「事業承継における弁護士の役割は?」
「事業承継を弁護士に依頼するメリットは?」
事業承継では経営権や資産の移転、契約書作成、トラブル対策など複雑な法的手続きが発生します。
弁護士は、株式や資産の承継サポート、契約書の作成・チェック、金融機関や取引先との交渉、M&Aや訴訟対応など幅広い役割を担います。
- 複雑な手続きや書類作成を任せて負担を減らせる
- トラブルや相続争い等のリスクを未然に防げる
- 法律の専門知識と経験に基づき承継方法や計画を提案してもらえる
これから事業承継を検討している方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営権や資産を後継者へ引き継ぐことです。
事業承継では、経営権・経営資源・物的資産という3つの要素を引き継ぎます。
経営者にとって会社は強い思い入れのある存在であるため、事業承継は「経営者の最後の大仕事」ともいわれています。
たとえば、親族に引き継ぐ親族内事業承継、社内の従業員に託す社内事業承継、M&A(合併と買収)による事業承継という3つの方法があります。
また、「事業継承」という似た言葉もありますが、中小企業庁では「事業承継」という表記が一般的に用いられています。
事業承継における弁護士の役割
事業承継における弁護士の役割は、以下の通りです。
- 株式・資産承継の法的サポート
- 契約書類の作成・確認
- 金融機関・取引先との交渉
- M&A・デューデリジェンスサポート
- トラブル対応・訴訟代理
上記の弁護士の役割について解説していきます。
株式・資産承継の法的サポート
事業承継では弁護士の法務サポートが必要不可欠です。
事業承継は株式譲渡契約書の作成、遺留分対策、個人保証の変更など、法律知識を必要とする手続きがたくさんあるためです。
また、親族間の相続トラブルや取引先との契約見直しなど、法的リスクを予測し対処することが重要になります。
たとえば、弁護士に依頼すると株式を後継者に集中させる種類株式の活用提案、金融機関との個人保証変更交渉、契約書の法的チェックなどをしてくれます。
さらに、M&Aによる事業承継では買収監査(デューデリジェンス)や譲渡先との条件交渉も代行してもらえます。
契約書類の作成・確認
弁護士は事業承継において、株式譲渡契約書や合意書などの作成および法的チェックを通じて、将来的なトラブルの原因を取り除きます。
たとえば、契約書のないまま承継を進めると、譲渡内容や責任範囲が不明確になり、後継者が経営に困難を抱える可能性があります。
M&Aにおいては、表明保証条項などの重要な約束事項で内容に不備があると紛争の原因になりかねません。
経験豊富な弁護士の関与により、法的リスクを最小限に抑え、安心して取引を進めることができます。
さらに、弁護士は依頼者の要望を反映させたオリジナルな契約書を作成し、企業ごとの状況に応じて法務面からリスクを洗い出します。
金融機関・取引先との交渉
事業承継において弁護士は、金融機関や取引先との交渉で経営者の心強い代理人となります。
具体的には金融機関との個人保証交渉があります。
現経営者が借入で個人保証をしている場合、弁護士は後継者の個人保証引き継ぎを避けるよう金融機関と調整します。
取引先との契約では、経営者交代に伴う契約条件の見直しや、突然の契約解除を防ぐための話し合いをサポートします。
M&Aの場合は、売り手と買い手双方の合意点を探しながら費用や運営方針の条件をすり合わせます。
M&A・デューデリジェンスサポート
弁護士は法律の専門家として、売り手企業が抱える法的リスクを内部情報をもとに精査し、法務デューデリジェンスを実施します。
具体的な作業としては、契約関係の確認、知的財産権の調査、訴訟・紛争の有無の確認、規制遵守状況の評価などがあります。
また、弁護士は金融商品取引法や独占禁止法などM&Aに関連する各種法規制の遵守状況を確認し、取引の適法性を判断します。
契約書の作成や修正、交渉の代理も重要な業務に含まれます。
トラブル対応・訴訟代理
事業承継では複雑な法律問題が発生するため、弁護士のサポートが必須です。
相続紛争や株主間のトラブルが起きると、事業承継が長期化し、会社経営に深刻な影響を与えるからです。
トラブル対応作業として、親族間の遺産分割協議の代理や株主間の紛争対応があげられます。
裁判になった場合は訴訟代理人として法廷で依頼者の利益を守り、調停や和解交渉も行います。
たとえば親族内承継では相続税対策で株式を贈与する際、他の相続人から異議が出るケースがよくあります。
このような場合、弁護士が間に入って各当事者の主張を整理し、円満な解決を目指します。
事業承継を弁護士に依頼する場合の費用相場
事業承継の弁護士費用は30万円~数百万円と大きく異なります。
依頼内容や法律事務所によって計算方式が違うからです。
一般的には「着手金・報酬金方式」が多く使われており、相談料・着手金・報酬金の3つで構成されています。
費用項目 | 相場 | 備考 |
---|---|---|
相談料 | 1時間あたり1万~3万円 | 30分無料の事務所もある |
着手金 | 30万円~ | 事業規模により大きく変動 |
報酬金 | 依頼内容・成果により変動 | 利益割合または総資産割合で算出 |
時間制料金 | 1時間あたり2万~5万円 | 作業時間に応じて計算 |
手数料制 | 業務ごとに設定 | 契約書作成等の個別業務 |
顧問料 | 月額10万~50万円 | 継続的サポートを受ける場合 |
たとえば、相談料は1時間あたり1万~3万円、着手金は30万円からスタートし、報酬金は事業承継の規模や成果によって決まります。
時間制(タイムチャージ)では弁護士の作業時間に応じて費用が発生し、手数料制では特定業務ごとに料金が設定されます。
このように費用体系を事前に確認することで、予算に合った弁護士選びが可能です。
事業承継を弁護士に依頼するメリット

事業承継を弁護士に依頼するメリットは、主に3つあります。
- 複雑な手続きや書類作成を任せて負担を減らせる
- トラブルや相続争い等のリスクを未然に防げる
- 法律の専門知識と経験に基づき承継方法や計画を提案してもらえる
それぞれのメリットについて紹介します。
複雑な手続きや書類作成を任せて負担を減らせる
事業承継を弁護士に依頼すれば、複雑な手続きや書類作成を任せて負担を大幅に軽減できます。
事業承継には会社法や相続法などさまざまな法律が関わるため、膨大な書類作成と複雑な手続きが必要です。
この作業を個人で行うと、経営者には時間的・精神的な大きな負担がかかります。
しかし弁護士に依頼することで、法的知識を必要とする煩雑な業務をすべて代行してもらえるのです。
弁護士が代行することにより、経営者は本業に集中でき、日常業務への影響を最小限に抑えることが可能です。
また、書類の不備や手続きのミスによる事業承継の遅延も防げます。
トラブルや相続争い等のリスクを未然に防げる
事業承継を弁護士に依頼することで、相続争いや各種トラブルを効果的に防ぐことができます。
- 親族間での相続争い
- 遺留分をめぐるトラブル
- 後継者選定に関する家族・役員間の対立
- 事業承継後の経営権争い
- 取引先や金融機関との契約関連トラブル
- 社内での後継者への反発
- 自社株式の評価・分配に関する紛争
- 個人保証の引き継ぎトラブル
- 事業用資産の相続における混乱
弁護士が関わることで、遺言書の作成支援や公正証書作成、財産目録の整備、契約内容の精査など、専門的なサポートを一つずつ得られます。
たとえば、後継者争いや株主間の紛争、従業員からの反発、会社資産の分散、相続人間の連絡不十分から起こる資産分配の混乱等を未然に防げます。
法律の専門知識と経験に基づき承継方法や計画を提案してもらえる
弁護士に事業承継の相談や依頼をすることで、専門知識と経験を活かした計画や承継方法を提案してもらえます。
複雑な書類作成や手続き、経営に関わるリスク、親族内でのトラブルなど多様な課題を円滑に乗り越えられることです。
たとえば、経営者が親族や従業員への承継方法で迷った場合や、株式や財産の分配、債務の引継ぎ手続きなど、弁護士は関係者間の調整から計画の策定、必要な手続きや交渉まで一貫してサポートします。
弁護士による全体的な見通しと実務的な支援があるため、安心して承継準備に取り組みやすくなります。
事業承継を弁護士に依頼する際の注意点

事業承継を弁護士に依頼する際の注意点は、以下の3つです。
- 弁護士に早めに相談を開始して準備期間を確保する
- 依頼する弁護士の事業承継分野での実績・専門性を確認する
- 他の専門家(税理士・会計士等)と連携できるか確認する
上記の注意点を解説していきます。
弁護士に早めに相談を開始して準備期間を確保する
事業承継を考え始めた段階から弁護士に早めに相談を始めることが重要です。
中小企業庁も「事業承継ガイドライン」で準備期間をしっかりとることをすすめており、必要な準備期間は後継者の育成も含めて5~10年とされています。
初期から弁護士に相談することで自社の課題も整理され、スムーズな事業承継につながります。
事業承継は数年かかる場合が大半なので、早めの動き出しが後悔しないコツになります。
事業承継を安心して行いたいなら、できるだけ早く弁護士相談を開始して十分な準備期間を設けてください。
依頼する弁護士の事業承継分野での実績・専門性を確認する
事業承継を弁護士に依頼する際には、その弁護士の事業承継分野での実績と専門性を必ず確認してください。
実績や専門知識が不足している弁護士に相談すると、複雑な事業承継手続きで思わぬトラブルやリスクが生じやすくなるからです。
- 事業承継の実績件数や解決事例を数字や内容で確認する
- 関連法律(会社法・相続法など)の知識と対応経験の有無
- 依頼する事業の業界・規模に近い成功事例があるか
- 税理士や他の専門家との連携経験
例えば、過去3年以内にどれくらいの事業承継案件を担当したか、会社法や相続法など幅広い法律知識を持っているか、業界特有の課題に対応した経験があるかなどを具体的に尋ねることが大切です。
また、ウェブサイトや相談時に解決事例・成功事例を公開しているか、税理士など他の専門家と連携しているかも重要なポイントです。
他の専門家(税理士・会計士等)と連携できるか確認する
弁護士に事業承継を相談する際には、税理士や会計士など他の専門家と連携できる体制が整っているか確認することが大切です。
事業承継の現場では法務・税務・財務など多様な分野の知識が必要だからです。
弁護士単独では税務や会計の詳細まで対応できません。
複数の専門家が組み合わさることで、自社のリスクや課題に幅広く対応しやすくなります。
弁護士に依頼するときは「税理士や会計士と柔軟に連携できるか」「実際に他士業と協力した実績があるか」などを面談時にしっかり確認してください。
事業承継を依頼する弁護士を選ぶポイント
事業承継を依頼する弁護士を選ぶ時は「事業承継の実績が豊富」「各分野の専門性」「他士業との連携力」が重要です。
選ぶポイント | 詳細 |
---|---|
実績 | 同規模・同業種の事業承継経験が豊富 |
専門性 | 相続・M&A・契約法務に精通している |
対応力 | 丁寧で早いレスポンス |
他士業との連携 | 税理士や会計士などと密接に連携 |
弁護士の過去の実績数や解決例(最低でも年間10件以上の経験)、自社と同じ業種の対応履歴、初回相談での説明力などを基準に確認します。
さらに、税理士や会計士など他の士業との連携体制があるかもポイントです。
長期的な関わりになるため、話しやすい雰囲気や親身になって考えてくれるかどうかも大事な判断基準です。
事業承継を弁護士に依頼する際のよくある質問
事業承継を弁護士に依頼する際によくある質問について、わかりやすくお答えします。
- MBOを検討する際は弁護士にはどのタイミングで相談すればよいですか?
- 未上場会社の持分会社の承継にも対応していますか?
- 事業承継支援センター、公的機関との連携は可能ですか?
MBO(マネジメント・バイアウト)や未上場会社の持分会社の承継など、事業承継を検討している方はぜひご参考にしてください。
MBOを検討する際は弁護士にはどのタイミングで相談すればよいですか?
MBOを検討する際は、MBOの実施を決定してから相談するのではなく、MBOを検討し始めた初期の段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
MBO(エムビーオー)とは、経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得することを指します。
早く相談すればするほど、手続き全体に潜むリスクやトラブルを事前に把握でき、適切な対策をとることができるからです。
MBOでは契約内容や利害関係者の調整、資金調達スキームの組み立てなど多くの法的課題が発生するため、準備段階で法律の専門家のアドバイスが有効です。
未上場会社の持分会社の承継にも対応していますか?
未上場会社の持分会社の承継にも、対応しています。
例えば持分会社では、亡くなられた社員の相続が問題となった場合、定款に退社に関する定めがなければ「持分払戻請求権」が相続の対象となります。
ただし、実際にどう分割されるかは古い判例により判断される点もあり、誤った手続きで大きなトラブルになることも多いです。
弁護士に依頼すれば、個別事情に合わせ、相続や承継の流れや必要な手続き、権利関係までサポートを受けることができます。
事業承継支援センターや公的機関との連携は可能ですか?
事業承継支援センターや公的機関との連携は可能です。
事業承継支援センターは国や自治体が設置した公的な相談窓口であり、他の公的機関、商工会議所、中小企業診断士、金融機関、弁護士会などと連携して、幅広く相談や支援体制を構築しているからです。
弁護士に事業承継を相談する際も、本人の承諾があれば各種支援センターや公的機関と効果的に連携できます。
まとめ
事業承継を弁護士に依頼することで、複雑な法的手続きや書類作成を代行してもらい、経営者の負担を大幅に軽減できます。
弁護士は株式譲渡契約書の作成、金融機関との個人保証交渉、M&Aのデューデリジェンス、相続争いなどのトラブル対応まで幅広くサポートしてくれます。
事業承継を検討している経営者の方は、まず早期の段階で弁護士に相談をしてください。
中小企業庁が推奨する5~10年の準備期間を確保し、複数の弁護士事務所で実績や専門性、費用体系を比較検討しましょう。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
事業承継は経営者にとって「最後の大仕事」とも言われる重要な課題です。
弁護士による法的サポートと合わせて、経営の専門家による支援も不可欠です。
日本プロ経営者協会では、豊富な経営経験を持つプロ経営者が、あなたの事業承継をトータルでサポートします。
親族内承継、社内承継、M&Aなど、どの承継方法が最適かの判断から、後継者の育成、経営体制の整備まで、実践的なアドバイスを提供いたします。
事業承継でお悩みの経営者様は、ぜひ日本プロ経営者協会までお気軽にご相談ください。