「持株会社を活用した事業承継とは?」
「事業承継に持株会社を活用するメリットは?」
持株会社を活用した事業承継とは、後継者が新設した持株会社に金融機関から融資を受けさせて、現経営者から株式を買い取る手法です。
上記のスキームでは、以下のメリットがあります。
- 株式の分散を防止できる
- 後継者の経済的負担を軽減できる
- 節税効果が期待できる
- 先代経営者が譲渡益を得られる
- 新事業や経営革新がしやすくなる
今回は、「持株会社を活用した事業承継の仕組み」や「事業承継で持株会社を活用する手順」などについて詳しく解説していきます。
これから事業承継を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
持株会社を活用した事業承継について
事業承継における新たな選択肢として、持株会社を活用した手法が注目されています。
以下では、持株会社を活用した事業承継について解説していきます。
持株会社とは
持株会社とは他の会社の株を持って、その会社を管理する会社のことです。
持株会社は子会社の株を持つことで、グループ全体の経営戦略を決める権限を持ちます。
この仕組みにより、経営と事業を分けることで、それぞれに専念できるようになります。
持株会社には「純粋持株会社」と「事業持株会社」があります。
純粋持株会社は自分では事業を行わず、子会社の管理だけをする会社です。
一方、事業持株会社は自分でも事業をしながら、子会社の管理もする会社です。
有名な例では、「○○ホールディングス」という名前の会社が純粋持株会社にあたります。
持株会社を活用した事業承継
持株会社を使った事業承継では、後継者がお金の心配をせずに経営権を手に入れられるうえ、先代の経営者も現金を得られるためお互いにメリットがある方法です。
後継者が新しく設立した持株会社が金融機関からの融資を受けて、現在の経営者から株式を買い取るためです。
現経営者は株式の売却で現金を手にでき、後継者は借入をしながらも、間接的に経営権を取得できます。
そして持株会社は、子会社になった元の会社からの配当金を使って借入金を返済していく流れになります。
建設会社を経営しているA社長が70歳になり引退を考えているケースでは、娘さんが持株会社を設立して金融機関から1億5000万円を借り入れ、A社長から建設会社の株式をすべて買い取ります。その後、子会社となった建設会社からの年間配当金2200万円を使って、持株会社が借入金を段階的に返済していく仕組みになります。
このように持株会社を活用すれば、資金力の乏しい後継者でも、会社を引き継ぐことができます。
事業承継に持株会社を活用する5つのメリット

事業承継に持株会社を活用する5つのメリットは、以下です。
- 株式の分散を防止できる
- 後継者の経済的負担を軽減できる
- 節税効果が期待できる
- 先代経営者が譲渡益を得られる
- 新事業や経営革新がしやすくなる
それぞれのメリットについて紹介していきます。
株式の分散を防止できる
事業承継における持株会社活用では、株式の分散を効果的に防ぐことができます。
株式分散を防げる理由は、持株会社が事業会社の株式を一括して保有する仕組みにあります。
通常の相続では、複数の相続人がいる場合、後継者以外にも株式が分散してしまい、経営権が不安定になる問題があります。
しかし持株会社を活用した場合、先代経営者が手放した株式は現金化されて相続財産となり、株式そのものは持株会社に集約されるため、後継者以外の相続人に株式が渡ることを防げます。
後継者の経済的負担を軽減できる
持株会社を活用した事業承継では、後継者に大きな経済的メリットがあります。
個人での事業承継と比べて、持株会社では法人が株式を買い取るため、後継者個人に税負担が発生しません。
また、持株会社は子会社からの配当金を返済原資として使えるため、金融機関からの融資を受けやすくなります。
銀行は配当金を返済の財源として評価するため、資金調達がスムーズに進みます。
節税効果が期待できる
事業承継で持株会社を活用すれば、大幅な節税効果を得られます。
持株会社に株式を譲渡することで、相続税や贈与税ではなく譲渡所得税の対象となるためです。
相続税や贈与税は累進課税で最高55%の税率になりますが、株式の譲渡所得税は一律20.315%しかかかりません。
たとえば、5億円の株式を引き継ぐ場合、相続であれば最大2億7,500万円の税金がかかる可能性がありますが、持株会社を使えば約1億円程度に抑えられます。
先代経営者が譲渡益を得られる
事業承継で持株会社を活用するメリットの一つは、先代経営者が確実に譲渡益を確保できることです。
持株会社を設立して事業承継を行う場合、先代経営者は自社株式を持株会社に売却するため、手元に現金が残ります。
従来の相続や贈与による事業承継では先代経営者に利益は発生しませんが、持株会社を活用すれば株式譲渡による売却益を得られるのです。
株式の譲渡益は個人の資産として自由に活用でき、退職後の生活資金や新たな事業の立ち上げ資金に充てることができます。
自社株として保有したままでは現金化しにくいため、手元に現金を増やす有効な手段となります。
新事業や経営革新がしやすくなる
事業承継に持株会社を活用すると、新事業や経営革新が格段に進めやすくなります。
傘下にある複数の会社同士が連携することで、時間とコストを大幅に節約しながら新たな事業展開が可能になるためです。
従来の事業承継では、一つの会社が単独で新事業に取り組む必要がありましたが、持株会社体制では、各子会社が持つ技術やノウハウ、人材を効率的に組み合わせて活用できます。
事業承継で持株会社を活用する手順
事業承継で持株会社を活用する手順は、以下の通りです。
後継者が100%出資して新会社を設立します。
後継者が全株式を保有することで、議決権が完全に後継者に帰属し、安定した経営権の移譲が実現できます。
持株会社が銀行から融資を受けて株式買取資金を調達します。
個人より法人の方が融資を受けやすく、事業会社の業績が良ければ借入も可能です。
調達した資金で現経営者の保有株式を持株会社が買い取ります。
これにより持株会社と事業会社の完全親子関係が成立します。
株式に譲渡制限がある場合は、取締役会または株主総会で承認請求を行います。
中小企業では第三者による買収防止のため譲渡制限が設定されていることが多いためです。
重要な財産の取得として持株会社の取締役会で承認手続きを行います。
取締役会がない場合は取締役の過半数の同意が必要です。
事業会社からの配当金を原資として金融機関への返済を進めます。
安定的な配当支払いのため、後継者は事業経営を軌道に乗せる必要があります。
持株会社を活用した事業承継は、資金調達の負担を軽減しながら確実な経営権移譲を実現する有効な手法です。
上記の手順を踏むことで、スムーズな事業承継が可能になります。
事業承継で持株会社を活用する際に注意すべきこと

以下では、事業承継で持株会社を活用する際に注意すべきことを3つ紹介します。
- 配当金が少ないと融資の返済が滞ることがある
- 譲渡益に税金がかかる
- 株式保有特定会社に注意する
各項目を確認し、無理のない返済計画や税務面の最適化につなげるための判断材料として役立ててください。
配当金が少ないと融資の返済が滞ることがある
持株会社スキームでは子会社からの配当金が返済原資となるため、業績悪化により配当が少なくなると、金融機関への返済が困難になる可能性があります。
借入金の返済は主に子会社(承継会社)からの配当金に依存するため、子会社の経営状況が持株会社の返済能力を左右します。
子会社の売上低迷や利益減少により配当金が減ると、元金・利息の支払いが滞り、最悪の場合は債務不履行に陥るリスクが高まります。
配当金減少リスクを回避するためには、子会社の将来収益を保守的に見積もり、複数のシナリオを想定した返済計画を策定することが不可欠です。
譲渡益に税金がかかる
株式売却によって利益が発生した場合、その譲渡益に対して20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金が課されることになります。
譲渡益の計算式は「売却価格-取得費-売却手数料」となっており、元の株式取得価格より高く売却できた差額部分に税金がかかります。
例えば、株式の取得費が1,000万円、売却価格が5,000万円の場合、譲渡益は4,000万円となり、約812万円の税金が発生します。この税率は売却額に関係なく一律であるため、高額な株式売却になるほど大きな負担となります。
さらに、法人への株式売却は、相続税評価額ではなく時価での取引となるため、一般的には相続税評価額より高い評価になる場合が多いのです。
株式保有特定会社に注意する
株式保有特定会社とは、総資産のうち50%以上が株式等で占められている会社を指します。
上記に該当すると、株式の評価方法が変更され、株価が高くなってしまいます。
持株会社を設立した目的である節税効果が失われるだけでなく、逆に税負担が重くなる可能性があるためです。
持株会社が総資産1億円を持っているとします。そのうち6,000万円が株式であれば、株式保有割合は60%となり、株式保有特定会社に該当してしまいます。
上記を避けるには、持株会社で不動産を購入するなどして株式保有割合を50%未満に抑える対策が必要です。
持株会社を用いた事業承継に関するよくあるご質問
持株会社を用いた事業承継に関するよくあるご質問にお答えします。
- ホールディングス化すると株価が下がると言われるのはなぜですか?
- 持株会社とホールディングス会社の違いは何ですか?
- 持株会社を通じて事業承継する際の税務リスクはどのようなものがありますか?
- ホールディングス化すると株価が下がると言われるのはなぜですか?
-
ホールディングス化すると株価が下がる仕組みは、「法人税等相当額37%控除」が適用されるからです。
非上場株式を純資産価額方式で評価する際、子会社株式の含み益に対して37%の控除が適用されます。
現在1億円の株式が10年後に11億円になった場合を考えてみましょう。
そのまま保有していれば11億円に対して相続税がかかりますが、ホールディングス化すると含み益10億円の37%(3.7億円)が控除され、7.3億円の評価となります。これにより、3.7億円分の株価上昇を抑制できることになります。ホールディングス化は法人税等相当額の控除と評価方式の変更によって、株価の上昇を抑えられる対策です。
- 持株会社とホールディングス会社の違いは何ですか?
-
持株会社とホールディングス会社は同じものです。
「ホールディングス」とは、持株会社を英語で表現した「ホールディングス(Holdings)」から来ており、実質的な意味に違いはありません。
持株会社とホールディングス会社は単なる呼び方の違いであり、事業承継を検討される際は、どちらの用語を使っても同じ制度を指していることを理解しておけば問題ありません。
- 持株会社を通じて事業承継する際の税務リスクはどのようなものがありますか?
-
持株会社を通じた事業承継の税務リスクは、以下です。
税務リスク 内容 譲渡所得税の発生 先代経営者が株式を持株会社に売却する際に20%程度の課税がある 事業承継税制適用外のリスク 後継者が資産管理会社に該当すると判断されると適用されない 税務署からの指摘 節税目的のみの持株会社化と判断されると問題視される 配当金不足による返済リスク 子会社の業績悪化で配当金が減少すると融資返済が困難になる 先代経営者が1億円で株式を売却した場合、約2000万円の譲渡所得税が発生します。
また、節税目的が明らかすぎると税務署から「不当な株価操作」として指摘を受け、追徴課税のリスクもあります。
株式移転時には譲渡益に対する課税は避けられず、事業承継税制の優遇措置も受けられない場合が多いです。
まとめ
持株会社を活用した事業承継は、後継者の資金負担を軽減しながら、先代経営者も譲渡益を得られる画期的な手法です。
従来の相続や贈与による承継と比べて、株式の分散防止、大幅な節税効果(相続税最高55%→譲渡所得税20.315%)、金融機関からの融資を活用した経営権移譲などの大きなメリットがあります。
今回紹介した持株会社スキームのメリットと注意点を踏まえ、まずは自社の状況に適用可能かどうかを専門家と相談して検証してみましょう。
特に、子会社の将来収益予測、必要な融資額の算定、税務面でのシミュレーションを行い、複数のシナリオを想定した綿密な事業承継計画を策定することが重要です。
後継者問題・事業承継は日本プロ経営者協会にご相談ください
持株会社を活用した事業承継は、資金調達の負担軽減や節税効果など多くのメリットがある一方で、配当金の確保や税務リスクの管理など、専門的な知識と慎重な計画が不可欠です。
一般社団法人日本プロ経営者協会(JPCA)は、こうした持株会社スキームをはじめとする事業承継の課題に悩む企業オーナー様をサポートするために設立されました。
JPCAでは、経営人材の紹介やサーチファンド機能、経営コーチング、専門家ネットワークによる総合的な支援体制を整えております。
後継者の経済的負担を軽減しながら確実な経営権移譲を実現したい方、株式分散防止や節税効果を最大化したい方は、ぜひ一度日本プロ経営者協会までご相談ください。