が必要であると民法第539条の2で定められています。
これは、契約内容次第では相手方の利益が著しく損なわれる可能性があるためです。
「この人とであれば」と締結した契約なのに、ある日突然相手方が変わる可能性があるとすると、契約社会が成り立たなくなるおそれがあることから、この規定が設けられました。
承継対象と非対象を明確にしておく
地位承継を行う際は、何を引き継ぐか・引き継がないかを事前に明確にしておくことが重要です。
曖昧にしておくと、後から大きなトラブルに発展する可能性があります。
事業譲渡では、株式譲渡と異なり個別に権利・義務を移転する必要があるためです。
すべての契約や権利が自動的に引き継がれるわけではなく、相手方の同意が必要な場合や、そもそも承継できない権利も存在します。
地位承継における対象区分
承継区分 | 項目 | 条件・注意点 |
---|---|---|
承継可能 | 事業用資産・負債 | 相続の場合のみ |
契約上の地位 | 相手方の同意が必要 | |
従業員との労働契約 | 個別の同意が必要 | |
承継不可 | 許認可 | 新たに取得手続きが必要 |
賃借権 | 賃貸人の同意が前提条件 | |
取締役の地位 | 一身専属権のため承継不可 |
このように承継の可否を明確にしておくことで、必要な手続きを漏れなく準備でき、地位承継を円滑に進めることができます。
許認可やライセンスの取り直しが必要な場合がある
地位承継を検討する際、最も注意すべき点は許認可やライセンスの取り直しが必要な場合があるということです。
事業譲渡では法人格が変わるため、許認可も原則として無効になってしまいます。
これは、許認可が特定の法人に対して与えられているためです。
株式譲渡では法人格が維持されるため許認可は引き継がれますが、事業譲渡では別法人への移転となるため、新規取得が必要となります。
許認可がなければ営業ができないため、地位承継と並行して申請を忘れずに行うことが重要です。
地位承継に関するよくある質問
最後に、地位承継にまつわるよくある質問に回答します。
- 地位承継と事業譲渡の違いは何ですか?
- 「地位承継」と「地位継承」は、どう違うのでしょうか?
- 地位承継を行う際は名義変更の手続きは必要ですか?
- 地位承継と事業譲渡の違いは何ですか?
-
地位承継と事業譲渡は全く違うものです。
地位承継は権利義務を移転する「手続き」であり、事業譲渡は事業を売買する「M&Aの手法」を指します。
事業譲渡を行う際には必ず地位承継の手続きが必要になります。
事業譲渡では個別の資産・負債・権利・義務を譲受企業に移転するため、契約ごとに地位承継を実施する必要があるからです。
一方、株式譲渡では法人格そのものが移転するため、原則として地位承継の手続きは不要です。
- 「地位承継」と「地位継承」は、どう違うのでしょうか?
-
「地位承継」は組織や事業などの法律が関わる抽象的なものを受け継ぐことで、主にM&Aや事業譲渡で使われます。
一方「地位継承」は、権利や財産などの具体的で有形なものを受け継ぐ際に使用されることが多いです。
具体例として、会社の経営権や営業許可を引き継ぐ場合は「地位承継」を使い、王位継承や伝統芸能の引き継ぎには「地位継承」という表現が適しています。
ただし、実際には両者の違いは曖昧で、同じ場面でも使い分けが明確でないケースも多く見られます。
- 地位承継を行う際は名義変更の手続きは必要ですか?
-
地位承継を行う際は名義変更の手続きが必要です。
地位承継とは、事業譲渡や相続、法人の合併・分割などにより、権利義務関係の主体を変更する手続きのことです。
この手続きでは、不動産や債権・債務といった様々な資産・負債・権利・義務を別の人に引き継ぐため、必然的に名義の変更が伴います。
まとめ
地位承継は、契約にともなう権利や義務を別の人に移転する重要な手続きであり、M&Aや事業譲渡において欠かせない仕組みです。
地位承継を検討されている方は、今回紹介した手順と注意点を参考に、まずは譲渡対象となる事業の範囲を明確に定義し、必要な契約や許認可のリストアップから始めましょう。
特に取引先への個別同意取得や許認可の再取得については、十分な時間を確保して準備を進めることが重要です。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
地位承継は、事業譲渡や事業承継における重要な手続きですが、その複雑さゆえに多くの企業オーナー様が課題を抱えています。
特に取引先からの個別承諾取得や許認可の再取得など、煩雑な手続きが必要となり、専門知識なしには進行が困難です。
一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、こうした地位承継を含む事業承継全般の課題を解決するために設立された専門機関です。
JPCAでは、経営人材の紹介やサーチファンド機能、経営コーチング、専門家ネットワークによる総合的な支援体制を整えており、地位承継の計画策定から実行までをワンストップでサポートいたします。
地位承継や事業承継でお悩みの方は、ぜひ一度日本プロ経営者協会までご相談ください。