「事業承継対策が必要な理由は?」
「事業承継対策が必要な会社は?」
- 会社や事業の存続のため
- 後継者問題の解消のため
- 相続トラブルの回避のため
特に、後継者がいない会社、経営者の高齢化が進んでいる会社、相続人が複数いる会社は、早めに事業承継対策を検討する必要があります。
事業承継は5~10年の準備期間が理想とされており、専門家に相談しながら計画的に進めることが重要です。
今回は、「事業承継対策が必要な理由」や「事業承継対策の相談先」などについて紹介していきます。
監修者

代表理事
小野 俊法
経歴
慶應義塾大学 経済学部 卒業
一兆円以上を運用する不動産ファンド運用会社にて1人で約400億円程度の運用を担い独立、海外にてファンドマネジメント・セキュリティプリンティング会社を設立(後に2社売却)。
その後M&Aアドバイザリー業務経験を経てバイアウトファンドであるACAに入社。
その後スピンアウトした会社含めファンドでの中小企業投資及び個人の中小企業投資延べ16年程度を経てマラトンキャピタルパートナーズ㈱を設立、中小企業の事業承継に係る投資を行っている。
投資の現場経験やM&Aアドバイザー経営者との関わりの中で、プロ経営者を輩出する仕組みの必要性を感じ、当協会設立に至る。
事業継承対策とは
事業承継対策とは、企業が次の世代へとスムーズに経営を引き継ぐための計画的な取り組みです。
適切な対策を講じないと、後継者不在のまま経営者が引退し、企業が廃業に追い込まれるリスクが高まります。
また、相続税や贈与税の負担を減らすことで、リソースを事業に回せるメリットもあります。
具体的な対策としては、後継者の選定、自社株式対策の実施、暦年贈与による株式移転、事業承継税制や事業承継補助金の活用などがあります。
特に5年から10年前には準備を始めるのが理想的で、早期の計画立案と準備が重要です。
事業承継対策が必要な理由

事業承継対策が必要な理由は、以下の通りです。
- 会社や事業の存続のため
- 後継者問題の解消のため
- 相続トラブルの回避のため
それぞれの理由について紹介していきます。
会社や事業の存続のため
事業承継対策は、会社の存続を守るために絶対に必要な取り組みです。
経営者が突然退任すると、準備不足により会社が混乱し、事業が続けられなくなるリスクが高まるからです。
経営者が培ってきたノウハウや経営スキルを後継者に引き継ぐには、少なくとも数年程度の期間が必要になります。
また、後継者が経営に慣れるまでに時間がかかり、その間に経営判断が遅れて事業に悪影響が出る可能性もあります。
後継者問題の解消のため
昨今、少子高齢化や従業員の高齢化により、後継者がいないことが原因で後継者問題を抱える中小企業が増えています。
後継者が決まっていないまま経営者が突然引退や病気になってしまうと、会社の存続が危うくなってしまうからです。
家族や従業員、取引先にも大きな影響が及び、最悪の場合は廃業しなければならなくなることもあります。
たとえば、社内で後継者をじっくり育てたり、外部から新しいリーダーを迎えたりする方法があります。
どちらの場合も、経営の知識やノウハウを引き継ぐには時間がかかるため、早めの準備が必要です。
相続トラブルの回避のため
事業承継対策は相続トラブルを防ぐために必要不可欠です。
特に「だれが会社を引き継ぐのか」「資産や株式をどのように分けるのか」という点で親族間の意見が割れやすくなります。
具体的には、後継者に指名されなかった相続人が、後継者に対して遺留分侵害額請求を行うトラブルが頻発しています。
また、自社株など事業用資産が相続財産の大半を占める場合、遺産分割協議で遺族の争いに発展しやすいのです。
このような相続トラブルは企業内部だけでなく、社外にも影響を及ぼす可能性があります。
事業承継対策が必要な会社
どのような会社が事業承継対策を必要とするのでしょうか。
中小企業庁の調査データや専門家の見解を踏まえると、以下のような特徴を持つ会社が挙げられます。
- 後継者がいない会社
- 経営者の高齢化が進んでいる会社
- 相続人が複数いる会社
後継者がいない会社
後継者がいない会社は、早急に事業承継対策を検討する必要があります。
2024年の調査によると日本の中小企業の52.1%が後継者不在の状態にあり、適切な対策を講じないと廃業リスクが高まるためです。
少子高齢化の影響で親族内に後継者候補が減少し、子どもが事業を継がないケースが増えています。
後継者不在の問題は、企業の廃業や技術・ノウハウの消失につながる深刻な課題です。
早期に専門家に相談し、5~10年をかけて計画的に事業承継対策を進めることが重要です。
経営者の高齢化が進んでいる会社
中小企業の経営者の平均年齢は60.5歳となり、過去最高を更新しています。
経営者年齢のピークも、この20年間で50代から60~70代へと大きく上昇しました。
高齢化が進む一方で、後継者不在の状況は深刻であり、近年増加する中小企業の廃業の大きな要因となっています。
経営者の高齢化は避けられない現実ですが、計画的な準備により円滑な事業承継が可能になります。
相続人が複数いる会社
複数の相続人がいると株式や資産の分配でトラブルが発生しやすく、会社の経営に支障をきたす恐れがあります。
具体的には、複数の相続人で株式を相続すると株式が分散してしまい、会社の方針をめぐって株主の間で意見が対立し、経営の安定が保てなくなる可能性があります。
また、株式や不動産などの資産は価値の評価が難しいため、話し合いであらかじめ納得のいく形を取り決めておく必要があります。
このような相続トラブルは事業承継がスムーズに進まない原因となるため、自社の資産についてしっかり把握し、資産を公平に分配するための対策を講じることが大切です。
事業承継の方法
事業承継の方法は大きく分けて3つあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
方法 | 対象者 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
親族内事業承継 | 配偶者・子ども・甥姪など | ・関係者から受け入れられやすい ・早期から後継者教育が可能 ・財産移転がしやすい | ・後継者候補の意思や能力に左右される ・複数候補がいる場合の調整が必要 |
親族外事業承継(社内承継) | 役員・従業員など | ・幅広く後継者を探せる ・業務に精通している | ・資金面の問題がある ・どの会社でも使える方法ではない |
M&Aによる事業承継 | 第三者企業 | ・資本力のある会社に任せられる ・近年脚光を浴びている方法 | ・企業文化の違いによる摩擦 ・従業員の雇用の不安 |
従来は親族内での承継が主流でしたが、少子化や価値観の変化により、親の後を継ぐ子どもが著しく減りました。
そのため、現在では多様な選択肢から最適な方法を選ぶ必要があります。
このように、事業承継の方法は会社の状況や後継者の有無によって選択肢が変わるため、早めの準備と専門家への相談が成功のポイントとなります。
事業承継対策の相談先

事業承継対策の相談先は、以下の通りです。
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工会・商工会議所
- 税理士・公認会計士
- M&A仲介会社・経営コンサルティング会社
それぞれの相談先の特徴と支援内容について解説していきます。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、経済産業省から委託を受けた公的機関で、事業承継に関するあらゆる悩みを無料で相談できる窓口です。
全国47都道府県に設置されており、親族内承継から第三者承継まで、ワンストップで支援を受けることができます。
支援内容 | 詳細 |
---|---|
無料相談 | 事業承継に関するあらゆる相談に対応 |
専門家派遣 | 中小企業診断士などの専門家を派遣 |
マッチング支援 | 後継者バンクを活用した譲受候補企業の紹介 |
承継計画策定 | 事業承継計画の作成支援 |
実際に、これまで約25,000社の相談実績があり、そのうち7割近くが第三者への事業承継サポートとなっています。
商工会・商工会議所
商工会・商工会議所をおすすめする理由は、無料で相談できる上に、地域に密着したきめ細やかなサポートを受けられるからです。
事業承継診断の実施や専門機関の紹介・斡旋、事業承継の準備や事業承継後のフォローなど、幅広い支援を行っています。
また、経営指導員が巡回指導などを通じて、中小企業・個人事業主の経営サポートを継続的に提供しているため、長期的な視点で相談できる点も魅力です。
項目 | 商工会 | 商工会議所 |
---|---|---|
対象地域 | 主として町村の区域 | 原則として市の区域 |
会員数 | 約81.2万人 | 122万人 |
拠点数 | 約1,650か所 | 約510か所 |
小規模事業者の割合 | 9割を超える | 約8割 |
商工会・商工会議所では、後継者塾の開催、各種セミナーの実施、中小企業や小規模事業者の相談対応を行っています。
後継者塾では、事業承継の専門家によって事業を引き継ぐための基礎知識を学ぶことができ、現在はオンラインでの開催も増えています。
税理士・公認会計士
事業承継対策で相談先に悩む場合、まず「税理士」や「公認会計士」に相談するのが最適です。
税理士は税金や自社株評価、贈与・相続の節税対策に強く、公認会計士は財務分析や企業価値評価、M&A時のデューデリジェンスなど会計分野の専門家だからです。
専門家 | 得意分野 | 具体的なサポート例 |
---|---|---|
税理士 | 税務・自社株評価 | 節税対策・税制適用・書類作成 |
公認会計士 | 会計・財務分析 | 企業価値評価・M&A支援 |
両者とも、経営者や家族の状況をよく知っている場合が多く、事業承継の全体像を把握しやすい特徴があります。
税金や会計の専門知識を活かし、状況に応じて最適な方法や他士業の紹介もしてくれるため、安心して事業承継を進められます。
M&A仲介会社・経営コンサルティング会社
M&A仲介会社は、外部への事業売却を検討している場合に特に有効です。
広範囲から買い手候補を探せるため、親族内承継や社内承継では解決できない後継者問題を解決できる可能性が高まります。
一方、経営コンサルティング会社は事業承継の悩みを丸ごと相談でき、承継後の経営についてもサポートしてもらえます。
相談先 | 主なサポート内容 | メリット |
---|---|---|
M&A仲介会社 | M&A候補先の選定、進め方、デューデリジェンス支援、契約書類作成 | M&Aの知識と実績が豊富 |
経営コンサルティング会社 | 事業承継計画策定、後継者選定・育成、承継後の経営サポート | 事業承継を包括的に支援 |
経営コンサルティング会社では、現状把握のヒアリングから始まり、自社株式の評価、承継計画の策定、後継者育成、実際の承継実施まで段階的にサポートしています。
また、弁護士や税理士などの専門家も在籍しており、財務・法務面でのリスク回避についても専門的なアドバイスを受けられます。
事業承継対策に関するよくある質問
事業承継対策に関するよくある質問をまとめました。
- 事業継承で株価を下げる対策は?
- 事業承継対策はなぜ早いほど良いと言われるのでしょうか?
- 事業承継対策を実施する際の注意点は?
事業継承で株価を下げる対策は?
事業承継で株価を下げる対策は、相続税や贈与税の負担を軽くするために必要不可欠です。
非上場企業の株式は想像以上に高く評価されることが多く、後継者が多額の税金を支払わなければならない事態に陥るからです。
株価を下げる対策
対策方法 | 効果 | 注意点 |
---|---|---|
役員報酬の引き上げ | 会社の利益や純資産を減らす | 適正範囲内で設定する必要がある |
役員退職金の支給 | 利益と純資産を大幅に圧縮 | 功績に見合った金額である必要がある |
配当金の引き下げ | 類似業種比準方式での評価額を下げる | 株主への説明が必要 |
生命保険の活用 | 保険料支払いで利益を下げる | 2019年の税制改正で効果が限定的 |
不動産購入 | 純資産価額方式での評価を下げる | 事業に必要な範囲内で検討 |
高収益部門の分社化 | 将来の利益蓄積を防ぐ | 経営効率も考慮する必要がある |
上記の対策を組み合わせることで、事業承継時の税負担を大幅に軽減できます。
事業承継対策はなぜ早いほど良いと言われるのでしょうか?
事業承継対策が早ければ早いほど良いとされるのは、準備に長期間が必要で、突然の事態に備える必要があるためです。
事業承継には5年から10年の準備期間が必要とされています。
後継者の育成だけでも数年単位の時間がかかり、法務面や税務面の対策も含めると、短期間では対応できません。
早期に対策するメリット
メリット | 詳細 |
---|---|
後継者選定の時間確保 | 適切な候補者を慎重に選べる |
後継者育成の充実 | 経営ノウハウを段階的に伝承できる |
老々承継の回避 | 経営者・後継者双方の高齢化を防げる |
急病・急逝への備え | 万が一の事態にも対応可能 |
節税対策の実施 | 生前贈与や株価引下げ等を計画的に進められる |
このように、事業承継対策は早ければ早いほど多くのリスクを回避でき、会社の未来を守ることにつながります。
「まだ早い」と思わず、できるだけ早めに準備を始めることが大切です。
事業承継対策を実施する際の注意点は?
事業承継対策を実施する際の注意点は、以下です。
注意点 | 理由・内容 |
---|---|
早めの計画 | 後継者育成や資産整理に時間がかかるため、余裕を持って進める |
関係者への説明 | 従業員・取引先の理解を得て、トラブルを防ぐ |
税金対策 | 株式や資産の移転に伴う税金負担を事前に把握・対策する |
たとえば、後継者が突然決まっても十分な教育や実務経験がなければ、経営がうまく回らなくなることがあります。
また、従業員や取引先に事前に知らせておかないと、不信感や不安が生まれることもあります。
具体例としては、まず後継者を決めたら5~10年かけてじっくり育てることが必要です。
その間に、株式や資産の整理、税金対策も進めておきます。
さらに、従業員や取引先には早めに事業承継の内容を伝え、理解を得ることも大切です。
まとめ
事業承継対策とは、企業が次世代へ経営を円滑に引き継ぐための計画的な取り組みです。
後継者不在や経営者の高齢化、相続トラブルなどのリスクを回避し、会社の存続を守るために不可欠です。
今回紹介したポイントを踏まえ、まずは自社の現状を把握し、できるだけ早く事業承継対策の準備を始めてください。
後継者の選定や育成、資産や株式の整理、税金対策など、段階的に計画を進めることが重要です。
迷った場合は、事業承継・引継ぎ支援センターや税理士などの専門家へ相談し、最適な方法を一緒に検討しましょう。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
日本では中小企業の52.1%が後継者不在の状態にあり、経営者の高齢化も深刻化している中で、多くの企業が事業承継の課題に直面しています。
一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、後継者問題や事業承継に悩む企業オーナー様をサポートするために設立されました。
JPCAは、プロ経営者の輩出とマッチングを通じて、企業の成長と持続的な発展を支援しています。
JPCAでは、経営人材の紹介やサーチファンド機能、経営コーチング、専門家ネットワークによる総合的な支援体制を整えており、後継者選定から資本の承継、経営改善までワンストップでご相談いただけます。
事業承継や後継者問題でお悩みの方は、ぜひ一度日本プロ経営者協会までご相談ください。